ゲーム&ホビー
スマホゲーム
2021/5/5 20:30

iPhoneでレトロゲームが遊べる「PicoPico」の背景には、レトロゲーム復刻への熱き想いがあった

2020年10月から提供されている「PicoPico(ピコピコ)」というiOSアプリをご存知だろうか? iPhoneに同アプリをインストールすれば、一部有料ではあるものの、数多くのレトロゲームを遊べるようになる。シューティングゲーム「ゼビウス」や、ぷよぷよシリーズのルーツと言える「魔導物語」などの名を聞けば、懐かしさを感じる者や、ゲーム史に残るタイトルを一度は遊んでみたいと思う者が、少なくないはずだ。

 

このPicoPicoを展開しているのが、D4エンタープライズ社である。同社は、レトロハードで提供されていたゲームタイトルの権利関係を調整し、失われつつある過去の作品を遊べるように守っている。言うなれば、レトロゲーム復刻事業の老舗だ。

 

本稿では、同社の代表取締役である鈴木直人氏と、PicoPicoの開発担当者である鈴木洋司氏の2名にインタビューを実施。PicoPicoの提供に関する裏話や、レトロゲーム復刻についての想いを聞いた。

↑「PicoPico」は複数のレトロゲームを遊べるiOSアプリ デブロック ©Athena / ©TRINITY

 

↑D4エンタープライズ社の代表取締役 鈴木直人氏

 

↑D4エンタープライズの鈴木洋司氏。元々ドワンゴに在籍したが、2020年4月に権利譲渡が行われたタイミングで、D4エンタープライズへと移籍。現在はPicoPicoの開発担当を担っている

 

レトロゲーム復刻の原点は、子どもの頃に遊んだ情景

——「PicoPico」はどういった経緯で始まったのでしょうか?

 

鈴木代表「元々弊社では、2001年から『プロジェクトEGG』というレトロゲームの復刻配信サイトを創設しておりました。2013年12月頃に、ドワンゴ社から“プロジェクトEGGと一緒に何かやりたい”という相談をされまして、翌年から共同でアプリ開発に取り組みました」

——現在も、PicoPicoにドワンゴが関わっているのですか?

 

鈴木代表「本来であればドワンゴ社と協業していく形だったのですが、ドワンゴ社の組織変更に伴う都合で、2020年4月にドワンゴ社から商標や特許の権利を譲り受けました。現在は、D4エンタープライズの商品として提供しています」

 

鈴木洋司氏「PicoPicoというネーミングは、私達の親世代はファミコンがPCエンジンやプレイステーションに変わっても、それらを『ファミコン』とか『ピコピコ』と呼んでいたことに由来します」

 

——PicoPicoを通した、レトロゲームの復刻にはどんな想いがありますか?

 

鈴木代表「私は今、50代ですが、1980年代に初めてマイコンというものに触れまして、コンピューターの中でゲームが動いていることに衝撃を受けました。ゲームプログラマーを目指したきっかけも、小学校5年生のときに見た『トロン』という映画でしたね。当時遊んでいたゲームは、カセットテープやフロッピーディスクなど、磁気記録媒体でしたので、常々そういったものを保存していかなければいけないという思いがありました。そこから元々の『プロジェクトEGG』をスタートするに至り、約20年が経ちます」

 

「その後は権利調整をしつつ、元々グレーな技術として捉えられていたエミュレーター(実機以外のハードで仮想的にプレイできる技術)を合法化するなど、色々と並行して進めてきました。いまでは任天堂のハードウェアでもよくあるように、エミュレーターを活用してゲームを遊ぶことは一般的ですよね。そういう骨子を作ってこられたのかなとは思います」

 

——ズバリ、レトロゲームの良さはどういったものだと思いますか?

 

鈴木代表「ビジュアルに凝っていて目を見張るけれども、プレイするのにすごくカロリーを消費するようなゲームってありますよね。私たちの世代ですと、そういう作品にちょっとついていけないこともあります。人それぞれではありますが、例えば『パックマン』とかをやりたくなるときがある。そういったゲームをすると、友人宅のリビングだったり、自分の部屋だったりで遊んでいた時の情景が浮かぶんですよね。昔遊んだ人にとっては、良くも悪くも当時を思い出せるんです」

↑PicoPicoでゲームタイトルを選択する際の画面

 

「また、当時のゲームって、何が面白いという型がわかっていなかったので、いろんなメーカーが社運をかけて様々なアイデアを出していました。だからこそ、かなり遊べるゲームが多いんですよ。まぁ、うちの社員で異なる見解を持っている人はいるでしょうし、一般の方もそれぞれの想いを持って楽しんでくれているのだと思います。……洋司さんはどうですか?」

 

鈴木洋司氏「僕は『BATTLE MARINE』と『COSMIC SHOOTER』というPicoPicoで無料提供されている2タイトルを作っているんですけれど、作り手サイドとして、レトロゲームは一人で簡単に作れるから好きですね(笑)」

 

 

復刻にそびえる最大の難関、権利関係について

——レトロゲームを復刻する上で、大変なことはなんでしょうか?

 

鈴木代表「権利関係と技術的な部分、2つの側面で苦労があります。権利関係では、“著作権がどこにあるのか”が、重要です。すでにゲーム業界から離れているメーカーさんもいます。そういった場合に、キャラクターや音楽のライツなどについて、複数の著作権者を確認するのが大変です。色々な手法で著作権者を探す必要があります」

 

「技術的な部分では、エミュレーターの精度が重要です。実機で動かしたときとの誤差を少なくするにはどうしたら良いかなど、試行錯誤する点はたくさんあります。また、中には、メーカーから直したい部分があると言われる作品もあります。英語のスペルミスがあったり、キャラクターが他の肖像権を侵害してしまっていたとか、これらに軽微な修正を加えることも。今の時代にもう一度レトロゲームを出すには、こういった特殊な工程が必要なんです」

 

鈴木洋司氏「バグに関する問題もあります。コンテンツの一部として認められるバグは良いのですが、致命的なバグは見逃せません。PicoPicoで配信しているものだと、『魔導物語II』でゲーム内セーブをせずに途中まで進めるとゲームがハングアップするというオリジナルのバグがありました。そちらは、PicoPicoでは修正してリリースしています」

 

——苦労を重ねて復刻しているわけですが、作品の権利はいつまで使えるのでしょう?

 

鈴木代表「私どもは12社のライツを、全部もしくは一部買収しておりまして、軽微なものを含めると1000タイトルほど保有しています。また、今アクティブなゲームメーカーに許諾をもらっているタイトル。こちらに関しては、自動延長など、いろんな契約がありますが、そのメーカーから『嫌だ』と言われない限りは、私たちのプラットフォームで供給し続けられます」

 

——昨今では、YouTubeなどの動画プラットフォームでゲーム実況配信が活況ですが、PicoPicoでユーザーがゲーム実況するのはOKなのでしょうか?

 

鈴木洋司「PicoPicoはもともとドワンゴで始まった事業ということもあり、ゲーム実況配信者に優しいプラットフォームとして設計されていまして、現在もその方向性を引き継いでいます。コンテンツ権利者に契約いただくタイミングで、ゲーム実況配信の許諾もとっていますので、個人の方であればPicoPicoで配信しているレトロゲームは全部配信OKで、さらにニコニコ、YouTube、Twitchでは配信を収益化していただいてもOKですよ」

(※一般的なゲームの場合、実況配信の可否は、各メーカーの使用許諾で定められているほか、ゲームタイトルごとに規約を確認する必要がある)

 

PicoPicoが開拓していく道は?

——PicoPicoならではのハード機能を教えてください。

 

鈴木洋司氏「難所にさしかかってゲームオーバーになってまた最初から……という苦悩を軽減できるように『クイックセーブ』や『ロード』という、現代ハードっぽい機能が備わっています。これを使った方がゲームが上手くなりますし、クリアもできて楽しめるでしょう」

↑「PIN IT」を押すとその場面でセーブされる。右側の四角(画像ではNO PINと表示されている部分)に保存した場面が表示され、これをタップすることでその場面からやり直せる

 

「また、『動画セーブ』もぜひ試してほしいです。ゲームプレイ中に録画ボタンを押すと、ゲームのプレイ内容を保存できる機能です。自分のゲームプレイ動画を友達に見せびらかすことができれば楽しそうだと考えながら作りました。さらに『動画セーブ』では、見て楽しむだけではなく動画の途中からゲームを再開することも可能です。動画を見て、自分ならこう動かすのに、こう動いたらどうなるのか?といったifを体験でき、これは新しいゲームの遊び方になると感じてます」

 

——PicoPicoの利用料金と、今後のビジネスモデルについて教えてください。

 

鈴木代表「PicoPicoは無料でも数タイトル遊べますが、全てのゲームを遊ぶには月額550円の定額プラン(※1週間の無料お試し期間あり)にご加入いただくことが必要です。また、スコア&タイムアタックを無制限にチャレンジできる有料アイテム(120~610円)という課金オプションも用意していました」

 

鈴木洋司氏「ただし、3月のアップデートで有料アイテムは廃止し、しばらくは定額プラン一本でいく予定です。実は一部タイトルでスコア&タイムアタックを無料化してみたところ、熱心に遊んでくれる方々が結構居たので、皆で盛り上がってくれるなら無料化してしまおう、となりまして、こうした判断に至りました」

 

鈴木代表「レトロゲームが好きなユーザーの中には、すでにPCからレトロゲームを遊べる、プロジェクトEGGのサイトに課金してくれている方もいらっしゃいます。そういう人たちに対して“PicoPicoにも課金して”と言うのは気が引けますし、数字的にこれからどうやって伸ばしていくのかは今後の課題ですね。しばらくは遊べるゲームタイトル数を増やしていくことが最優先事項です」

 

——今後どこまでがレトロゲームの範囲になる?

 

鈴木代表「私が生きている間に、“レトロゲーム”だと思ったタイトルは全部復刻に挑戦したいですね。例えば、ファミコンやスーパーファミコン、PCエンジン、メガドライブってもう“レトロゲーム”じゃないですか。でもPS2がレトロかって言われると、ちょっとまだレトロ感がないと感じる人もいると思います。10年後にはPS3のタイトルがレトロになるかもしれないですよね」

 

「ただし、現実的に私たちがプラットフォームとしてターゲットにしているのは、あくまでファミコンとかスーパーファミコン、PCエンジンなど、黎明期のレトロハードまでです。これだけでも膨大なタイトルがあって、全て復刻するには10年20年かかってしまうと思います。実際、まだ1万〜2万タイトルあるなかの1000タイトルくらいしか復刻できていません。これからもしっかり権利関係を調整して、PCなのかスマートフォンのPicoPicoなのか、はたまた任天堂さんなどの新規ハードウェアだったりするのかはわかりませんが、そういったところに供給し続けたいと思います」

 

「ちなみに、古くても新ハードなどでシリーズが継続しているものを、私たちのプラットフォーム上で一緒くたに当時のままで復刻するのは少し違うように感じています。このようなゲームの復刻・保存の判断については、各企業側の考えによって、弊社は協力する体制を作りたいと考えています」

 

——最後に、読者に向けてメッセージをどうぞ

 

鈴木代表「レトロゲーム事業を立ち上げて20年くらい経ちましたが、復刻事業の中核にいると自負しております。今後も、各メーカーのニーズにしっかり対応したうえで、日本のゲーム文化を残していく役割を果たしてまいります。暗中模索で事業を立ち上げ、いままで進んできましたが、まだまだ精進していきますので、応援していただければ嬉しいです。ぜひともPicoPicoで遊んでみてください」

 

——ありがとうございました。