
今ではすっかり当たり前になった、街着としてのアウトドアウェア。ただ、いまだにその人気は一部のブランドに集中しているのも事実です。〈ザ・ノース・フェイス〉や〈パタゴニア〉といった鉄板のラインナップ以外にも、かくれた名品がきっと眠っているはず。本企画ではいわば“裏アウトドア”とでも呼ぶべき、まだ世に知られていないモデルをディグしていきます。
さて、今回そのアテンド役をお願いしたのは、ヴィンテージTシャツ専門ショップの「anytee」さんです。次に注目している古着はまさにアウトドアブランドのウェアだそう。同店を主宰する高橋さんに「今だからこそ着たい」と思える裏アウトドアブランドの5着を紹介していただきました!

高橋龍さん(anytee主宰)
映画、音楽などカルチャーの香りただようヴィンテージTシャツ専門店。オンラインだけでなく、不定期のポップアップストアでも独自のテーマを設けて販売を行う。老舗の中華飯店や銀座の写真館など、過去の出没スポットはさまざま。一点ものを楽しむナイトマーケット”NEO東京夜市”も主催。
なぜ今古着のアウトドアウェアがアツいのか?
―「anytee」さんはヴィンテージTの専門店でありながら、ここ2、3年はミリタリーのM-65やチャンピオンのリバースウィーブのスウェットなどを積極的に紹介されています。他のアイテムも紹介するようになったのはどうしてですか?
「もちろん、ヴィンテージのTシャツは通年で売りたいし、今後も売っていきますよ。ただ、そもそもなぜTシャツだったかというと、その背景にあるカルチャーを紹介したかったということに尽きるんです。つまり、洋服の楽しさを届ける手段のひとつ。最近になってようやく『この人はこの年代に詳しい人だ』とか『いいものを持っている人だ』という認知がされてきたので、じゃあ他のものも売ってみようと。まあ結局自分の好きなものに限りますけどね(笑)」
―そうだったんですね。その中でも、なぜ今アウトドアブランドの古着に注目されているのでしょうか?
「それ、3つ理由があるんです。コロナとシュプリームとネクストヴィンテージの文脈。まずコロナの話でいうと、今って空前のアウトドアブームですよね。それってやっぱり、周りとの接触を気にせず外で楽しみたい、気分転換をしたいっていうのがみんなの中であるから。あと景気が悪い時も、人って自然がある場所に行きたくなるんですよ。やっぱりアウトドアっていいなって思う一因には、確実にコロナの影響があります」
―確かにアウトドアに興味を持つ人は今増えていると思います。2つ目のシュプリームというのは?
「昔のアウトドアブランドをフックアップする存在としてのシュプリームですね。直接的なコラボだけでなく、デザインの元ネタにもしていますから。つまり、オールドアウトドアはストリートカルチャーと繋がっている部分があるんです。ちなみに僕は『プレミアが付いたシュプリームを高値で買うなら、元ネタのアウトドアものを手頃な値段で買うほうがかっこよくない?』っていうことも提案したいんですよね」
―いいですね。元ネタのほうが新鮮に見える場合も多いですし。
「で、最後がネクストヴィンテージとしての話。アウトドアブランドって、廃番になるモデルが結構多いんですよね。どんどんバージョンアップしてモデルチェンジしていくカルチャーがある。日本の自動車会社じゃないですけどね。今いろんな文献を読んでるんですけど、アウトドアウェアのカテゴリーって、リーバイスのデニムとかほど研究されていないんですよ。デニムよりもっとバリエーションが多いはずだし、廃番モデルもたくさんあるはず。だから掘っていく楽しさは間違いなくあると思いますよ」
1.ライフスタイルマーケットの先駆者、〈エルエルビーン〉。
―それは楽しみです。ぜひ一着ずつ見せてください。最初のこれは…?
「まずは〈エルエルビーン〉です。実はこのブランドってめっちゃ古い。1910年の創業で、最初は靴から始まりました。いわゆるビーンブーツですね。これは80年代か90年代初頭くらいのアイテムかな」


―エルエルビーンなんですね。ちょっとパタゴニアでありそうなデザインにも見えます。
「確かに似てますよね。パタゴニアではないけど、実際この頃のエルエルビーンって、例えばノースフェイスに生産を依頼していたりするんですよ。つまり、当時はエルエルビーンのほうが巨大企業だった。パタやノースより創業も早いですし。アウトドアブランドでありながら、ライフスタイルのマーケットに売る先駆者だったんです」
―そうなんですね。それは知らなかった。
「色もいいし、裾のパイピングも特徴的。あと、このシャツの裾、〈サカイ〉っぽくないですか?初期によくリリースしてたシャツの裾に付くやつ。これ、サカイサンプリングって僕の中では思ってます(笑)。これをあえてスウェットパーカーの下に着て、裾だけ見せたりしても洒落てるかなって。コートのインナーに着てみたりとか」
―ナイロンの一枚地なら、もう少し暖かくなってからも出番が多そうですね。
「そうですね。パッカブルですし。僕、最近パッカブル使う人少ないなあって思っていて。朝晩はまだまだ寒いじゃないですか。畳んでバッグに入れておいて寒くなったらこれを着る。それってかっこいい行為だと思うんですよ。変化が多い状況にアジャストしていく感じというか。そういう部分もアウトドアウェアのかっこよさですよね」

2.“目無し”のエルエルビーン?ゴアテックス使いが魅力のステンカラーコート
―次の一着です。これはどこのブランドですか?
「実はこれもエルエルビーンなんです。2000年頃でほぼ新品ですね。デッドストックのステンカラーコートです」

―おお。このルックスでエルエルビーンていうのが面白いですね。
「そうでしょ?このベージュがオートミールとか杢グレーのアイテムに合いそうですよね。あとこれ、生地がゴアテックスなんです。同じデザインでコットンのタイプもあるんですけど、おすすめはゴアテックスのほうですね。現代のブランドで例えるなら、ちょっと〈ナナミカ〉っぽい感じもあるというか」

―確かに。エルエルビーンのロゴは表に全くないんですか?
「ないですね。ポケット口にゴアテックスの表記が入るくらい。これ、僕は“目無しエルエルビーン”って呼んでて」
―目無し?どういうことですか?
「チャンピオンでボディが無地のタイプを“目無し”って言うじゃないですか。この言葉流行らせたいんですよ。だから“目無し”エルエルビーン(笑)。その意味で言うと、パタゴニアのMARSもロゴが表にないから目無しですね。エルエルビーンにも目無しがあった、みたいな(笑)」
―なるほど。今後使っていきますね(笑)
「あと最後のポイントは襟元のチンストラップ。去年、US.NAVYのブラックコートの特集をしたら、すごく売れたんですよ。それと全く同じディテール。いわば、ミリタリーとアウトドアと現代の要素を組み合わせた一着です。完成品とまで言ってしまうと褒めすぎですけどね。〈バーバリー〉のコートみたいな落ち着いたルックスなのに、ゴアテックスということもあり、より気軽に着られると思います」

3.〈コロンビア〉で注目すべきは「インターチェンジシステム」
「お次は〈コロンビア〉です。これもホントに面白くて。コロンビアっていろんなモデルがあるんですけど、僕が注目してるのはこれです」


―黒×ミントの配色と襟裏の刺繍がいいですね。この「Long’s Peak」という文字の意味は?
「これは山の名前。ロッキー山脈の中で一番人気がある山です。ノースやナイキのACGもそうですけど、よくアイテム名に山の名前を付けたりするんですよね」
―へえ、フォントの使い方もなんかいいですね。そもそも、コロンビアってどういうブランドなんですか?
「1938年創業なので、実は結構老舗ですね。マルチポケットのフィッシングベストが流行したんですけど、1960年代に一回潰れかけます。その時に継いだお嬢さんがブランドを立て直すんです。残念ながら彼女は一昨年亡くなってしまったんですが。ブランド復活の要因になったのが、このインターチェンジシステムと呼ばれるアウターです」
―インターチェンジシステム…。初めて聞きましたが、どういうものなのでしょうか?
「要はアウターとインナーを組み合わせて着るという服をいち早く作ったんです。ノースのマウンテンライトのジップインジップシステムと同じ発想ですが、その先駆け。おそらく当時は中のフリースとセットで販売していたのかな。全米で100万枚以上売れたアイテムです」
―すごい。大ヒットしたんですね。
「コロンビアの復活の旗印になった当時の画期的な大ヒットアイテムです。で、僕はこれをオーバーコート感覚で着てほしいなと。これは2XLなんですけど、バルマカーンコートやモッズコートみたいにガバっと着るとめちゃくちゃかっこいいですよ」

―2XLはさすがに…と思いましたけど、高橋さんが着た感じを見るとありですね。脇下の色の切り替えも洒落てます。
「そもそも、今回の僕の提案のどこが旧来の古着屋さんと違うのかというと、色選びとサイズ選びなんですよ。身長が165cmでも普段よりワンサイズ、ツーサイズ上げて着てほしいなと。Mなんか選んじゃうと、ホントに昔のアメカジのおじさんになっちゃうから。で、色はちょっと派手なカラーリングを選ぶのもポイント。ちなみにこんな色もありますよ。これはLサイズですが、結構大きいのでこれもおすすめです」


―おお、これは渋い色だ…。これも襟裏に刺繍が入るんですね。
「いい色ですよね。そもそも、コロンビアもエルエルビーンと立ち位置が少し似ているんですよ。タウンユースとしての要素が強いアウトドアブランドなので、モデルも数多くあるのですが、ダントツでかっこいいのがこの辺です」
―この2着に共通するポイントは?
「ロング丈かつ、いいカラーリングのインターチェンジシステムということですね。襟裏の山の刺繍もあったほうが洒落てるかな。着こなしとしては、中にフリースは挟まずに、サイズを上げて大きめに着てほしい。当初の用途どおりフリースを間にはさむと、もこもこして雪だるまっぽくなっちゃうんで。ナイロンのシェルだけで着てください」

―グッドカラーのインターチェンジシステムを大きめで着るのが大事なんですね。コロンビアって正直あまり知らないブランドでしたが、欲しくなってきました(笑)
「よかったです。では最後はこれ。これまで同じ品を見たことがなかった〈ランズエンド〉のアノラックです」
4.70年代の〈ランズエンド〉。漂うのは“海アウトドア”の匂い

―ランズエンドはまた渋いブランドチョイスですね。古着屋さんでたまに見かけますが、ちゃんと紹介されるのはあまり聞いたことありません。
「ランズエンドはレディースもののニットとかがたまに古着屋に並びますね。あとはシャツとか。ジェイクルーに似たイメージもあるけど、ルーツはヨットなんです。なので、山というよりは海のアウトドアですね」
―海の背景があるブランドだったんですね。この一着で高橋さんが引かれたポイントは?
「これはディテールに惚れました。状態もすごくいいです。とにかく、この斜めに入る腹部のポケットジッパーとレザーの使い方がかっこいいなあと」

―確かに見たことないディテールです。現代のブランドとしては〈バテンウェア〉に近い雰囲気も感じます。
「あ、たしかに似ているかも。レトロアウトドアな感じがね。サーフのニュアンスで捉えてもいいですね」
―これ、年代はいつ頃のものなんですか?
「結構古いですよ。1970年くらいじゃないかな。なので、中もフリースじゃなくて、ウールなんですよ。昔ながらのしっかりした固めのウールね。しかもリバーシブル。フード周りのレザーの留め具もかわいくないですか?香港のお菓子のフォーチュンクッキーみたいな(笑)」


―確かにフォーチュンクッキー感あります(笑)。高橋さんとしては、これはどう着てほしい一着ですか?
「合わせたいのはベージュ系のパンツですね。黒のデニムは合わないから、それ以外だと薄い色のデニムとか。サイズに関しては、Mサイズですが結構大きいです。178cmの僕でも着れなくはない。ただ、やはりこれも大きめに着てほしいので、160〜170cmくらいの人におすすめしたいですね」
anytee
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