ゲーム&ホビー
2018/3/10 18:00

なぜ、将棋はよくてゲームはダメなのか…日本初のライセンス登場で「プロゲーマー」の世界は変わる?

「将来はプロゲーマーになりたい!」

出典:「東京アニメ・声優専門学校」公式サイトより

 

もし自分の子どもがそんなことを言い出したら、それを応援できる親はどのくらいいるだろうか。「棋士になりたい!」なら、今をときめく藤井聡太六段のようになるのは難しいとしても、「とりあえずやってみなさい」と後押しする親は少なくないはずだ。

 

しかし、将棋もビデオゲームも同じゲームなのだ。なぜプロゲーマーだけが敬遠されてしまうのか? 前線で活躍する現役プロゲーマーで、「東京アニメ・声優専門学校」e-sportsプロゲーマー専攻の講師でもある鈴木悠太さんに、その理由を聞いてみた。

 

■そもそも、「プロゲーマー」とは何なのか

「ゲームで飯を食べている人たち」。漠然といえばそういうことになるが、プロゲーマーの厳密な定義はあるのか。

 

「ゲームでお金を稼ぐのにはさまざまな手段があります。世界中で毎週のように開催される大会の賞金をはじめ、メディア出演や個人の動画配信、ゲーム関連会社とのスポンサー契約によって支払われるファイトマネーなども収入になります。活動スタイルが多岐にわたるため『プロゲーマー』の厳密な定義はありませんでしたが、先日、日本初のプロライセンスが発行されたんです」

 

2018年2月、「日本eスポーツ連合」が、極めて優秀な成績を収めている人に対してプロゲーマーとしてのライセンスを発行した。ちなみに日本eスポーツ連合とは、国内においてeスポーツ(エレクトリック・スポーツ。ビデオゲームを競技として捉える際の名称)産業の普及を目指す団体のこと。これによって、『ライセンスを所持している人=プロゲーマー』というわかりやすい図式が生まれた。

 

「ライセンスの発行によって、今後、国内でeスポーツはますます盛んになるでしょう。しかしながら、日本eスポーツ連合が提案するプロゲーマーの定義、ライセンス発行に関してはさまざまな議論が交わされています。個人的には、ゲームでお金を稼げて、そのゲームの魅力を多くの人に伝えられる人であれば、ライセンスを所持していなくてもプロゲーマーといえると思います」

日本初のプロゲーマー育成専門学校の講師である鈴木悠太さん。FPSというジャンルで活躍するプロゲーマーでもある

 

■「しょせんビデオゲームだから…」という風潮はなぜなのか

それでは、いよいよ本題に入ろう。プロゲーマーが軽視される理由のひとつに、「しょせんゲームでしょ?」という漠然としたイメージがある。同じゲームなのに、囲碁や将棋の方が高尚なものと感じている人も少なくない。なぜなのか。

 

「ご存知の通り、日本では昔から家庭用ゲーム機が台頭し、PCでゲームをする文化が成熟しませんでした。ゲームはあくまで『親が子どもに買い与える娯楽』という認識で、それでお金を稼ぐというのが、今の30代後半から上の世代の方にはイメージしづらい状況なんです。それと、将棋はやったことがあるけど、今プロゲーマーたちが取り組んでいるゲームのプレイ経験がない方が大半なので、ゲーム性の誤認識もあるのではないでしょうか」

 

確かに、将棋は高度な頭脳戦のイメージがあるが、ビデオゲームについては、プレイ経験がない人にとってはヴェールに包まれている。

 

「誤解を恐れずにいえば、ゲームによっては、将棋より高度な頭脳戦が展開されることもあります。例えば、『リーグ・オブ・レジェンド』というゲームでは、約150体あるキャラクターすべての特徴を把握して、相手のキャラクターとの相性も考慮しながら戦略を練っていきます。アイテムや経験値に関する知識も含めて、事前の研究はマスト。実戦中はマウスのクリックが1ミリずれるだけで状況が変わるので、的確で柔軟な対応力も求められます。

 

また、2週間に一度のペースでゲーム内容がアップデートされるので、それに合わせて戦略も更新しなければいけません。つまり、習得すべきスキルや蓄えるべき知識が無限にあり、戦略に天井がないんです」

 

■ゲームはスポーツといえるのか

米国や欧州、韓国をはじめとするアジア諸国では、eスポーツの発展が目覚ましい。“競技人口”は1憶人を超えるといわれ、2022年のアジア競技大会には正式種目入りがすでに決まっている。先ほどの話にあった『リーグ・オブ・レジェンド』のプレイヤーは、米政府からスポーツ選手として認定されているほどだ。

 

海外で「ゲーム=スポーツ」という認識が定着しつつある中で、日本はというと、先日NHKでeスポーツの特集が放送された際に、「汗を流さないとスポーツとはいえない」という意見が数多く寄せられたほど否定的な見解も目立つ。

 

「長いスポーツの歴史の中で、工業化に伴いモータースポーツなどの新しい競技が生まれました。それと同じように、今はIT産業が発達して、eスポーツが新たな競技として注目を集めています。時代の変化とともに生まれた競技という見方ができるかどうかではないでしょうか」

 

例えば、世界でも活躍する有名なプロゲーマーとなると、その生活もかなりストイックだ。1日十数時間をゲームの練習に費やし、体力を養うためにジムでの身体づくりも欠かさない。大会では何時間もの長期戦に及ぶケースもあるので、並大抵でない体力と集中力が必要になる。そして、負けたら当然くやしい。彼らの努力を知ったうえで、大会に敗れて涙する姿を見ていると、ゲームがただの遊びではないことを思い知らされるのだ。

東京アニメ・声優専門学校のイベントスペース。e-sportsの臨場感を疑似体験できる

 

■引退後のキャリアは…? プロゲーマーという職業の課題点

ライセンス発行にともない“プロゲーマー・eスポーツ元年”ともいわれているが、それでもプロゲーマーとして生きていくのは容易なことではない、と鈴木さんは語る。

 

「今台頭している『FPS』や『MOBA』というジャンルで活躍するプロゲーマーの年齢は16~23歳ぐらい。もちろん、ゲームをやるのに年齢は関係ありませんが、トップクラスを目指すとなると、動体視力や反射神経が優れている若いうちがやはり有利です。それでは、年齢を重ねてプロゲーマーとしての活躍が難しくなった場合はどうすればいいのかというと、厳しいのが現状です。チーム運営のサポートをしたり動画配信などで収入を得たりとさまざまな手段はありますが、どれも生涯の収入を確定するものではありません」

 

さらに余談だが、ゲームプレイヤーの社会性の低さも課題点のひとつだという。

 

「やはり1日15時間もモニターに向かっていると、社会的な常識やコミュニケーション能力が欠如している人も多いんです。でも、動画サイトやSNSでのセルフプロデュース力、海外でも通用する英語での対話力は非常に重要。引退後の在り方も含め、そうした環境を整備しながら、業界がサポートする仕組みの構築が必要だと感じています」

 

さまざまな問題をどう乗り越えて、今後、プロゲーマーがどんな活躍をしていくのか。また、日本における彼らへの認識はどう変化していくのか。国内プロゲーマーたちのストーリーは、今始まったばかりだ。

 

【著者プロフィール】

ギャンブルフリーク 荒井奈央

ライター、編集者。さまざまなジャンルの専門家に突撃取材をするのが好き。麻雀をライフワークとし、雀荘はホーム。ギャンブル、裏モノ界隈のネタが大好物で、貧乏旅行にはまっていた時期のエピソードをまとめた『世界中で危ない目に遭ってきました』(彩図社)を出版。

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