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2018/8/4 19:15

【今週の大人センテンス】甲子園でバットを振って怒られた白山高校の女性部長を擁護する!

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

写真:日刊スポーツ/アフロ

 

第104回 その無駄な批判は害悪である

「試合のための見学会なので、私が立ってはいけないところですよね」by川本牧子部長(三重県立白山高校野球部)

 

【センテンスの生い立ち】

5日に開幕する夏の甲子園大会(第100回全国高校野球選手権記念大会)。7月31日から、出場校による甲子園見学がスタートした。初出場の白山高校(三重)の見学時間の際に、川本牧子部長が監督に促されて打席に立ち、かつて少年野球チームに属していた実力を発揮して見事なスイングを披露。ところが、大会関係者に制止され、厳しく注意されてしまう。そのことがニュースになると、ネット上には「怒られて当然だ」という声があふれた。

 

【3つの大人ポイント】

●調子にのってしまったことを素直に反省している

●生徒たちといっしょに喜びを噛みしめている

●高野連や世間のトホホっぷりを見せつけてくれた

 

どうでもいい雑音なんて気にしないで、甲子園という晴れ舞台に立っている喜びを思いっ切り味わってもらいたいものです。元野球少女で甲子園に憧れていた部長を打席に立たせてあげよう――。監督のそんな気遣いに応えて打席に立ち、選手たちも笑顔で取り囲んで、部長が華麗なスイングを決めた瞬間にはみんなで盛り上がる。いいじゃないですか、かたいこと言わなくたって。しかも、ボールを使わない「見学会」だったわけだし。

 

しかし、いつの間にか日本は、「そのぐらいいいじゃないか」「かたいこと言うな」という言葉を口に出しづらい、うっかり出すと袋叩きに遭いかねない嫌な雰囲気が蔓延してしまいました。ひじょうに息苦しい、ギスギスした世の中です。何をするにも何を言うにも、まず最初に「叩かれないこと」を気にして、当たり障りのないつまらない案や言い方になったり、結局何もしなかったり……。誰もが常に批判におびえる癖がついてしまっています。

 

7月31日の出場校による甲子園見学で、白山高校の川本牧子部長が打席に立ってスイングしたら、大会関係者から注意を受けてしまいました。本人のコメントによると「すごく怒られました」とのこと。私の出身地の三重県代表の学校だから多少ひいき目が入っているかもしれませんけど、そこを差し引いても、すごく怒られるようなことをしたとは思えません。「ちょっと調子に乗っちゃった。ポリポリ」ぐらいの話です。

 

高野連の言い分としては「今回の見学会は、背番号をつけていない選手やそのほかの人はグラウンド内には入れない、という規則だったので。女性だからダメ、というわけではない」とのこと。部長というのは監督より上の立場であり、選手が戦いやすいように細かくバックアップするのが役目です。グラウンドに入って確かめたいこともあるでしょう。なぜ入れないのか、意味がわかりません。そして、もし部長が男性だったら、高野連は同じ態度を取ったでしょうか。わざわざ念を押しているところが、余計に怪しさを際立たせています。

 

川本部長の華麗なスイングの写真はこちら。部長も選手たちもじつにいい表情です。
甲子園初出場の白山女性部長 球場見学で打席に立ち大会関係者から制止、注意(「デイリースポーツ」7月31日配信)

 

謎の規制を作りたがるのは高野連のお家芸ですが、より激しくトホホだったのが、ネット上に部長を非難する声があふれたことです。非難する側の根拠は「そういう規則なんだからダメに決まってるだろ」というもの。ああ、つまらない。ああ、うっとうしい。もちろん、規則は大切です。守るべき規則はちゃんと守ったほうがいいのは当然です。しかし、その時々の状況によっては、「そのぐらいいいじゃないか」「かたいこと言うな」が入り込む余地を残しておくことも、規則を守るのと同じぐらい大切だと声を大にして言いたい!

 

こんなこと言っても、自分の頭を使うという発想がなく、規則に従順に従うことが「絶対的な正しさ」と思い込んでいる人や、叩かれないことを何より優先して考える癖が染みついてしまっている人には、ピンと来てもらえないんでしょうね。ただ、わざわざ声には出さないまでも、常々「そんなことでいちいち知らない人を叩いて何が楽しい」と思っている人は、けっして少数派ではないと信じたいものです。

 

鼻の穴をふくらませて「規則がー」と言いたがるヤツは、どうせネットぐらいしか威張る場所がなくて、実生活では融通の利かなさで周囲に距離を置かれがちなタイプばっかりに違い……おっと、妄想が暴走してしまいました。すいません。いやいや、そうじゃない方も少しはいるかもしれません。いずれにせよ、ドヤ顔をして目先の快感を味わいたいだけの無駄な批判は、けっして世の中をよくすることはなく、どんどん悪くするだけです。

 

規則を軽んじる話をすると、「じゃあ、こういう場合はどうなんだ」「それを許したらこれも許さなきゃいけなくなるぞ」と極端な例を出してくるのがお約束ですが、そんなのその都度考えればいいだけの話です。「規則至上主義」の人たちは、ほとんど人がいない駅の階段で上に向けて矢印が書いてあるところを降りるとか、図書館で本を借りてうっかり返却日を過ぎてしまうなんてことは絶対にしないんでしょうか。きっとしないんでしょうね。

 

白山高校の野球部の部長も監督も選手も、今回のことはぜひ笑い話にしてしまってください。川本部長は「試合のための見学会なので、私が立ってはいけないところですよね」とコメントして、ここはちゃんと素直に反省しておくという大人の殊勝さを見せてくれました。いっぽう新聞記事などで報じられているキャラクターからは、あくまで勝手な想像ですが、こんなことぐらいではめげないたくましさが感じられます。

 

県大会で優勝が決まったとき、主将が「『日本一の下剋上をする』と言ったけど、それが達成できました」と言いました。2年前まで10年連続初戦で敗退していた山奥の学校が、あれよあれよという間に甲子園出場を決めるなんて、誰も予想していませんでした。在校生にとってもOBやOGにとっても、大きな自信と誇りになったでしょう。今の選手や指導者はもちろん、歴代の選手や指導者の夢の結実でもあります。本当におめでとうございます。

 

勝ち負けにこだわらざるを得ない強豪校だけでなく、思いがけず出場した学校の戦いっぷりからも、いろんなことを感じさせてもらえるのが高校野球のいいところ。2日に抽選会がありますが、どこと当たってどんな戦いを見せてくれるのか、とても楽しみです。ちょっとしたアクシデントをネタに、野球から離れて「窮屈な世の中を憂う」みたいな話にして、たいへん失礼いたしました。かなり間接的ですが、私なりのせいいっぱいの応援の気持ちです。

 

【今週の大人の教訓】

人は「規則」に支配されたり「正しさ」を振り回したりする快感から逃れるのは難しい

 

【著者プロフィール】

コラムニスト 石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は、さまざまなメディアに取り上げられて、世に大人ブームを巻き起こした。近著に『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物である伊勢うどんを熱烈に応援し、2013年に世界初の「伊勢うどん大使」(三重県製麺協同組合&伊勢市麺類飲食業組合公認)に就任した。 FBページ「伊勢うどん友の会」:http://www.facebook.com/iseudontomonokai

 

大人力ブログ:http://blog.otonaryoku.jp/

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