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2019/8/16 10:50

サプリのように米も“機能”で選ぶべき!医学博士が提唱する「玄米」の真価

健康志向の高まる昨今、食事に対する考え方も日々アップデートされています。特に注目を集める話題のひとつが、「白米と玄米、どちらがいいのか」という話。糖質カットによるダイエットなどで白米を食べない人も増えているようですが、代わりに玄米を食べるべき、という意見もよく聞きます。

 

では、果たして本当に玄米は“体にいい”のでしょうか? 乱れた食生活から糖尿病を患い、しかし病状を回復させるために自ら玄米食を取り入れ、研究を続けている医学博士・渡邊 昌先生にインタビュー。玄米が持つ高い機能性と、驚きの効能についてまとめた書籍『医師たちが認めた「玄米」のエビデンス』(渡邊先生監修)をベースに、お話をうかがいました。

 

まず大前提として、白米との違いや種類、巷で手に入る一般的な商品まで、「玄米とはなにか?」をまとめてみましょう。

 

「玄米」とは?

体によいとされる玄米ですが、そもそもどんな米なのかというと、収穫した稲から外した籾(もみ)の籾殻を除いた状態=稲の種のことを指します。その玄米から、果皮や種皮、胚芽などの糠(ぬか)を取り除いたものが白米(精白米)、つまり、玄米とは精米していない米のことなのです。

↑上左から「籾殻」「玄米」「胚芽米」「精白米」。発芽させた玄米が「発芽玄米」(下)、胚芽米とは、糠のうち胚芽を残した状態の米です

 

玄米の種類

玄米(7分づき米/半づき米・5分づき米/3分づき米)……玄米は栄養価が高い一方、硬く食べにくいのが難点。そのため、糠層を70%・50%・30%取り除いた“分づき米”があります。70%取り除いた7分づき米がもっとも精白米に近く、食べやすくなります。
発芽玄米……わずかに発芽させた玄米のこと。発芽に伴い眠っていた酵素が活性化し、GABAが増すといわれています。
酵素玄米(寝かせ玄米)……玄米を小豆と塩といっしょに炊き、約3日間保温し熟成させることで、酵素を活性化させたもの。こちらもGABAが増すといわれています。

 

「玄米」が果たす役割とは?

白米が削り取った皮や胚芽、ぬかにこそ、玄米の栄養素が含まれています。ビタミン・ミネラル・食物繊維を豊富に含んでおり、人間が健康を保つために必要とされる栄養素をほとんど摂取できるため、“完全栄養食”と言われます。詳しくは、次ページで渡邊先生に解説していただきます。

 

編集部選 おすすめパック玄米ごはん

玄米をおいしく炊ける炊飯器も増えてきていますが、より手軽に食べられるのがパックごはん。味わいもバリエーションも進化しています。おすすめのパックごはんラインナップをご紹介しましょう。

 

東洋水産「穀民生活 玄米ごはん」

 

越後製菓「越後製菓 ほくほく豆の玄米ごはん」

 

佐藤食品工業「サトウのごはん 発芽玄米ごはん」

 

東洋ライス「金芽ロウカット玄米ごはん」

 

結わえる「結わえる 寝かせ玄米ごはんシリーズ」

 

玄米の食べ方

「玄米を食べるときには、味噌汁をつけるだけで十分」と渡邊先生。味噌汁の具も、栄養バランスのよい食事をするために考えられた言葉である「ま:まめ/ご:ごま/わ:わかめ/や:やさい/さ:さかな/し:しいたけ/い:いも」の頭文字をとって、「まごわやさしい」を基準に、具を多めに入れましょう。他にも、一晩水につけておけば柔らかくなりますし、小豆と一緒に炊くとおいしさが増すとのアドバイスも。

 

では基本をおさえたところで、さっそくお話をうかがいましょう。インタビューするのは、“ブックセラピスト”として活動する元木 忍さんです。

 

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医学博士・渡邊昌先生が説く「玄米のすすめ」


『医師たちが認めた「玄米」のエビデンス』
キラジェンヌ
渡邊昌氏が中心となり、医学者や臨床医、栄養士、研究員の総勢11名が、玄米の機能性を医学的知見から示した最新のレポート集。

 

「食べることは生きること」

元木 忍さん(以下、元木):私、毎日の食事をきちんとしていれば、病気はその“食”で治る気がしているんです。

 

渡邊 昌先生(以下、渡邊):はい、それは大いに賛成です。僕は、50歳くらいのときにひどい糖尿病にかかってしまって。内科医の先生からすぐにインシュリン療法を始めましょうと言われたんです。でも「予防をいう医者なのに、これはまずい」ということで、1年くらいかけて食事療法と運動でコントロールしたら、脂肪肝も高血圧も血糖値も、数値がすっかり正常に戻っちゃったのです。

 

元木:それはすごいお話ですね! そのときに、玄米を積極的に取り入れられたのですよね?

 

渡邊:そうなのです。

 

元木:実は、私の父もガンで闘病していました。胃も食道も全摘していましたが、薬よりも食べることが大切だと思ってくれてくれたようにも思います。少しでも食べることで元気を出してもらいたい、と思っていた頃に出会ったのが、渡邊先生の本でした。先生は医者という立場でありながら、食事療法や、様々なエビデンスで伝えてもらったお陰で、父は食べることで生きることができました。食べることがどれだけ人の体を健康にさせるのかと思えたことが、今回の取材のきっかけなんです。もちろん、その時から玄米を少しずつ食べるようになりました。

 

渡邊:玄米は“完全栄養食”と言われるほど機能性が高いお米ですからね。女性にとってうれしい美容効果もあるし、ぜひ魅力を知ってもらいたいですね。

 

玄米七徳

一、咀嚼機能を高める
玄米を食べることで咀嚼筋や咽頭筋を強くするほか、唾液分泌によって口腔内の細菌叢(さいきんそう)を良好に保ちます。また噛むことで認知機能にも好影響が出ることが報告されています。

 

二、便秘を解消する
玄米の食物繊維やγオリザノールなどが腸内細菌叢を良化。酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸産性菌を増やします。酢酸は腸内の悪玉菌の増殖を抑え、酪酸は大腸がん予防や精神機能にも影響。便秘をしないことで、美容にも効果があります。

 

三、健康長寿
肥満はメタボリックシンドロームに始まる高血圧、糖尿病、脂質異常症の元。玄米は完全栄養食で、腹持ちもいいので過食とそれによる肥満を防ぎます。玄米をよく噛んでたべているとおかずもそれにあったものになり、肉などは食べたくなくなります。また、高い健康を保ち、認知症予防にも役立ちます。

 

四、日本食の代表的食品である
ユネスコの世界遺産に登録された「和食」は、米が主食。味噌、醤油、出汁などの調味料も、米とよくマッチします。

 

五、家計に役立つ
ほかの食材に比べ、値段の高下が少なく手頃な価格で手に入ります。栄養からみても食費の面からみても、米は優秀な食材なのです。有機栽培の味のよい玄米でも1kg=1000円を超す米はあまりありません。牛肉は1kg=1万円もすることを思えば、どちらがよいかすぐわかりますね。

 

六、食育・地域農業に役立ち、水田・環境を維持できる
日本の小規模な稲作が、棚田や里山などの自然環境を守ってきました。環境に配慮した地域共生社会は、これからの少子高齢化社会を支えるキーワードとなります。

 

七、日本の食料安全保証の土台となる
日本の食料自給率は40%を下回っています。世界的な人口爆発と異常気象により食糧難が訪れた際、頼れるのは温暖化にも比較的強い米。必要量を国産できることは大事な安全保障です。

※メディカルライス協会ホームページより

 

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日本の食医学と玄米が着目された歴史

元木:玄米が体にいいというのは、いつごろから言われているのでしょうか?

 

渡邊:もともと、“食養”を提唱したのは石塚左玄(1851年生まれ医師、薬剤師)という人で、明治40年(1907年)に「食養会」という会を設立しました。その少し後になって、米国から帰国した佐伯ただすによって栄養研究所ができ、それぞれ活動をしていたのです。僕は国立健康・栄養研究所の理事長を務めているときに、栄養研究所の設立や食養会のことを勉強しました。戦前に「玄米か、七分づき米か(どちらが体にいいか)」という論争があり、対立しながら両者が続いたということがあります(笑)。

 

元木:「食養会」と言えば、人間の食物は穀物が主体であるという理論ですね。穀物の中でも玄米か、七分づき米なんてことで対立があったのですか! その時代に何か不思議な論争ですね。驚きです!

 

渡邊:ただ、そもそも「食養にはエビデンスがないじゃないか」と言われていますね。だから今回、この『医師たちが認めた「玄米」のエビデンス』を企画・監修したという経緯があるのです。

 

腸内細菌(腸内フローラ)の改善にも重要な役割を持つ玄米

渡邊:その後「GENKIstudy」という疫学調査をおこない、玄米食を習慣にしている人は、腸内細菌のパターンがみんな同じことを発見しました。長寿の人はみんな持っている細菌が多いのです。

 

元木:……というと、玄米を食べていると長寿になり得る細菌が多くなってくるというわけですね。その細菌は美容や健康に関心が高い人たちに魅力的なものです。その証明があれば、玄米の魅力はさらに注目されますね。

 

渡邊:その通り。玄米はブドウ糖の吸収がゆるやかだから糖尿病にも効果的で、さらに抗酸化作用があるので、ガン予防にも有効と言われています。それだけでなく、GABAやフェルラ酸が豊富なので、認知症予防に効果的なのです。

 

元木:玄米はすごい機能性食品なのですね。その玄米に含まれる成分が腸を刺激し、今話題の“腸活”とか、“腸内フローラ”へ影響を与えてくれる貴重な食材となるのですね。

 

渡邊:大腸だけでなく口腔内や皮膚など、実は体中がみんな菌まみれなのですけどね。

 

元木:私たちの体には、何個くらいの菌がいるのでしたっけ?

 

渡邊:体の細胞は、体重を細胞の平均重量で割って60兆個といわれていますが、菌は腸管だけで100兆個以上といわれていますから、全体では300兆個ぐらいじゃないかな。

 

元木:300兆! そんなにいるんですか……。でも、その菌が白米を食べている人と玄米を食べている人の腸で、どう違うんでしょうか?

 

渡邊:まず白米と玄米で何が違うかというと、食物繊維の量です。それから成分表には出てこないのですが、ガンマオリザノールが圧倒的に多い。ビタミンB1など、ビタミンやミネラルの構成も特徴的です。

 

元木:ガ、ガンマ……? ごめんなさい、聞いたことがないです。

 

渡邊:ガンマオリザノールはね、フェルラ酸というのに分解されるのだけど、それによって腸内に良い影響を与えているのです。こうして良い腸内細菌を保っている人は、腐敗菌が少ないのでおならも臭くないし便もあまり臭くない。

 

元木:それは魅力的ですねえ(笑)おならが臭くないことは健康な証なのですね。

 

処方された薬を飲む前に「未病」は食事療法を

渡邊:さきほど、病気は食事で治る、という話がありましたね。医学には、「未病」という考え方があるのです。

渡邊先生提供の関係図。心と体、どちらかを病んでいる場合を「未病」とするなら、食事で生活を見直せば快復に向かうという。
↑渡邊先生提供の関係図。心と体、どちらかを病んでいる場合を「未病」とするなら、食事で生活を見直せば快復に向かうという

 

元木:病気になる前、という話ですよね。

 

渡邊:そう、体には正常な場合と異常な場合があるでしょう。これは心も同様なのですが、それが一致しないときがある。例えば、肝臓や血圧検査の数値がとても悪くても、気持は元気いっぱいなことがある。反対に、ちょっと鬱っぽいのだけど、検査値はすべて正常なことがある。

 

元木:それが、つまり「未病」の状態ですか? 会社にも、周りの人にも「未病」の状態の人が山ほどいますね。

 

渡邊:はい、でもこの未病の時点で、病院にいくとお医者さんは未病は病気になると信じていますから、早期診断、早期治療といってどんどん薬を出しちゃうのです。すると症状が固定化して本当の病気になってしまうことが多いのですよ。

 

元木:そうですね。私はあまり薬を飲みませんが、風邪気味なだけなのにすぐに薬で治そうとしたり、薬を常備しすぎるところがありますね。

 

渡邊:統合医療的に言えば、俗に言う「未病」の状態はまだ薬に頼らなくても、体のバランスが整ったら元の健康体に戻る方向に行くはず。食事と運動で体の芯を整えるのが大事です。

 

元木:これからは、玄米を食べながら食事と運動が一番の健康法なのですね。

↑「玄米食による食事療法で未病を防げば、がんだけでなく国全体の医療費まで大幅に削減できます」と渡邊先生は話します

 

メディカルライス協会による玄米食のさらなる普及を

渡邊:玄米には、腸内環境をよくすることで免疫機能を高め、健康長寿に貢献することも明らかになってきていることは説明しましたね。すでに肥満解消、血圧降下、糖尿病予防、腎機能保全、認知症予防などの効果が報告されているのです。だから僕は、この素晴らしさを伝えるために「メディカルライス協会」という団体を立ち上げました。

 

元木:「メディカルライス協会」ですか。どんな活動をされているのですか?

 

渡邊:例えばタイでは、「元気になる米」とか「糖尿病に効く米」なんてラベルが貼ってある米を売っているのです。まるでサプリメントみたいに、機能性で売り分けているのですね。「認知症にいい米」なんていうのもあります(笑)

 

元木:それはとても面白いですね。自分が求める機能性米を選んで食べられるようになったら、米の消費が増えるかもしれません。日本では米の消費が下がっているので社会的な解決にもなりますね。

 

渡邊:こういう“メディカルライス”が、日本にもあるべきだと思っているのです。つまり、味ではなく客観的な数値で規定した、機能性の高い「●●にいい米」を、日本でも作ろうと思っているのですよ。メンタルヘルスにいい米、がん予防にいい米、とか。今、いろいろと開発を進めています。

 

元木:それは新しい取り組みですね! 健康にもよくて、手軽に食べられる玄米。さらに一歩進んだ米が、いつの日かコンビニやスーパーに「メディカルライス」として並ぶのを心待ちにしています!

 

【プロフィール】

医学博士 / 渡邊 昌

1941年生まれ。慶応義塾大学医学部大学院修了。医学博士。アメリカ国立がん研究所研究員、国立がんセンター研究所がん情報研究部長、東京農業大学教授を経て2005年より現職。(社)生命科学振興会理事長。国立健康・栄養研究所理事長を務める。
メディカルライス協会 http://medicalrice.com/

 

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