本・書籍
2017/9/23 17:30

相手を感動させたいなら、まずは自分が感動しよう

知人が40代にして美容師の免許を取るため学校に通っている。

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美容師を目指す人は多い。経営者や有名スタイリストにでもならないと、大儲けできるわけではないし、土日も休めない。けれどもそこにはお金では買えない喜びや、感動に満ちているという。

 

感動する美容室

『バグジー 1―愛と感謝の美容室』(田原実・著/インフィニティ・刊)は、美容院がテーマの感動コミックである。某ネット書店ではなぜかBLコミックカテゴリに入れられているくらい、あまり知られてはいない本だ(BL要素はない)。私も美容師の男友達に連れられてヘアメイクの専門ショップに行かなければ知ることはなかった。

 

九州の人気サロン「バグジー」を漫画化したものなのだけれど、そこではお客様にこれでもかというくらい尽くす。たとえば誕生日に来店された場合は店総出でサプライズでお祝いもする。お客様カードに書かれた誕生日データなどで把握しているのだ。その店では感動がコンセプトで、お客様が感動することなら何でもしていい。だからスタッフは受験生のお客様にお守りを渡すこともある。

 

人間扱いされること

バグジーは、スタッフが辞めない店であり、お客様が友人知人に紹介してくれることで売り上げを伸ばしているという。確かにこんなに大切にされたら、リピート客も増えることだろう。人間関係が希薄なこんなご時世では、こうしたまるで親友であるかのようなサービスが心に染みるのだろう。

 

美容院に行っても、お天気や、家族構成や、今日はこれからどちらへ?というような会話がほとんどで、なかなか美容師と仲良くなることはできない。どこに行っても同じだなと思う人は少なくないだろう。そんな中、初回から常連客のように接してもらえたら、客のほうも居場所ができたような気持ちになり、ひいきにしたくなるのだろう。

 

美容院と高齢化

『涙のシャンプー』(松本望太郎 ・編著/学研プラス・刊)は、美容師が体験した15の感動エピソードが詰まったエッセイ集だ。それを読むと、多くの美容師が「大変な仕事だけれど、やっぱりこれからも続けたい」と考える理由が透けて見えてくる。エッセイの中で目立つのは寂しさを抱える高齢の女性客との交流だ。配偶者を亡くして涙ながらに来店した女性をセットしながら一緒に涙を流すエピソードに、感情の共有が美容師の役割りのひとつなのかもしれないと感じた。

 

高齢化社会である。

 

これからもさらに高齢者の美容院利用は増えていくことだろう。年老いても美しくありたい願いに、いつでも温かく応えてくれる店があったらどんなに嬉しいことだろう。エッセイの中には定期的に通ってくれていたお客様が急に来なくなり、心配で自宅にまで行ったという話もあった。少しお節介なくらいの接客が地域の絆ともなりうるのだ。

 

感動させる秘訣

高齢者だけでなく、世の中にはいろいろな事情で寂しい思いをしている人がいる。美容師はその人の髪に触れ、温かい声をかけることで、癒すことができる存在なのだろう。気持ちが通じ合う悦びを知ると、どんなに辛くても仕事を続けたくなるのかもしれない。私の知人も最初はまつげエクステ店で働いていたが、もっとお客様を綺麗にして喜ばせたいと美容師を目指すようになった。

 

先ほどのバグジーでは、人を感動させるためには、まず自分が感動することだとし、入社式に新入社員に親からのメッセージビデオを流す。両親の心のこもったメッセージに彼らは泣き、社員ももらい泣きする。ついでに言えば漫画を読んでいた私ももらい泣きした。

 

相手を感動させるためには、まず、自分が感動できる人間になる。感受性を高く保つことで、相手に共感できる人間になれるのではないだろうか。

 

(文・内藤みか)

 

【文献紹介】

20170922_suzuki17
涙のシャンプー
編著者:松本望太郎
出版社:学研プラス

美容師さんが体験した心に響く話を15作品集めたエッセイ集。末期がんのおばあちゃんの教え、母の日にもらったかけがえのない宝物……美容室を通じて出逢った人の「一言」を通じて仕事とは、生きるとはの答えが、それぞれ読んだ人の胸に押し寄せる。

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