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音楽
2016/12/31 18:00

佐良直美「ひとり旅」で表現したトランスヴェスタイトによる男歌の世界

ギャランティーク和恵の歌謡案内「TOKYO夜ふかし気分」第6夜

みなさんこんばんは、ギャランティーク和恵です。年の瀬もかなり迫ってまいりましたが、このコラムを読まれてる頃は皆さん何をやってるのかしら…。大掃除? しめ飾りを飾っている? それとも年越しそばを作ってたり? いや、それだったらいいのですが、もしワタシがこのコラムの締め切りに間に合わせられなくて、新年を迎えた後の掲載になっちゃったらどうしましょう……。そんな時のために早速ですがみなさん、新年明けましておめでとうございます!! ……いやダメダメ、今年中にちゃんと頑張ってコラム書き上げます。せめて大晦日までには……。

 

ワタシのお店の話ばっかりで恐縮なんですが、新宿ゴールデン街に開いている「夜間飛行」では、毎年大晦日に<リアル紅白歌合戦を観る会>という名目の年越しイベントをユルく開催してます。普段、店内では録画した昔の歌番組なんかの映像がブラウン管から364日ずっと流れ続けてるので、まるでウチの店が外界から遮断されて現代の情報が入ってこないんだと思い込まれてるお客様も多いのですが、一応、地デジもちゃんと導入されてまして、年に一度の大晦日だけ、夜間飛行はチャンネルを地デジに合わせて現代とコネクトしているのです。そして、なかなか故郷に帰ることの出来ない人たちや、1人で年越しをするハメになった淋しい人たちのために、あったかい鍋や年越し蕎麦をご用意して、一緒に紅白歌合戦をあーでもないこーでもないとツッ込みながら新年を迎えています。

 

ここ数年の紅白歌合戦は、総合司会にNHKのアナウンサーがいらっしゃって、白組司会は出演する歌手、紅組司会はその年に活躍された女優、というパターンが多く見られますが、ワタシの好きな70年代では、総合司会と白組司会にNHKアナウンサー、そして紅組司会に出演する女性歌手、というパターンでした。とりわけこの時期の紅組の歌手兼司会で多く起用されたのは佐良直美(さがらなおみ)さんでした。そう、彼女は今の時代でいう「嵐」のような存在だったわけです。

 

【今夜の歌謡曲】

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06.「ひとり旅」佐良直美
(作詞/吉田 旺 作曲/浜 圭介)

 

同じく佐良直美さんと時々入れ替わりのように司会を務めてらしたのが水前寺清子さん(通称:チータ)。佐良さんの口調には、女性軍の柱となるような頼り甲斐のあるズシっとした重みがあり、チータの口調には、男性軍を煽り攻め入るような男勝りでチャキチャキとした軽快さがあり、どちらも見ていて心地いい名司会者でした。これこそ歌合戦だ! という白組男性軍との掛け合いも見ものです。白組の山川静夫アナのヒラリヒラリとかわすオシャレでイジワルなダジャレ交じりの返し文句もまた素晴らしいのですが。そんな頼り甲斐のある司会者を柱に、歌手たちは安心して大舞台で歌を歌っているような印象があります。そんな頼りにされる司会者(当時の言い方だと「キャプテン」)ですから、本人の歌の出番となると、それはもう紅組歌手ほぼ全員で取り囲むように応援するわけです。

 

佐良直美さんがそこで見せるパフォーマンスは9割ほどが「男性装」(もしくはそれに近いスタイル)で歌うことが多く、例えば77年のエルヴィス・プレスリー追悼として歌った「ラヴ・ミー・テンダー〜ハウンド・ドッグ」なんかでは、きっとこういう格好したかったんだろうなぁ〜、と思えるくらい生き生きと歌っています。このような、女性が男性の服装を好んだり、男性が女性の服装を好んで着ることを「トランスヴェスタイト(異性装)」と言うのですが、かく言うワタシも女装をして歌ってますので、これもいわゆる「トランスヴェスタイト」です。そうやって「装う性別」を変えることで、より発揮される才能や解放される力というものがあり、ここ近年はそういった「トランスヴェスタイト」の方がいろんな分野で活躍しているのを見られるようになってきました。

 

でもあまり女性のトランスヴェスタイトの方は多く見られないんですよね。何故なら、やはり世の中はまだ男性社会ですから、男性装をした女性というは男性を威嚇しているようなもので、男性はあまりいい思いはしません。ならばと結局女性は女性らしく、という社会にどうしてもなってしまってます。が、しかし紅白歌合戦ならばどうでしょう。男性軍と女性軍という戦いとして、もし色気のあるお淑やかな女性をキャプテンとして矢面に立たせても、それはただの「色気」にしかならず、戦うムードは作れません。しかしここで色気を排除した(いや、色気はちゃんとあるのですが、キャラとして)男勝りな女性を「標的」に見立てれば、堂々と男性も女性に対して気兼ねなく攻撃できる、という構図が作れるわけです。特に白組と紅組の競争ムードが強かった昔の紅白歌合戦ならではのことでもあります。そこで見事にその役割を担ったのが、水前寺清子さんと、そして佐良直美さんでした。

 

彼女の紅白出場での数ある名演の中でも特に好きなのは、1976年に「ひとり旅」という曲を歌ったときの回です。ジーンズにウェスタンシャツ、テンガロンハットというルックで、どこかの馬小屋を意識したようなセットの中(歌の内容とは全然関係ない)、牧歌的なムードで歌う佐良さんを紅組歌手が総出で取り囲み、アニキを慕うように応援する光景が、なんとも微笑ましく優しさに包まれているのです。佐良さんも肩の力が抜けてるような感じでリラックスしながら歌っています。普通は男性が演じるであろうそんな歌世界を女性が男性装で歌う姿に滑稽さはなく、むしろ彼女にふさわしい性別としてそこに成立しているのです。

 

しかし、1980年にスキャンダルが報じられ、レズビアンとしての疑惑をかけられてしまいます。それから以降の紅白歌合戦の出場はなく、そのまま彼女は芸能界からフェードアウトしていきました。真偽は定かでないにしろその報道が与えたイメージにより、彼女が芸能界(社会)で活動するためにとっていた「バランス」が崩れてしまったのかもしれません。「ひとり旅」を歌っているときの、あの何とも説明のつかない、性別や関係性や何やらを超えて成り立っている、あの感じ……。その説明のつかないものこそが表現だし、それが生み出せてた稀有な方だと思います。こんな才能のあるひとりの歌手を、あんなくだらない報道をきっかけに見たり聴いたりすることができなくなったのはとても残念でなりません。

 

さぁ!今年の紅白歌合戦はどんな歌のステージが繰り広げられるんでしょうね。夜間飛行のお客さんはみんな口が悪いから、衣装がどーだとか歌がどーだとか舞台演出がどーだとか言いたい放題なんです。え? 率先して言ってるのはワタシじゃないかって? やだ……そうだったかしら? でも大丈夫。ワタシがいつか紅白歌合戦に出場する日が来るかもしれないその時には、どーぞテレビの前で鍋でも突きながらやれ「ブス!」だのやれ「歌ヘタくそ!」だの言ってくださいまし。そうやってみなさんが楽しく憂さ晴らしをしながら、新しい年を迎えてくださる日がいつか来ることを夢見て……。

 

今年もみなさまお世話になりました。来年からもこのコラム「TOKYO夜ふかし気分」をどうぞご愛読くださいますよう、宜しくお願いいたします!

 

<和恵のチェックポイント>

1976年にリリースされたシングル。縄のれんが吊るされた囲炉裏のある古民家風居酒屋で、ジーンズルックでしっぽりと呑んでいるジャケ写がシブい。旅先で見つけた古い酒場でひとりで呑みながら、死んだ昔の親友を思い出すという内容。佐良直美の普段の歌唱とは少し違う、声のお尻を少しシャクるようなカントリーにある独特の歌い回しでその風情を醸し出そうとしているが、その結果カントリーともフォークとも演歌とも言える絶妙なバランスが生まれており、それが歌謡曲ならではの妙味となっている。

 

作曲は八代亜紀「舟歌」や北原ミレイ「石狩挽歌」など演歌のヒットを多く生み出している浜 圭介さん。作詞はちあきなおみ「喝采」「夜間飛行」や内山田洋とクールファイブ「東京砂漠」等で有名な吉田 旺さん。歌詞の中に「リンゴ追分」が店内で流れている、という描写があり、リンゴ追分の歌い手である美空ひばりさんがそれを含めこの曲を気に入ったらしく、美空ひばり版「ひとり旅〜りんご追分入り〜」という曲も後にリリースされているので、そちらも合わせて聴いていただきたい。しかし、ひばりさんが歌うと「ひとり旅」というさすらいの男のロマンがあまり感じられず、主人公や死んだ友人さえも、それが男である必然性も弱まっているのだが、佐良直美の歌唱だと、もう絶対にそこには「男と男の友情」があるとしか思えない強さがある。歌い出しから終わりまで、男のロマンで溢れている。それが、佐良直美が表現できるリアリティなのだとワタシは思うのであります。

 

【INFORMATION】

ギャランティーク和恵さんが昭和歌謡の名曲をカバーする企画「ANTHOLOGY」の第4集「ANTHOLOGY #4」が、2017年2月1日(水)に配信&CDでリリースされます。それに合わせて、ライブも連動して開催。詳しくはANTHOLOGY特設ページをご覧ください。

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「ANTHOLOGY #4」

2017年2月1日(水)発売
配信:600円(税込)日本コロムビアより
CD:1000円(税込)モアモアラヴより
iTunes store、amazon、他インターネットショップにて

 

<曲目>
01. マイ・ジュエリー・ラブ(作詞:篠塚満由美 作曲:馬飼野康二)
02. 孔雀の羽根(作詞:千家和也 作曲:筒美京平)
03. エレガンス(作詞:橋本 淳 作曲:三枝成章)

 

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LIVE「anthology vol.4」

日時:2017年1月28日(土)
会場:南青山MANDALA(外苑前)
時間:開場18:00 開演:19:00
料金:4500円(1d付)