ライフスタイル
2018/3/31 18:00

「素材」には意味がある。「曲げわっぱ」が木製である理由

手で持つ道具は色々あるけれど、大体把手は木で出来ているものが多い。いわゆる「グリップ」という奴だ。万年筆だと、あまり木の軸は見掛けないし、あってもやたら高価だったりするのは、多分、加工が難しいからで、その代わり、万年筆の軸に適した素材として、エボナイトやセルロイドが良いとされる。それは、使っている内に形が指に馴染むからなのだけど、包丁の柄とか拳銃のグリップなどが木製なのも、同じ理由だと思われる。ボールペンなどではグリップ部分だけが木で出来ているものがあるし、ドアの把手とか、カメラのグリップなんかも、良い奴は木製だったりする。もっと柔らかさが要求されるカバンの把手は、布製だったり革製だったり。一方で、工具類はフルに金属だったり。

■その素材が使われる意味とは…

そこに、その素材が使われるというのには、大体意味があって、単にカッコいいからとか、何かカントリーっぽいから、みたいな感じで木の素材が選ばれている場合、使ってみてビックリなんてことは良くある。100均で買った木の器は、食品を入れるなと書かれていたりして、では何に使えば良いのかと途方に暮れたことがある人は正直に手を上げるように。ともあれ、機能と同じくらい、素材が持つムードというのも重要だし、素材が要求するデザインだってある。木の器や木のカトラリーは、何となくカントリーライフの匂いがするし、樹脂製のカップはカフェっぽかったり、金属の盃は高級日本酒を飲ませる店みたいだったりするものだ。

 

そう考えた時に、ちょっと面白いのは、最近若い人にも人気があるという(本当かどうかは知らない、編集者から聞いただけだから)「曲げわっぱ」である。民芸品と言ってもいいし、実用品でもあるし、新潟辺りだと「わっぱ飯」が名物だったりもする、特長を一口で言えば、「ご飯を入れるのに凄く適した箱」だ。だから、弁当箱にとても向いていて、最近の会社には自作の弁当を持って行くブームの中で見直されている、ということらしい。

 

■曲げわっぱが若者にウケる理由

木工製品としては珍しい、カントリーライフ的ではない、都市生活的な要求の元に人気が出ている製品なのだ。尤も、このケースも手に持つものは木が気持ち良いの法則にも当てはまるし、プラスチックよりも木の方が弁当が美味しそうなのは、デパ地下で売ってる弁当が高価なものほど木の器に入っているところを見ても明らか。漆塗りの曲げわっぱなんて、もうただの高級弁当箱だし。その上で、弁当箱の機能としても優れているのだから、人気にならない方がおかしいくらいだ。

 

それに、曲げわっぱは、木を曲げて作る器なので、いわゆる木工製品にありがちの、厚みが無いし軽いのだ。これだけでも、一般的なイメージの中の「木工製品」とは一線を画す。天然木で接着剤も不要で、蓋もぴったり嵌まるという点でも、優秀な弁当箱だ。木の香りさえも食欲をそそる。

 

■木でなければならない必然性

多分、同じく木を使っていても、その使い方でイメージはかなり違ってくる。例えばエレキギターは大体木製だ。ボディなんて単なる1枚板だったりする。しかし、そこにカントリーライフな素朴なイメージはあるだろうか。曲げわっぱと同じく、曲げ木の技術を応用してペンケースやメガネケースを作っているアヴァンウッドというメーカーの製品を見ると、どれも高度にスタイリッシュで、ほぼ100%木だけで出来ているにも関わらず、そこには木工製品風なイメージは欠片もない。しかし、ギターにせよ、アヴァンウッドの製品にせよ、木であることの特性はしっかりと利用しているのだ。木でなければならない必然性があるのだ。

 

その上で、木であることの温かみみたいなものも機能として取り込んでいる。だって、手に持った時、プラスチックや金属より温かいのには違いないのだ。それは、ムードとしての温かさではなくて、物理的な温かさ。一時期流行った木目調のような胡散臭さではなく、伝統工芸だから良い訳でもなく、普通に、弁当箱としての曲げわっぱは優れているしカッコいいということなのだ。その上で、ムードを楽しむのは、それはそれで悪くないし。

 

【著者プロフィール】

納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。

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