ライフスタイル
2018/4/26 18:00

「住む」がビジネスに!? ノマドワーカーがついに辿り着いた家とは?

ここに“住むこと”をビジネスにできないか?

“旅と家”を逆さから読んで“えいとびたー”と名付けられたこの家、この暮らし。実はシェアハウスを作ると決めた当初から、伊佐さんやメンバーたちの頭の中にはさまざまな構想が浮かんでいたといいます。

 

「自分たちが旅をしていたとき、すごく困ったのが、東京の宿やAirbnbはやっぱり高くて、泊まるところがなかなか見つからなかったこと。私たちはここを広い意味での旅人のためのシェアハウス、これからの“旅をしながら暮らす人”のひとつのモデルケースにできたらいいなって思っているんです。たとえば誰かが3ヶ月旅に出るなら、その間、東京に短期間の住まいが必要な別の旅人が住めばいい。もちろん誰でも良いわけではなくて、各メンバーが信頼を置いている知り合いに限り、というのが最初はいいかなとは思っていますが……。

あえて“えいとびたー”と名前をつけてロゴを作って、連続イベントなどを始めてみたのも、この新しい生き方、住まい方、働き方をビジネスに繋げていけたら、もっと持続可能な旅ができるかもしれないという思いがあるからです。せっかく三軒茶屋徒歩2分という好立地でDIYもできる物件なので、もっと楽しいことを仕掛けられたらいいなって」

 

そもそも旅人ばかりが集まったシェアハウスなので、入居当初は伊佐さんが知人からもらった必要最低限の家電製品しかなかったこの家。どの部屋をどのメンバーが使うかも一応は決めてありますが、5人全員が揃う機会は伊佐さんいわく「滅多にない」ので、今後家の中がどんな風に変わっていくのかはまだ誰にも分かりません。

 

「個々が自分の家具を買って自分の部屋を独自に完成させるというよりも、DIYで壁にディスプレイ棚を取り付けたり、開閉式のテーブルを作り付けてコワーキングスペースを作ったり……といったことを考えています。一応自分の部屋はあるけれど、そこでイベントをすることもあれば、代わりに誰かが住んだりってこともあるという。今のところ、光熱費はその月に家にいる・いない関係なく等分ですが、食事やその他の家事についてはあまり細かいルールを決めていません。まだ暮らし始めたばかりだから大きな問題は起こっていないけれど、メンバーの誰かがすごくガマンをしたりするのはイヤだから、言いたいことはちゃんと言えるようにコミュニケーションをとっていきたいかな」

 

↑伊佐さんの部屋は、空いたままの壁面にDIYでディスプレイ棚を取り付けたり、開閉式のテーブルを作り付けて簡易デスクにしたり、コワーキングスペースとしての機能をもたせることも予定しているそう

 

旅先でも日常のなかでも人と関わっていたい

海の見える街でアトリエのある家に住んでみたい。前回のインタビューでそんな夢を語っていた伊佐さんですが、始まったばかりのこの暮らしは、それとは全く違う形をしていました。

 

「もちろんそういう家もいつかは建ててみたいんです。だから“えいとびたー”は終の住処というイメージで作ったわけではありません。でも今のところ私にとって、東京のこの家は自分が戻ってきたい場所。自分でもなんで一人旅ができるんだろう?ってたまに不思議に思うくらいなのですが、実はすごく寂しがりなんですよね。以前東京で普通に暮らしていたころは、寂しくなると終電間際でもどこかに遊びに行けたし、そこで誰かに会えた。でも一方で私はひとりの時間もすごく必要なタイプで、初めての本を書くとなったとき、孤独にならなきゃ書けないかもしれないと思ったんですよね。それが世界一周の旅に出たひとつの理由でもありました。知らない街で四季の移り変わりを見て、知らないごはんを食べて。そうやって本当にひとりになれば、もしかしたら創作意欲が刺激されるんじゃないかって期待した部分もありました。

それはたしかにそうで、これからも必要な時間なのだけれど、これからずっとそれだけを続けるイメージは持てなくて。なんでかっていうと、ひとりで過ごす時間は『ただただ静かな人生』だったから。景観や自分が触れる物がどんなに美しくても、人と関わらないと、私は劣化していくのかなってすごく思ったんですよね」

 

いつか海の見える丘の上にお気に入りの家を建てたとしても、そこにはたくさんの人を呼びたい。そう語る伊佐さんにとって、家とはもしかすると“人”そのものなのかもしれません。

 

「今後どんなことが起こるかは未知数だけれど、“えいとびたー”は今の時点の自分にとって、いちばん理想としていた形になったと思います。この物件はちょっと珍しくて契約期間が5年もあるのですが、それまで同じメンバーが住み続けているかどうかも今は分かりません。今後三軒茶屋の駅の周りに再開発の話も出ているので、10年後にはこの建物そのものもなくなっているかもしれませんしね。ただ今は、この新しい暮らしにすごくワクワクしている状態。私は海外のドミトリーをよく利用してきたのですが、こういうスペースにいろんな人が出入りすることで、新しい何かが始まるっていう場面をたくさん見てきました。私もそもそも頭の固い人間なので全く心配がないわけではないですけれど(笑)、そういう暮らしを自分の家で一度やってみるのもいいかなって」

 

【プロフィール】


編集者/伊佐知美さん

1986年新潟県生まれ。Webサイト「灯台もと暮らし」創刊編集長。エッセイスト、トラベルライター、フォトグラファー、オンラインサロンの主宰、イベント登壇といった活動に取り組む。2017年に「灯台もと暮らし」での移住者への取材をもとにした初の著書『移住女子』(新潮社)を上梓。同年秋には、オンラインコミュニティ「旅と写真と文章のSlackコミュニティ」を新たに立ち上げた。

灯台もと暮らし http://motokurashi.com/

 

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