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2019/5/18 19:15

【今週のアッパレ】家族にも兄弟にも見放された66歳男性に鴻上尚史が贈るアドバイス

トホホなニュースが多い世の中ですが、怒っていても疲れるだけ。攻撃より称賛を。イラッとよりニコッとを。ニュースで見つけた「アッパレ!」なフレーズにスポットを当て、そのまぶしい照り返しを堪能し、明るく楽しい気持ちになってしまいましょう。

出典:「朝日新聞出版」より

 

第5回 

読む側の人間性も問われている

「僕のアドバイスは、『まずは、対等な人間関係を学習しませんか?』ということです」by鴻上尚史

 

3つのアッパレポイント

●やさしく受け止めた上で丁寧に諭している
●口調はやわらかいけど内容は極めて厳しい
●読者が自分の生き方を省みることができる

 

人生相談の回答は、お悩みを寄せてきた相談者だけでなく、それを読む読者にも向けて書かれています。たとえ自分とは状況が違っても、回答の中から「自分なりに役に立つこと」を探して少しでも糧にしてしまうのが、人生相談の有効な活用法と言えるでしょう。もちろん、回答者がどんな答え方をするか、その“芸”を鑑賞するのも大きな楽しみです。

 

世の中にあまたある人生相談の中で、今もっとも熱い注目を浴びているのが、作家・演出家の鴻上尚史さんが「AERA dot.」で連載している「鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」です。スタートは2018年8月。ほぼ週一回のペースで新しい回答がアップされると、ネット上で共感や称賛や感謝の声が渦巻きます。

 

5月6日にアップされた【相談27】の「66歳男性が風呂場で涙… 友人もいない老後を憂う相談者に鴻上尚史が指摘した、人間関係で絶対に言ってはいけない言葉」は、ひときわ大きな反響を巻き起こしました。隠居生活に入った66歳の「有閑人」さんが、兄弟からも妻からも相手にされず、「最近、風呂に入っていると涙が出てきます」「どうやってこの後の人生を過ごしていいか」「孤独で、寂しくてたまりません」と訴えます。

 

「有閑人」さんは、妹に「お兄さん、気づいてないの? みんなお兄さんが煙たくて、距離とっているんだよ」と言われ、弟にも「兄貴と呑んでもえばった上司と話しているみたいで酔えんから」と冷たくされます。退職したら妻とゆっくり旅行に行きたいと思っていましたが、妻は「旅行は友達と行ったほうが楽しいから」と相手にしてくれません。

 

どうやら相談者は、学歴や会社を鼻にかけ、口を開くと説教臭いことしか言わず、しかも本人はそのことを「相手のためを思って言ってやってるんだ」と認識しているタイプのようです。ようやく「このままではいけない」と気付いたものの、何がいけなかったのか、どうすればいいのかは、まだよくわかっていません。

 

鴻上さんは、まず「立派な学歴と優良な会社に勤めた有閑人さんにとって、自分が弟・妹・妻にうとんじられている、ということを認め、お風呂で泣いていることを告白するのは、とても勇気がいったでしょう」と、相談者をやさしくねぎらいます。そこから、自分に自信がある男性は、なぜ人に説教したがるのか、それがいかに狭い価値観に基づいた誤った行為で、相手にとっていかに失礼で迷惑なことかを丁寧に諭します。

 

仕事を釣りに例えて、上手に釣りができないことを兄に責められ続けたら、どう思うか。釣りより仕事が大切、釣りができるより仕事ができるほうがエライというのは、一面的な価値観に過ぎない。仕事や出世より大切なものがある人はたくさんいる。いろんな方向から「仕事ができた自分にしがみつく無意味さ」を解きながら、鴻上さんは言います。

 

そして、もうひとつ。仕事が一番大切だと思っているのに、その結果がうまく出ない人も普通にいます。人間には、向き、不向きがあるのです。

 

世間的な評価が低い会社に就職したことが嫌だとしても、それを責める資格があるのは、勤めている弟さん本人であって、兄ではないのです。

 

そして、どうすれば兄弟や奥さんといい関係を作れるかということについては、しっかり出来上がっている長年のイメージは簡単には変えられないとした上で、こう提案します。

 

僕のアドバイスは、「まずは、対等な人間関係を学習しませんか?」ということです。弟・妹さんと仲良くすることは、いったん、あきらめて、他に人間関係を作るのです。

 

そこでは「決して自分からは、相手にアドバイスしないこと」と釘を刺します。かなり劇的な変化が必要ですが、変われない限り孤独な老後にまっしぐらでしょう。また、相談者が「もう66歳だから、変わるには遅すぎる」と及び腰になったときのために、「自分は、10年先から戻って来たと思う」という秀逸な解決策を提示。その手を使えば何歳になっても未来の可能性を感じられると同時に、年齢に甘えて逃げる道をふさがれます。

 

やわらかい口調でわかりやすく説明しながら、相談者のいちばん痛いところを突いている鴻上さんの回答っぷりは、じつにアッパレ。ぜひ全文を読んで、人間に対する深い洞察と華麗な文章芸をご堪能ください。3回前の「『友人に絶交されました…』 鴻上尚史が指摘する原因“無意識の優越感”とは」もオススメです。

 

さて、この「有閑人」さんのようなタイプの人は、年代を問わず、けっして珍しくはありません。誰しも「いるいる」と具体的な顔が思い浮かぶでしょう。そのせいかネット上では、回答に感心しつつ「こういう老害がどうなろうと自業自得だ!」「今さら変われるわけがない!」といった相談者への非難の声があふれています。「父親を見ているようです」「夫がまさにこのタイプです」といった嘆きも。

 

嘆くのはさておき、はたして非難している場合でしょうか。「自分の価値観にしがみついて、他人を批判したり見下したりする」という行為は、けっして人ごとではないはず。しかも、本人は自分がしていることをなかなか自覚できません。反射的に「自分は違う!」とムキになる人や、相談者を非難して留飲を下げている人こそ、同じことをやっていたり孤独な老後を過ごすことになったりする可能性が高い気がします。

 

人生相談を読んでどう感じるかは、読む側の人間性との合わせ鏡。鴻上さんは、66歳の相談者を諭しつつ、回答を読む私たちにも警告を発してくれているに違いありません。警告を察知して、「自分もそうなっていないか」「自分の中にもそういう部分はないか」を省みたいところ。とくに思い当たる節がなくても、「ひょっとしたら知らないうちに……」という疑いは捨てないほうがいいでしょう。

 

言ってるそばから何ですが、警告を察知して自分を省みよう、他山の石にしようと提案するのも、しょせんは「一面的な価値観」ですね。「自業自得だ!」と非難している人を「おいおい……」と見下しているかもしれません。たいへん失礼いたしました。どう反応しようが勝手ですよね。「そういう人もいる」と受け止めることにします。そして、受け止めつつ「自分はそうならないように気をつけよう」と他山の石にもさせていただきます。

 

【今週の教訓】

非難する快感より何かを学んだ気になる快感のほうが大きい

 

【著者プロフィール】

コラムニスト 石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は、さまざまなメディアに取り上げられて、世に大人ブームを巻き起こした。近著に『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物である伊勢うどんを熱烈に応援し、2013年に世界初の「伊勢うどん大使」(三重県製麺協同組合&伊勢市麺類飲食業組合公認)に就任した。

 

FBページ「伊勢うどん友の会」:http://www.facebook.com/iseudontomonokai

 

大人力ブログ:http://blog.otonaryoku.jp/

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