ファッション
2016/11/5 10:00

「まだ東京で消耗してるの?」的、地方で花開くファッション産業

渋谷、原宿、代官山、中目黒。お洒落は東京から発信される。そう信じて多くの志ある者たちが上京し、ある者は成功し、ある者は夢破れ地元へ帰ったものだ。しかし今、お洒落は地方からやってくる。

 

レディスの人気ブランドearth music&ecology、ファミリー向けのセレクトショップ、SEVENDAYS=SUNDAY、モードの最先端であるTHOM BROWNE. NEW YORKまで、多くのブランドを統合するストライプインターナショナルは岡山市内のわずか4坪という小さなセレクトショップで始まった。1999年に立ち上げたオリジナルブランドのearth music&ecologyが、着々とファンを増やし、2010年には女優の宮崎あおいさんをブランドキャラクターに起用したCMも話題となった。2014年には東京・銀座に本部機能を移転するが、いまも本社は岡山に置かれている。

出典:「earth music&ecology」公式サイトより
出典:「earth music&ecology」公式サイトより

 

フィレンツェで靴作りを学んだ清角豊氏が、帰国後に自身の工房CORNO BLUを立ち上げたのは福岡である。一足ずつ注文主の足型に合わせて好みのデザインで仕立てるビスポーク靴は、清角氏自らが採寸するため福岡市内の工房あるいは東京のホテルの一室を借りて行われる受注会である。同時にセントラル靴株式会社と協業し、既製靴の監修も行っている。フルハンドのビスポークで20万円という清角氏の靴が、既製品なら伊勢丹やamazon.co.jpなどで4万円台から手に入る。

 

岩手県盛岡市の菅原靴店は、1950年創業の老舗靴店。4代目社長の菅原誠氏は、東京でホテルマンを勤めたのちイタリアへ留学した人物だ。現地でインポート靴の魅力に開眼し、帰国後は老舗の靴店をインポートシューズのセレクトショップに転換する。その後は海外ブランドを中心とした服飾の買い付けも行い、トータルでファッションを提案できる実力派セレクトへと躍進。東京のメディアを巻き込んで新たな仕掛けも次々発案すると同時に、地元企業の新リーダーとしても活躍を期待されている。

 

山形県寒河江市に昨年オープンしたGEAは、同市のニットメーカー、佐藤繊維が昨年立ち上げたセレクトショップだ。同社の工場跡地に、酒蔵として使われていた石造りの建物を移築して開かれた店内には、雑貨、アパレルを国内外から買い付けたセンスのいい空間が広がる。佐藤繊維は国内外の著名ブランドに、ニットをOEM製造してきたファクトリーだが、昨年自社ブランドとして立ち上げた991(キューキューイチ)はGEAをはじめ、都内の有名セレクトショップでも取り扱われている。

 

フィレンツェの有名テーラー、LIVERANO LIVERANOで修行を積んだ甲祐輔氏は、独立した後、自身のビスポークアトリエ、Sartoria Cavutoをフィレンツェに開く。顧客は同地を訪れる日本人のファッション業界関係者を中心に口コミで広がり、年に数回は凱旋帰国し都内有名ホテルでオーダー会が開かれるようになった。やがて家族とともに帰国した甲氏が拠点を構えたのは、多くの顧客をさばくためのファッション都市・東京ではなく故郷の石川県七尾市。地付きのテーラーとしてではなく、東京・大阪はもとより、香港でもオーダー会を開き、アジア圏の顧客を集約する。バックオーダーは引きも切らない。

 

■誰もがデザイナーやスタイリストになれる時代に

じつはこれまでも90年代の大阪に大量発生したインディーズ系のブランドや、福岡・博多のセレクトショップが手がけるオリジナルブランドなど、地方発のファッションブランドはいくつもあった。だがしかし現代の地方ブランドがかつてのそれと異なるのは拡大力の速度である。SNSによる拡散はもちろんWEBショップを独自に構築し販路を拡大している。もっと小さな個人制作のブランドにも活躍の場はある。誰でも簡単にショップを開けるSTORE.jpやBASE、minnneやCreema、iichiなどのハンド・メイド通販サイトとの連動も一助となっていて、「デザイナーになりたい!」「洋服をつくりたい!」と家内制手工業でちまちま服作りをしてた趣味の延長も、いまやWEBで検索すれば縫製工場を紹介してくれるマッチングサイトがいくつもある。趣味の裁縫がアパレルメーカーへと成長する土壌はいくらでもある。

 

そして、もうひとつ、この地方発ファッションブランドの台頭とともに、もうひとつ地方発の新しいファッション業態が台頭していることを指摘しておきたい。「パーソナルスタイリスト」という個人事業者の台頭だ。

 

スタイリストとは芸能人の衣装を用意したり、雑誌や広告に掲載する洋服や雑貨を各メーカーから借りてくる仕事である。一般庶民がスタイリストを雇って服を用意することは稀だが、近年は買い物同行とスタイリングアドバイスを兼ねた個人向けスタイリスト業が非常に増えている。そして彼らは東京・大阪だけでなく、地方都市にも少なからずいてSNSやブログなどで発信、ダイレクトメッセージで受注し、実際に顧客との買い物に同行したりスタイリングのアドバイスを提供し対価を発生させている。料金体系は様々だが、時間制で定額を導入するパーソナルスタイリストもいれば、買上げ金額のパーセンテージを店舗からバックしてもらう店舗付きスタイリストなど、さまざまな業態がある。実態はつかみきれていないが、地方企業の経営者やいわゆる「先生」と呼ばれる職業のひとたちへのアドバイザー的なスタイリストから、お洒落好きな若者たちが友達感覚で友人を増やす「出会い系」延長のパターンまで多様である。

 

ファッション業界は、かつて華やかなイメージで売ったブランドやスタイリストに代表される花形産業だったが、都市部のファッション業界でのみ活躍できる特権業種としての認識はすでにない。誰もがデザイナーに、誰もがスタイリストになれる時代の到来は象徴的だ。つぎにパーソナライズされ、地方で勢力を増していく業種は、いまアナタが従事している仕事かもしれない。

 

【著者プロフィール】

池田保行

神奈川県横浜市出身。ファッションエディター・ライター。大学卒業後、出版社勤務を経てフリー。 2004年よりファッション エディター & ライター ユニット ZEROYON 04(ゼロヨン)を主催。 毎年1月と6月にイタリア・フィレンツェで開かれる世界最大級のメンズファッション展示会ピッティ・イマジネ・ウォモへ毎年足を運ぶなど海外取材も豊富。メンズファッション誌をはじめ、WEB、広告、カタログなどあらゆるテキスト媒体を中心に活動している。ブログやYouTubeは、たまに更新中。

ZEROYON LABORATORY:http://www.zeroyonlab.com/blog

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