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炊飯器
2018/4/3 20:14

新興メーカー「シロカ」の苦闘は実るのか? 「居候」と呼ばれた男が「極上の土鍋炊飯器」に至る壮絶な4年間

2018年12月に新興家電メーカーのシロカと創業180年を超える老舗陶器メーカーの長谷(ながたに)製陶がコラボレーションし、土鍋を用いた炊飯器「かまどさん電気」を発表。開発にあたって、試作はおよそ500個を数え、開発期間は実に4年に及んだという。今年の2月、三重県伊賀市にある長谷製陶にて、発表会では伝えきれなかった開発の経緯などについてのプレスツアーが開催された。今回は、その模様を紹介していこう。

↑長谷園×siroca「かまどさん電気 SR-E111」

 

人気の炊飯土鍋「かまどさん」の魅力は「呼吸」にあり

江戸時代後期の天保3年(1832年)に創業し、現在は8代目当主の長谷康弘氏が代表取締役社長を務める長谷製陶は、約4年の歳月をかけて開発して2000年に発売した炊飯用土鍋「かまどさん」が人気の窯元だ。土鍋と丸い上ブタだけでなく、平たい内ブタを組み合わせた二重構造になっているため、吹きこぼれせずに安心してご飯を炊けるのが特徴になっている。

↑三重県伊賀市にある長谷製陶。敷地内には14か所の登録有形文化財の建物がある

 

「(かまどさんシリーズは)伊賀の土なしでは語れません。ここは約400万年前は琵琶湖の湖底だったため、当時の琵琶湖で生息していた生物や植物が地層に堆積。その土を焼くと有機物が燃えて気孔の多い構造になります。これに火を与えると蓄熱し、遠赤外線効果を発揮するだけでなく、昔から『呼吸する』と言われています。吸水性があるため、ご飯が炊き上がった後に余分な水分を土鍋が吸い、ご飯が乾くと鍋が勝手に補水するという、生き物のような機能を土がやってくれるのです」(長谷康弘社長)

↑長谷製陶の8代目当主であり代表取締役社長を務める長谷康弘氏。手に持っているのは「かまどさん電気」の土鍋だ

 

↑炊飯用土鍋「かまどさん」の試作品

 

土鍋を家電に組み合わせるのに高い精度が求められた

直火で炊飯する「かまどさん」の熱源を電気ヒーターで置き換えるのは並大抵のことではなかったという。

 

「(土鍋の)見た目は違いますが、伊賀の土で炊飯するために素材は変えていません。ぱっと見で違うのは取っ手がないところ。どこからでもつかめるように全面が取っ手になっています。持ちやすいだけでなく、吹きこぼれても(ヒーターに)伝っていかず、本体の溝に入るような形状になっています。また、土は乾いたり焼き上げたりすると収縮するのですが、家電製品に用いるとなると高い精度が求められます。そこには企業秘密もありますが、この機械に合った本物の土鍋を作りました。見た目は少し違いますが、すべて『かまどさん』の味を電気で実現する構造になっています」

↑左が炊飯用土鍋の「かまどさん」で、右が土鍋とヒーターを組み合わせて自動炊飯を可能にした「かまどさん電気」

 

時代の流れから「IH対応」にチャレンジしたものの失敗

7代目当主で長谷製陶会長の長谷優磁氏は、「かまどさん」シリーズで「オール電化」に対応する取り組みを行っていた過去について語った。

 

「ものづくりを続けるうえで、『作り手は真の使い手であれ』と考えています。時代が変わっても作り手は必ず使い手になり、自分も納得すること。文明が進化するとライフスタイルが変わりますが、生活者が『こんなのがあったらいいな』というものをキャッチしながら作っていくのが使命だと思います。時代が流れて熱源が変わり、安全のためにいつの間にか『オール電化』が登場し、『かまどさんの味を電気で実現してほしい』という要望があったのです」

↑長谷製陶会長の長谷優磁氏

 

とはいえ、かまどさんシリーズの『土が呼吸する』のと『蓄熱性』という特徴は崩したくなかった。そこで土鍋のフチにまで金属を溶射(吹き付けること)し、鍋自体がIHクッキングヒーターによって発熱するものを作り上げた。

 

「でも食べるほど、自分が開発した『かまどさん』と距離があるのです。それが我慢できなくて、苦労したのですが生産を中止したという経緯がありました」(長谷会長)

 

「IH対応」としている土鍋には金属板を土鍋内に配置するものがあるように、金属を溶射するのではなくて金属板を土鍋の内部に配置して焼き上げるという方法もある。しかし、前出の長谷社長は「金属を入れると土鍋が呼吸をしなくなってしまうことと、金属板が下に入ると熱くなり過ぎるため、おこげを通り越して炭になってしまうこと、この2つがボトルネックでした」と語った。

 

シーズヒーターを採用しセンサーで温度をキャッチ

こうした体験から「IHはやらない」と決め、大手家電メーカーからの要請も断ってきたと長谷会長は語る。そんな長谷会長に、シロカの現副社長、安尾雄太氏がコンタクトを取り、「シーズヒーター」という従来の電熱ヒーターの採用を提案した。

 

「赤熱化するシーズヒーターは、炭の火により近い遠赤外線を発します。その炎が(土鍋の鍋肌を)巻いてくれて、オフになったらそのまま冷却し、そこで蓄熱力が出る。それがマル秘のところで、一番苦労したところです。シロカから頑張ってうちの居候(※)が来てくれて、電気で調整してくれました。最初は蓄熱しすぎてトラブルが多かったのですが、(土鍋に)穴を開けてセンサーを入れ、温度をキャッチするというのが我々が頑張ったところです」(長谷会長)

※開発を担当したシロカの佐藤一威(さとう・くにたか)氏のこと。頻繁に長谷園を訪れて泊り込みの研究を続けていたことから居候(いそうろう)と呼ばれた

↑温度センサーを埋め込む前の、穴の空いたかまどさん電気用土鍋を持って説明する長谷会長

 

かまどさん電気の土鍋は中央部に内部の温度を検知するための温度センサーが埋め込まれている。ここがかまどさんの土鍋との大きな違いだ。そのため、形はほとんど同じではあるものの、直火での使用はできないようになっている。

↑鍋底には「長谷園」のロゴが
↑「長谷園」のロゴが入った鍋底のセンサー部

 

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