ライフスタイル
2019/7/8 19:00

世界の海で異常事態!今こそ知りたい「マイクロプラスチック」とは?

近頃「マイクロプラスチック」という言葉を耳にする機会が増えています。マイクロプラスチックとは、海に浮いている5mm以下のプラスチックの粒や破片のこと。最近、これが北極や南極に至るまで、海全体に浮いていることがわかりました。貝や魚の体内からも発見されており、環境への影響が心配されています。

 

今回は、世界各地の海岸で拾ったマイクロプラスチックの市民参加のモニタリング「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰する、東京農工大学農学部環境資源科学科 教授・高田秀重さんに、マイクロプラスチックの現状と原因、対策などを聞きました。

マイクロプラスチックの原因とは?

マイクロプラスチックはもともと、プラスチックごみからできています。プラスチックは全世界でおよそ4億トン生産されていて、その約半分が、コンビニで売られているお弁当箱、レジ袋、ペットボトルの蓋、お菓子の袋など、使い捨て容器や包装に使うものです。

 

「たとえば日本では、レジ袋は毎日一人が一枚程度使っているのですが、年間で計算すると300億枚使われていることになりますし、ペットボトルは年間200億本が消費されています。それだけプラスチックのごみが世の中に溢れているのです」(東京農工大学農学部環境資源科学科 教授・高田秀重さん、以下同)

 

それがなぜ、海へと流れ込んでいるのでしょうか?

 

【原因1】“街のごみ”が“海のごみ”へ

海辺でお弁当を食べたりジュースを飲んだりしたごみを片付けなかったものが、海を流れてマイクロプラスチックになるのではありません。「実は、マイクロプラスチックのほとんどが、日常生活で使って街に落ちているごみなのです。誰かが意図的に街に捨てたのではなく、ごみ箱から溢れてしまったものやポケットから落ちたもの、風に飛んだものなど、悪意なく道に落ちているものが、雨で流されてやがて海にたどり着き、マイクロプラスチックになっているのです」

マイクロプラスチックはたとえばこんなものから作られる

・カラスにいたずらされて散乱したごみの一部
・ごみ箱から風で飛んだ傘用のビニール袋
・誰かが落としたストローや飴の包み紙
・人工芝や足拭きマット、園芸用品の破片

 

【原因2】ごみは洗濯や洗顔の排水からも流出

次に、マイクロビーズと呼ばれる1mm以下のプラスチック粒やレジンペットが挙げられます。「マイクロビーズは、洗顔料に“スクラブ”として入っているものなので、身近ではないでしょうか。レジンペットというのは、プラスチック製品になる前のいわば材料です。レジンペットを加熱して成型するとさまざまなプラスチック製品になるのですが、工場間の輸送のときや船で運搬するとき、環境中や海に流れることがあります。また、メラミンスポンジは脆くて掃除中にくずになりやすく、洗剤を使わないから環境によいとされているアクリルスポンジも、毛糸かすが排水に流れ出ています。フリースなど化学繊維の衣類を洗ったときの洗濯くずも同様です」

「排水に流された洗濯くずやスクラブなどは、下水処理場で除去され、95〜99%は処理されています。しかし100%ではありませんし、雨が降ると排水が処理場を通らず海や川に放出されてしまう場合があり、マイクロプラスチックも排水と一緒に海に運ばれてしまうのです」

 

【原因3】使い捨てプラスチック製品の膨大さ

最後に、そもそもプラスチックの使い捨て製品が多いことが挙げられます。「荒川から3km離れた河川敷を調べたところ、付近のペットボトル回収率は88.9%(2015年調べ)でした。案外しっかりリサイクルできているという印象の数字ですが、本数に直すと、回収されていないのは約25億本にものぼり、河川敷は大量のプラスチックごみだらけです。大量に製造され廃棄されているので、リサイクル率100%でないと、ごみも大量に発生するということになります」

「また、プラスチック汚染は、海や川によって流されて別の場所に移動するという特徴があります。たとえばハワイ島のカミロビーチは、まわりに人がほとんど住んでいないにもかかわらず、砂浜にはたくさんのごみが流れ着いています。アメリカから来たものもありますが、日本語や中国語、ハングルなどで書かれたパッケージも多く見られ、アジア圏のごみが遠くまで運ばれて、別の地域を汚していることがわかります。ひいては日本にもさまざまな国から流れてきたごみがあると言えます」

 

原因がわかったところで、続いて知りたいのは、マイクロプラスチックが何にどのような影響を与えるのか?

 

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マイクロプラスチックによる影響は?

マイクロプラスチックが与える影響とは、どのようなものなのでしょうか?

 

【影響1】動物へのダメージ

ひとつには、海鳥や貝、魚などがマイクロプラスチックを誤飲したり食べてしまったりして、健康被害を生んでしまうことです。「実際に解剖したハシボソミズナギトリという海鳥の胃の中からは、かなりの量のマイクロプラスチックが発見されました。胃の中で未消化のまま溜まっていきますので、胃腸を傷つけたり、食欲不振や栄養失調を引き起こしたりしてしまうのです。ウミガメ、クジラ、さらに魚など200種以上の海の生物からプラスチックが検出されており、ダメージを与えています」

 

【影響2】人体へのダメージ

魚や貝に含まれたマイクロプラスチックを人が飲み込んでも、プラスチック自体が人体に影響するわけではなく、やがて排出され、体内に溜まることはありません。

「しかし今後も手を打たなければこの汚染は止められず、海を漂うマイクロプラスチックは20年後に10倍まで増加すると言われています。現時点では、魚や貝に含まれるマイクロプラスチックを摂取したとしても、排出して問題なく過ごせていますが、プラスチックには100種以上の有害な化学物質が含まれていますし、それが今の10倍となったとき、同じことが言えるかはわからないのです」

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プラスチック製品をどう削減するか?

リサイクルの徹底やレジ袋の有料化を取り入れるスーパーマーケットが増え、以前より関心は高くなりましたが、マイクロプラスチックの問題が減っているわけではありません。

 

「リサイクルは、もちろんしないよりするに越したことはありません。しかしリサイクルにもエネルギーとコストがかかり、リサイクルに伴う環境汚染というリスクもあるので、作らない・使わない・捨てない、の徹底という、根本的な部分を変えていくことに意味があります」。

 

環境への意識の変化が求められているのです。

こんなことに注意してみよう

・レジ袋をやめてマイバッグを取り入れよう
・ペットボトル飲料を買わず水筒やマイボトルを使おう
・量り売りや包装の少ないものを選ぼう
・シリコンや石油成分、スクラブの入ったヘアケア用品やスキンケア用品を使わないようにする
・アクリルたわしやメラミンスポンジをやめてセルロース製など、天然素材のものを使う
・化学繊維の洋服は持たないようにする

 

環境問題について考えはじめると、その規模の大きさに囚われてしまい、“自分だけが気にしてもたいした効果はない”と思ってしまいがちです。しかし一人ひとりが環境について心がけた買い物をすることで店舗の意識が変わることもあるのです。身近なことからまずはじめてみましょう。

 

【プロフィール】

東京農工大学農学部環境資源科学科 教授 / 高田秀重

理学博士。日本水環境学会学術賞、日本環境化学会学術賞、日本海洋学会岡田賞など多数を受賞している。世界中の海岸で拾ったマイクロプラスチックのモニタリングを行う市民科学的活動「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰、マイクロプラスチックの危機について訴える講演活動も行っている。

 

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