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2018/11/25 18:00

なぜ日本人は「タピオカミルクティー」が好きなのか?【ファッションフードの平成史】

前回書いたように、ティラミスは年齢や性別、地域を超え、すべての日本人を巻き込む前代未聞の超弩級ヒット作になった。この成功体験に味をしめたメディアは、ブームがまだ真っ盛りのころから「ポスト・ティラミス」を必死で探しはじめた。

出典:「春水堂インスタグラム@chunshuitang」より

 

■スイーツで盛り上がるオジサン

女性誌より熱心だったのが、男性向けの週刊誌やビジネス誌だ。食の流行、ましてやスイーツに対する興味などなかった中高年男性を、ファッションフードの威力に目覚めさせたのが、ティラミスだったわけ。

 

「『Hanako』が隠すポスト・ティラミスはこれかな? サンデー毎日が押すのはチーズ蒸しパン」(『サンデー毎日』1990年10月21日号)、「混戦のデザート市場リサーチ ティラミスの柳の下の2匹目のドジョウは?」(『週刊ポスト』1991年2月22日号)、「ポスト・ティラミスは“舌の快感”がキメ手!?」(『DIME』1991年11月7日号)というように、記事のタイトルからもオジサンたちの盛り上がりようがわかる。

 

本家の『Hanako』が満を持して「発表! 91年のデザートの女王はクレーム・ブリュレです。」と宣言したのは、ティラミス特集から7か月後の1990年11月29日号だった。

当時、クレーム・ブリュレは高級フレンチレストランでしか食べられなかったし、ティラミスと違ってテイクアウト化が難しかった。特集を読んで「ちょっと無理があるんじゃないの?」と思ったが、案の定ブレークにはいたらず、せいぜい中ヒット。

 

■突如勃発した「チーズ蒸しパン戦争」

意外にも大ヒットしたのは、週刊誌が押したチーズ蒸しパンだった。元祖の日糧製パン製は90年11月に月産600万個を記録して品切れ状態が続き、大手パンメーカー各社がいっせいに追随して似たような製品を発売した。どれも判を押したように楕円形で、1袋120円。味と食感がメーカーでかなり違い、食べくらべが流行した。

 

「チーズ蒸しパン戦争」も、ティラミスに負けずすさまじかった。1日に500個売れたコンビニもあったほどだ。各社が蒸しパンの製造ラインを大幅に増やし、91年の市場規模は400億円を突破。あやかり商品が氾濫したのも、ティラミスと同じだ。

 

こうなると、ポスト・ティラミスが食品業界全体の関心事になるのは必然。ティラミス以降、企業が意図的に仕掛けたファッションフードが目立って多くなる。

 

チーズ蒸しパンの次に、思いがけない方角から飛び込んできた伏兵が、東南アジアの「タピオカ」だ。キャッサバ(※)のでんぷんをパール状の粒に加工したものである。

 

■実は80年代前半から輸入されていた

実はタピオカの輸入は、80年代前半にはじまっていた。だが、長時間ゆでる手間が敬遠され、需要はごく少数の中華料理店にとどまっていた。それが、エスニック料理ブームが起こり、東南アジア諸国のレストランがいっせいにタピオカを使ったデザートを出すようになって風向きが変わった。

 

カエルの卵そっくりのユニークな形状と、葛餅とわらび餅とも似て非なる“もちもちピュルピュル”した食感が衝撃的で、タピオカはたちまちエスニックスイーツの花形になった。ただかわいくておいしいだけでなく、見た目と食感が「ヘン」で面白いのが、ヒットの要因。

 

実はティラミス・ブームの前年に「グミ」のグニュグニュした食感が話題になったことがある。そのあたりから、ちょっとヘンで面白いことを食べ物に求める傾向が生まれ、タピオカで決定的になった。

 

■もちもち食パンの秘密

なかでも日本人の舌にマッチした「タピオカココナッツミルク」が浸透していく一方、90年代後半に第2のタピオカブームが起こる。「タピオカミルクティー」である。タピオカココナッツミルクに使うよりずっと大粒で黒い「ブラックタピオカ」を、こってり濃厚で甘いアイスミルクティーに入れたドリンクで、台湾が発祥だ。

 

見た目のヘンさは小粒のタピオカを上回り、底に沈んだ粒を太いストローで吸い込むのが斬新。大粒なので、もちもち感とプヨプヨ感がより楽しめる。飲み物であって食べ物でもあるタピオカミルクティーは大うけして、2000年ごろからカップ飲料としてコンビニにも並ぶようになった。

 

食感こそ、タピオカ最大の特性であり長所である。個性的な見た目に反して、それ自体ほとんど無味無臭のタピオカは、どんな食材とも合わせやすく、食感だけで勝負する稀有な材料だ。

また、タピオカでんぷんは、食品の食感を改良する力を持っている。現在のパンとケーキで支配的なもちもち嗜好の原点である「新食感宣言」(山崎製パン)は、日本で最初にタピオカでんぷんを使用した食パン。タピオカは、本当に日本に新食感をもたらしたのである。

 

■「タピオカミルクティー」の大爆発

ブームから定着に移っていたタピオカミルクティーが、いま再ブーム中である。発祥の店とされる「春水堂」が2013年、東京・代官山に海外初支店を開いたのを皮切りに、台湾の人気チェーン店が続々と進出し、どこも若い女の子たちの行列が日夜絶えない。

第1次ブームと違うのは、タピオカはもちろん、茶葉や砂糖、ミルクの品質にまでこだわって、本格的でおいしくなったこと。また、ミルクティーだけでなく、ほうじ茶や抹茶、ジャスミン茶、ウーロン茶と、茶の選択肢が増え、フルーツジュースやスムージーで作る店もある。

 

フルーツやチョコレート、ゼリーやアイスクリームなど、トッピングの範囲も広がった。見た目がぐっと派手になって、SNS映えも満点。豪華になったぶん、1杯の容量も大きくなった。

 

上質なおしゃれ感をまとって再登場したタピオカミルクティー、値段は前回よりずいぶん高めだが、なにせタピオカは高カロリーのでんぷん。ミルクも砂糖もたっぷり入っているので、1杯でけっこう腹がふくれる。カフェでコーヒーとケーキを食べるよりはやや安上がりに、心もお腹も満たせて500〜600円。かなり優秀なファッションフードである。

 

(※)中南米原産の多年生植物で、16世紀に奴隷貿易でアフリカに伝播した。現在、全生産量の半分がアフリカで、残りの4分の1ずつが東南アジアと中南米で作られ、主食としても食べられている。土質を選ばず乾燥した気候でもよく育ち、イモの作付面積当たりのカロリー生産量はあらゆる穀物・イモ類中ナンバーワン。イモから製造したでんぷんが「タピオカ」、でんぷんを水に溶いて加熱し、半分糊化してから粒状に乾燥させたのが「タピオカパール」。日本では粒タイプがタピオカの名前で定着した。

 

【関連書籍】

ファッションフード、あります。』(筑摩書房)

【著者プロフィール】

食文化研究家 畑中 三応子

食文化研究家・料理本編集者
『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)編集長を経て、プロ向けの専門技術書から初心者向けのレシピブックまで、幅広く料理書を手がけるかたわら、近現代の食文化を研究・執筆。著書に『ファッションフード、あります。–はやりの食べ物クロニクル』(ちくま文庫)、『カリスマフード–肉・乳・米と日本人』(春秋社)、『体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか』(ベスト新書)など。編集プロダクション「オフィスSNOW」代表。

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