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2021/3/5 17:45

人気の移住先はどこ? 失敗しないコツは?「移住」を考えたときに知っておくべきこと

コロナ禍にともなってリモートワークの整備が進み、オフィスを手放す企業も増えてきました。そういった流れを受けていま、人の多い都市部を避けて地方で暮らす「地方移住」があらためて注目されています。高齢化や少子化などで人口減が問題となっている地方を活性化させたい政府が、地方移住した住宅購入者に対して、最大100万円分の家電などと交換できるポイントを付与することを閣議決定したのも、記憶に新しいでしょう。

 

今回は、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターに伺って、実際に地方移住した“先輩”たちの声を聞きながら、いま注目を集めている移住先や、移住に際しての注意点などをまとめました。

 

コロナ禍で変わった暮らしのスタイル

2014年に内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」事務局が発足して以来、国を挙げて、地方の人口減少問題と地域活性化という課題解決に取り組んでいます。2002年に設立された認定NPO法人ふるさと回帰支援センターでも、上記の理由から、2014年を境に相談件数が大きく増えているといいます。

 

「2020年は緊急事態宣言を受けて事務所を臨時休館していた期間もありましたが、それでも地方暮らしを真剣に考える方は多く、例年よりも増えました。ひとつには、リモートワークの環境整備が進み、“住まいを地方に変えても仕事が成り立つようになった”という方が多くなったことでしょう。また、この国では4割の方が派遣で働いていたにもかかわらず、コロナ禍で“派遣切り”に遭うなど働き方や暮らし方を考え直さざるを得なかったこともあると思います。

もうひとつは、コロナ禍での心境の変化とでもいいましょうか。これまで、“仕事のある場所に暮らす”という選択が現実的でしたよね。でも、おうち時間が増えたり、生き方を見つめ直すタイミングが生まれたりしたことで、“仕事ではなく暮らし方から住む場所を決める”と考えを変える方が出てきたのです。

これは私見ですが、新型ウイルスが落ち着いても、こうした新しい価値観はおそらく変わらないのだと思います。そんな中でこれからの長い人生をどこでどう過ごすか、暮らし方にウエイトを置いていく時代にきているのではないでしょうか」(認定NPO法人ふるさと回帰支援センター・理事長 高橋公さん)

 

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注目の移住先第1位は長野県

まず、移住の現状を整理してみましょう。2009年からの10年間で、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターで移住相談をした人のアンケートによると、常に移住希望地として上位にランクインしているのは、長野県でした。東京から近く、旅行やハイキングなどで出かけたことがある人も多いことから、“土地のイメージがつきやすい”のも、長野が人気の理由のひとつだそうです。

 

「まったく土地感のない場所への移住は、なかなか考えにくいですよね。そういえば昔旅行で行ったことがある、という土地や、名産が思いつくようなところ、友だちが住んでいる、友だちの実家があるなど、自分と関わりのある土地の方がより移住先として検討しやすいものです。同じような理由で上位に挙がってくるのが、山梨や静岡です」(認定NPO法人ふるさと回帰支援センター・理事長 高橋公さん、以下同)

 

1. 移住者コミュニティーが確立している長野県

「長野県は先に移住した方々のコミュニティーがあり、移住者が地域に馴染みやすくなる支えになっています。移住したあとの暮らし方や仕事について情報共有ができ、同じような家庭環境の方を見つけやすいんですよね。自分たちがここに住んだら、というイメージもつきやすいので、移住者が移住者を呼ぶ良い循環が生まれている自治体もあります。

長野県は広いので、松本や長野市、軽井沢などの都心部から、小谷村や白馬など、静かで自然が満喫できる土地などさまざまです。釣りやトレッキング、スキーなどのアクティビティも多いですよね。また、最近では教育移住という言葉をよく耳にしますが、子どもの主体性を重んじるオルタナティブ教育や、自由を尊重する学校ができるなどで、子育て世代からの注目も集めています」

 

2. 都会暮らしに慣れた人には住みやすい静岡県

「静岡県は、市が移住者を受け入れるための相談窓口を開いていることもあって、移住までの手続きがスムーズです。東京から近いのでちょっとした引越し感覚で移住できますし、新幹線通勤する方もいらっしゃいます。

『東海道五十三次』の宿場町として栄えてきたところですから、いわば“よそ者”になる移住者にもやさしく、受け入れがとても上手な県だと思います。自然いっぱいだけど田舎すぎず、都会暮らしに慣れている方にとっても住みやすい場所になりますよ。一昨年から、東京圏から静岡県に移住して就業・起業した方に最大100万円を支給する支援金制度も設けられています」

 

3. 海と山に囲まれアウトドアが楽しめる広島県

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「西日本でここ数年、急に人気が上がってきたのは広島県。こちらは県や市が積極的に移住者向けセミナーを開催したり、相談窓口を開いたりしているんです。その土地の魅力がしっかり伝わってくるので、希望する方が増えていくんですね。

広島は都会ですが、海も山もありマリンスポーツが好きな方にはもってこいの場所でしょう。もちろん魚介類がおいしい土地でもあります。また、街がコンパクトなのでどこに行くのも近く、アウトドアも日帰りで楽しめます。専業農家支援もしているので、農業を始めたい方には助成金や研修、空き家の斡旋(あっせん)などもしてくれます」

 

4. 第一次産業に携わりたい方に向いている北海道

「移住先の注目株となっているのは北海道です。大自然や美食などについては言うことなしの土地ですが、雪深いことや、場所によっては車移動が多くなるなど、本当に暮らしていけるのか気にされる方もいるでしょう。オフィスワークから第一次産業に転身する方も多いですし、そうなると単に住む場所を移動するだけでなく、生き方、暮らし方もすべて変わっていきますよね。

北海道では、各自治体が空き家を活用して体験住宅をたくさん用意しています。実際に暮らしてみてどうか、仕事を経験してみてどうか、をしっかり実体験してから移住することができるんですよ」

 

移住を成功させるために知っておきたい2つのコツ

移住を考えている土地のパンフレットを見ていると、自然がいっぱいでのんびりしていて自由に生きられる……と、移住についての夢がつい膨らんでしまいますが、実は失敗しないためのコツがあるのだそう。

 

「移住してみたはいいけどうまくいかなかった……となってしまったら、それからの方向修正がとても大変です。希望の土地で気持ちよく暮らすためには、やはり抜かりなく情報収集し、準備することが大切です」

 

1. 家族で価値観をすり合わせる

 

「家族で必ず価値観のすり合わせをしておくこと。なんとなく行ってみよう、住んでみたらわかるよね、という曖昧な気持ちで移住してしまうと、違ったときに大きなストレスを抱えることになります。家族間で同じイメージを持てるよう、相談窓口への来訪やセミナーなどにもご家族で参加するのがいいでしょう。暮らしをより良くしたくて移住するのですから、これからどんなふうに生きていきたいのか、その土地でどう暮らしたいのか、しっかり話し合っておくことも重要です」

 

2. 賃貸住宅などを利用しショートステイする

「まずはその土地に行ってみることです。はじめは一泊旅行でも構いませんが、長期休暇などを利用して2週間くらいその土地で生活してみることも大切でしょう。それこそスーパーにはどんな食材が売っているのか、駅前はどんな雰囲気なのかなど、自分で体感しておくことで、自分が住む土地にふさわしいか、あらためて考えることができます。移住体験ができるツアーもありますから、お問い合わせください。それに伴って仕事はどうするか、住居はどうするかを詰めていきます。

はじめから土地や持ち家を購入するのではなく、まずは空き家バンクなどを利用して体験移住し、賃貸住宅へ移っていくのが得策です。たとえば同じ県内でも、もう少し駅に近い方が便利だったとか、○○市より○○市の方が住みやすそうなど、住んでみてから後々わかってくることも多いので、仮住まいを経て長く住める場所を探すのも、失敗しないコツです」

 

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次のページでは、実際に移住をした人たちに、それぞれの移住の理由と決め手を語っていただきました。

移住をしたら生き方も目標も変わった! 移住者の声を聞く

慣れ親しんだ土地を離れて別の場所で暮らすことにハードルの高さを感じる一方で、メリットもたくさんあります。

 

「大きく変わるのは、自分のこだわりを大切にした生活ができる、という点でしょう。もっと広い家に住みたい、通勤で満員電車に乗りたくない、おいしいものが食べられる土地がいい、など、自分の趣味に合った場所を探して住むことができる点です。たとえば、家族一人ひとりに部屋がほしいとしたら、家賃の安い地方に行けば実現できますよね。自然やおいしい空気に囲まれて、人間らしい暮らしを楽しめる方もいらっしゃいます」(高橋さん)

 

それでは、実際に移住の夢を実現した3名の移住体験談を紹介しましょう。

 

1. 岡山県総社市から北海道・上士幌町に移住したわたなべまさみさんの場合

・職業の変化

助産師・講師業 → 役場・オンライン講師業・開業助産師

「母子手帳の交付や健康診断などの保健業務にパートで勤務しながら、上士幌町のママ達がほっとひと息つける場所『ママのHOTステーション』に助産師として携わっています。また、全国のママとコミュニティを作りオンラインサロンも運営しています。夏には上士幌町に産前産後ケア専門の助産院を開業する予定です」

・移住を考えはじめた時期
2019年9月

・実際に移住した時期
2020年3月

・家族構成
4人(パートナーと、移住時2歳と3歳だったお子さん)

・移住の理由
以前から子どもを育てる環境はどんなところがいいのか、夫婦で相談していたというわたなべさん。北海道のきれいな空気の中で、広い大地を走り回れる環境で子どもを育てたいと思い、移住を決めたそうです。

「大変だったのは、住む場所と夫の仕事がなかなか決まらなかったことです。現在、夫は地域おこし協力隊として働いているのですが、採用されると住居を町が準備してくださることになっています。2月中旬ごろに引越しを考えていたのですが、協力隊の採用合否が出るまで家が決まらず、動けなかったのが大変でした。無事に協力隊として採用されたので、安心して移住できました」

 

・移住先を決めたポイント
大型スーパーが近い、病院が近い、少し車で走ると自然が身近にあるというポイントで探し、帯広市、音更町なども候補に挙がっていたそう。

「そんな中で『上士幌町のキセキ』という書籍を読んで、町長のお考えに共感したことが大きな決め手となりました。子育て世代に手厚いサポート(未就学児こども園無料、医療費高校生まで無料など)があり、小学校低学年は授業が少人数制で、学習への手厚いサポートも心強く感じています。また、夫も私も仕事が早く終わるので、平日の夜に息子たちと遊んだり話をしたりする時間も増えました。生活する上で自分や家族に欠かせないもの、身近になくてもいいものなどに優先順位をつけて、そこにぴったりとくる場所に移住すると、暮らした時のギャップが少ないかと思います。またその土地に実際に行って住んでいる人の声を聞いたり、生活環境を見たりするのも、とても大事だと思います」

 

2. 神奈川県川崎市から長野県宮田村に移住した関紀子さんの場合

・職業の変化
システムエンジニア(正社員)→不動産会社事務(パートタイム)
「以前から興味を持っていた不動産取引士の資格を取りました」

・移住を考えはじめた時期
2017年7月

・実際に移住した時期
2018年4月

・家族構成
3人(パートナーと、2021年4月から小学生になるお子さん)

・移住の理由
川崎市にいたころは、職場までの通勤時間が1時間20分かかっていたという関さん。移動時間がかかるため、子どものお迎えが遅くなり、帰宅後の家事をする余裕がなくなっていたといいます。

「もっと子どもと過ごせる時間を増やせたら……、と常々思っていました。子どもが3歳になると時短勤務できなくなることもあり、子育てしやすい土地を探すことに決めました。前職では残業や休日出勤も多かったのですが、今は仕事が終わるのが15時半。仕事を変えたことで、一日の中で生活に関わる時間がグッと増え、精神的な余裕ができました」

 

・移住先を決めたポイント
もともとパートナーが長野県南部の出身ということもあり、松本市にも興味があったそうです。しかし、ふるさと回帰支援センターの方から宮田村の移住セミナーを案内され、話を聞くにつれて、子育て支援に力を入れている宮田村に惹かれていったのだとか。

「ふるさと回帰支援センターでは、興味がある市町村の移住セミナーの案内をしてもらったり、就職先の相談にのっていただいたりしました。相談員の方はやりとりのレスポンスがよく、各市町村のことをよくご存じで本当に頼りになりました。パートナーの希望する業種(構築系システムエンジニア)の求人がなかなかなく、職探しにてこずっていましたが、ふるさと回帰支援センターの方に地元の企業とつないでもらって希望する職に就くことができました」

 

3. 神奈川県横浜市から和歌山県田辺市に移住した矢野玲子さんの場合

・職業の変化
羊毛フェルトクラフトの作家兼インストラクターとして活動。
「現在は、移住先にてアトリエ兼泊まれる羊毛ワークショップ baroonworkshopを開いています」

・移住を考えはじめた時期
2018年夏

・実際に移住した時期
2019年1月

・家族構成
妹と猫

・移住の理由

ずっと田舎暮らしに興味を持ちつつ長い海外生活をしていた矢野さんは、日本への帰国をきっかけに緑豊かな地への移住を決意したそうです。

「龍神村に引っ越してきてから、せっかくなので地域の自然素材を使って、羊毛と龍神村の魅力を一緒に発信できるものづくりをはじめました。羊毛と龍神産の杉の樹皮を混ぜた羊毛アクセサリー、近所の川辺の流木を使ったタペストリー、和歌山の女性をフォーカスした『ワカヤマのお嫁さんシリーズ』の顔ブローチなどの作品販売、紀州の温泉水を使った羊毛ワークショップなどがあります。
移住当初は、特に虫や爬虫類が苦手だったので、大きな蜘蛛やムカデを見かけては泣き叫んだりしていました。今でも完全に克服したわけではないのですが、少しずつ慣れてきて、やっと田舎暮らしを楽しめる余裕ができてきました。

田舎に馴染めないんじゃないか、友だちはできないんじゃないか、セミリタイヤ生活を送るのは早すぎるんじゃないかと心配されました。田舎にはおじいちゃんやおばあちゃんが多い、退職後のセカンドライフを始める場所というイメージが強いからかもしれません。地域によってはそうかもしれませんが、私が住んでいる龍神村や田辺市の市街地は、街を盛り上げようと奮闘している熱い人たちがたくさんいます。多種多様な、世代やカテゴリーを超えた人たちとの繋がりや出会いがあるので、想像していた以上に充実した生活を送っています」

 

・移住先を決めたポイント

地域のことはまったく分からなければ知り合いもいないなかで、移住先を探しはじめた矢野さん。海の近くに住んでみたく、和歌山県有田市や串本町、すさみ町なども候補地のひとつでしたが、見学ついでに行政の方に見せてもらった田辺市の空き家から見える山景色に一目ぼれをし、直感で入居を決めたそう。

「先輩移住者を紹介していただいたり、田辺市役所の職員の方がわざわざ地域の方々に挨拶してくださったりしたおかげで、スムーズに引っ越しができました。今でも定期的に連絡をくださるので、ありがたいです。
龍神村の冬は肌が痛くなるくらい風が冷たくて、夜はとても静かです。春はホトトギスが鳴きはじめ、梅やお花の匂いがして、山菜がおいしいです。夏は早朝から草刈り機の音がして、払った後の緑いっぱいの匂いが庭中に広がっています。川遊びしたり、盆踊り大会があったり、梅雨明けに作る梅シロップや梅酒が飲めるのもこの頃からなので、夏は楽しみが沢山あります! そして紅葉を見ながら少しずつ夜が静かになって、灯油ストーブの匂いがするころにはまた冬到来、じっと春が来るのを待ちます」

 

移住したい! と思ったらまずやるべきこと

紹介したとおり、移住したいと思ったらまずやらなくてはならないことは、自治体やふるさと回帰支援センターなどに相談に行ってみることです。移住を希望する土地は実際どのようなところなのか、先に移住した方がどんな暮らしをしているのかをしっかり聞いて、自分に合った環境かを見極めましょう。

 

「自分だけで移住してしまわないこと。これがあまり浸透していないのですが、移住は各自治体や我々のようなセンターの相談員がいることで、前に移住した人とつないだり、移住希望者が興味をもてるプログラムや仕事がないか探したりしながら、気持ちよくその土地に入っていけるようお手伝いをしています。

実際すべての移住が歓迎されているわけではありませんし、よそ者扱いされてしまうケースもありますから、自治体に間に入ってもらい、その土地との関係をつないでもらうことこそが、移住をスムーズにするコツといえるでしょう。また、好奇心を持ち人との関わりを楽しむことも大切です。家にこもってばかりいると、いつまでたっても馴染めませんし、近隣との関わり合いもできず、都会で暮らしているのと結局同じ……ということになりかねません。何にでも挑戦してみる好奇心が持った方が、移住先でも楽しく暮らせますよ」

 

生き方や暮らし方を考えざるを得ない日々が続く中、取捨選択を上手にしていくことこそ、これからの時代に必要になっていくでしょう。移住という選択は、新しい自分と楽しみを見つける第一歩になるかもしれません。

 

【プロフィール】

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター

所在地=東京都千代田区有楽町2-10-1東京交通会館8F
営業時間=10:00~18:00
定休日=月曜・祝日
問い合わせ先=info@furusatokaiki.net
https://www.furusatokaiki.net/