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2019/6/22 18:15

バブリーダンスはよくて音楽教室はダメ? JASRAC著作権使用料のフシギ

2019年5月、JASRACが著作権使用料を支払わずに音楽CDをBGMに使用した大阪市内のバーを提訴するという事件があった。

出典:YouTube「バブリーダンス 登美丘高校ダンス部 Tomioka Dance Club

 

『JASRACにBGM利用申請相次ぐ、訴訟影響か』

 

産経新聞の記事によるとバーの店主は、

 

「(著作権使用料の説明のため来店したJASRAC職員について)職員の態度が横柄で、納得できる説明もなかった」

 

「びっくりしている。『なぜうちの店だけ』との思いがある」

 

などと話しているらしい。

 

提訴と言うとよほど高額な請求かと思いがちだが、今回JASRACが請求しているのは約6万2千円。一般的な規模の飲食店に課せられる著作権使用料は年間6,000円なので、けっして無茶な金額ではないと感じる。

 

■すべての商利用は著作権利用料の対象

そもそも日本では著作権という概念が欧米ほど浸透していない。お店や施設を運営する側はもちろん、音楽を作っている当事者のミュージシャンですら著作権について驚くほど無知だ。学校、医療施設、自宅や職場等のクローズな空間以外での商利用、つまりビジネスに付随して音楽を利用する際には著作権利用料が課せられる。

 

テレビやラジオ、インターネットでの放送、CDや音楽配信サイトでの出版、コンサートやイベントでの演奏、カラオケや店舗での再生……これらはすべて商利用とみなされ、JASRACが著作権利用料を徴収し著作者に分配する。

 

ある意味明快なシステムなのだが交通違反と同じで「これくらいならいいだろう」、「めんどくさい」という意識や、そもそもこういう法律について知識が全くないという理由でこれを無視する人は数多い。JASRACの推計では全国でBGMを利用する約125万店のうち約40万店が未契約の可能性があるらしい。

 

■著作権は自然権

またミュージシャンにも同様に著作権について関心の薄い人が多い。著作権は自然権。つまり楽曲が出来上がった時点で発生する権利だ。テレビなどのメディアやコンサート、飲食店などで自分の作った楽曲が利用されたら著作権使用料の分配を受ける権利が発生する

 

とは言え、ミュージシャン個人が著作権使用料を関係先に請求したり利用状況を確認して回るのは困難なのでそれを代行するために存在するのがJASRAC。ところがJASRACと信託契約を結ぶには放送、出版等で実績を残したという一定の基準をクリアし、事務手続きをする必要がある。

 

基準や手続きと言ってもたいしてハードルの高いことではないのだが、ミュージシャンには社会的な知識に欠けていたり、めんどくさがりの人が多い。音楽自体の才能があっても音楽ビジネスや法的な部分には興味を持てず、結果として利益を逃してしまっているケースが非常に多いのだ。

 

■日本を代表するミュージシャンでも著作権については無知?

2017年2月、大手音楽教室に対し使用楽曲の著作権使用料支払いを求めたJASRACが、ヤマハ音楽教室らから提訴され大きな話題になった。SNSでは音楽教室側寄りの意見が多く有名ミュージシャンにも不満を訴える者がいたが、中でも最も注目されたのが宇多田ヒカルさんの

 

「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」

 

というツイートだった。

 

学校と音楽教室を混同していたのかもしれないが、そもそも教育機関での使用は支払いの対象ではない。

 

学校の吹奏楽部やダンス部が練習や発表会で音楽を使用するのは自由。たとえば2017年に登美丘高校ダンス部のバブリーダンスが脚光を浴びたが、入場料や報酬が発生しない非営利の場で披露する限り『ダンシングヒーロー』の著作権使用料は発生しない。音楽の授業で『花は咲く』を歌うのも運動会でZARDの『負けないで』をBGMにするのも自由だ。

 

しかし日本の音楽教室は楽器メーカーや芸能プロダクションが運営しているケースが多く、発想は塾やダンス教室と同じで純粋なビジネスだ。アメリカなど主な先進国は以前より音楽教室から著作権使用料を徴収しているし、JASRACが音楽教室に求めているのも「レッスン料の2.5%を上限として協議したい」というもの。

 

しかも「当分の間、個人教室については管理の対象とはしません」(2019年6月現在)というのだから十分に寛大な姿勢だと思うのだが、宇多田さんは上記の事実を踏まえどう思うのだろうか。

 

■著作権意識の向上がミュージシャンの社会的地位向上に

JASRACの管理が行き届くことが「音楽文化を滅ぼす」なんてことを言う論者もあるみたいだが、音楽教室が売上から数%差引かれたり音楽バーが年間6000円徴収されて滅びる音楽文化ってなんだんだろう?

 

僕はミュージシャンとしてもっと著作者の権利は守られてほしいし、その上でミュージシャンの社会的地位がもっと向上してほしいと願う。現在、ミュージシャン人口は増えすぎ、その値打ちはデフレの一途。70年代、80年代頃までは有名でないミュージシャンでも実力さえあればライブハウスや飲食店で演奏することで生活することができた。

 

ところが今はライブハウスで演奏するのにチケットノルマを課され、CDも売れず、路上コンサートでわずかな投げ銭を乞い、という具合。メジャーレーベルに所属しても給料が出ず、アルバイトしなければならない者も多い。ミュージシャンの社会的地位はそこまでに低下しているのだ。

 

残された活路はただ一つ。著作権使用料の巡りが少しでも良くなるよう主張し、本来得られるべき利益を取りこぼさない体制を作ることしかないと思うのだ。どうすれば音楽文化が豊かになるのか?自由に、タダで利用されることが豊かさなのか?

 

ミュージシャン本人も、ミュージシャンを応援する人も、一度著作権について考える機会を持っていただければ幸甚だ。

 

【著者プロフィール】 

シンガーソングライター/音楽評論家 中将タカノリ

シンガーソングライター、音楽評論家。2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。深い文学性と、歌謡曲、アメリカンポップスをフィーチャーした音楽性で独自の世界観を構築している。近年は音楽評論家、タレントとしても活躍の幅を広げる。

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