ライフスタイル
2021/4/23 18:45

スーパーコンピュータ「富岳」の研究成果を活用・開発した「飲食用フェイスシールド」とは!

依然として新型コロナウイルスの感染者数が減る気配はありません。外出するのもままならない状況はさらに続くと考えられますが、特に心配なのが飲食する際の感染防止策です。

 

そんな中、印刷会社大手の凸版印刷では、サントリー酒類と共同開発で「飲食」に特化させた画期的なフェイスシールドをリリースしました。その名もズバリの「飲食用フェイスシールド」です。現在サントリーマーケティング&コマースが運営する「飲食店用品.jp」にて1セット(10個入り)5830円(税込)で販売中です。

↑「飲食用フェイスシールド」(凸版印刷)。現在、小売業向け卸売り販売の申請は終了しています

 

この飲食用フェイスシールドは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた理化学研究所の研究成果を参考にしたもので、凸版印刷・サントリー酒類・理化学研究所の三者が力を合わせて実現させたものです。しかも、生産・販売を行うだけでなく、その設計情報をオープンデータとして公開。つまり、その気になれば、第三者であってもロイヤリティフリーで生産・販売することが可能とのこと。

 

実に有意義な開発ですが、この飲食用フェイスシールドの開発経緯と中身について、凸版印刷マーケティング事業部の武井 誠さんに話を聞いてきました。

↑凸版印刷マーケティング事業部の武井 誠さん。昨年より「飲食用フェイスシールド」のプロジェクトに参加し、開発に尽力された方です

 

苦境に立たされた飲食業界を救うべく「飲食用フェイスシールド」を開発

ーー凸版印刷という名前を聞くと、印刷会社というイメージが先行しますが、飲食用フェイスシールドのような立体物の開発、生産も行っているのですね。

 

武井 誠さん(以下、武井) はい。もちろん、名前の通り印刷物を扱う会社ですが、クライアントのニーズに応じて今回のような立体物の開発・製造もおこなっています。私のいる事業部では各企業のマーケティング活動を幅広くサポートしており、販売促進のためのPOPや、キャンペーンなどの企画立案・実行、最近ではデジタルトランスフォーメーション推進のサポートまで、その事業領域は多岐にわたります。

 

私の担当させていただいているクライアントがサントリー酒類なのですが、同社にとっての大切なお客様である飲食店の多くが、コロナ禍で厳しい状況に立たされていました。

 

サントリー酒類は、飲食店・外食産業は日本の冠たる文化であると考えています。そこで飲食店の方々へ「何か一助になるようなものがつくれないか」という話をいただいたので、今回の飲食用フェイスシールドの開発が始まったという流れです。

 

ーーその開発にはスーパーコンピュータ富岳の研究成果を参考にしたそうですね。

 

武井 プロジェクトを進めるにあたり、お客様が使いやすい「利便性」と、当然フェイスシールドに求められる「安全性」の担保が必要と考えました。しかし我々だけでは「利便性」を追求することはできても、科学的な知見に基づく「安全性」の検証が難しく、解決方法を模索していました。その頃、昨年6月に理化学研究所様が文部科学省との連携プロジェクトでスーパーコンピュータ富岳を使った研究成果を発表しており、その研究成果は実に画期的で有意義なものでした。そこで改めて理化学研究所にアプローチし、同所のご賛同・ご協力を得て、その研究成果を参考に開発したのが、今回の飲食用フェイスシールドだったんです。

↑理化学研究所の飛沫シミュレーションイメージ図。顎で支えて口元を覆うなどの一般的な形状(左)と比較し、お椀型(右)が飛沫防止効果が高いことがわかります(提供:理研・神戸大,協力:豊橋技科大・京工繊大・サントリー・凸版印刷)

 

口を覆う部分の形状は何度もトライ・アンド・エラーを繰り返した

ーー具体的には、スーパーコンピュータ「富岳」を使ってどのようなことを検証されたのでしょうか。

 

武井 「口を覆う部分の形状によって、飛沫防止効果に差が出るのではないか」という検証です。鼻まで覆ったタイプ、顎までカバーするタイプなど、いくつかの一般的な形状案をスーパーコンピュータ富岳でシミュレーションしてみると、用意した形状案の中で、お椀型が最も飛沫防止効果が高いことがわかり、採用しました。

 

また苦労した点は、口元シールドの可動構造です。飲食のしやすさを追求するための試作を何度も重ね、最終的には左右に可動する形状がベストと考え、現在の構造にいたりました。

↑飲食用フェイスシールドの全貌。本体(フレーム類)の素材は強度や柔軟性に優れたプラスチックのポリカーボネートとポリアセタールと、ヒンジ部分のステンレス。また、シールド部分は、軽くて透明度が高いPET素材が採用されています

 

↑飲食をする際にはワンタッチで、お椀型シールドを開きます。会話をする際には元の位置に戻して使用。お椀型シールドは鼻あての上で、宙に浮いた状態になるのでワンタッチで可動がしやすいわけです

 

↑お椀型シールドは眼鏡部分左のパーツを軸に、ワンタッチで開閉できます

 

武井 また、初めて利用する際、だれでも直感的に装着の仕方がわかり、顔の大小に左右されにくい汎用的な構造である、メガネタイプ形状を採用しました。飲食時、他人からの飛沫を防御する理由で、より安全性を高めるためにアイシールドパーツもつけております。

↑眼鏡部分は大ぶりにできているので、普段眼鏡をかけている人の場合、その上からつけることができます

実際に装着し、試飲・試食してみた!

ーー確かにこれまでになかった画期的なフェイスシールドですが、構造がやや複雑で、嵩張るような気もしなくもないです。実際に使わせていただいても良いでしょうか。

 

武井 もちろんです。ぜひ装着して試してみてください。

↑「飲食用フェイスシールド」を装着。口を覆っているお椀型シールドを、ワンタッチで開きます

 

↑飲料を飲んでみました。お椀型シールドは顔の左にありますが、偏った重さを感じることはありません

 

↑続いて食べ物を食べてみます。こちらも全く違和感なしでした

 

ーー正直、見た目はゴツく映りましたが、お椀型シールドの可変もワンタッチでできますし、扱いやすいように思いました。

 

武井 そうですね。重さも約36gと軽いですし、ずっとつけているとそれほど気にならなくなると思いますよ。私も飲食時に使用していますが、非常に扱いやすい仕上がりになったと思っています。

 

ーー実際に使われた方からの反響はいかがですか?

 

武井 コロナ禍においても「どうしても会食をしなければいけない」「出先で外食しないといけない」といった場面はあると思います。が、そういった際に使われた方々からは非常に好評を得ています。

 

それまでのフェイスシールドやマスクは、外す際の動作が大変でした。しかし、この飲食用フェイスシールドなら、ワンタッチの最低限の動作で開閉できますので、この「扱いやすさ」が評価いただけたポイントだと思います。

 

大きな飛沫への対策はマスクやこのフェイスシールドなどでとっていただき、一方で小さな飛沫への対策は換気など併せて対策をとっていただくことが有効です。手洗いなどと合わせ、感染対策をしっかりと取ったうえでご利用いただけますと幸いです。

 

意外と忘れていた改善すべき点も!?

ーー飲食用フェイスシールドは凸版印刷での販売以外に、設計情報もオープンにしていますが、どのような理由からなのでしょうか。

 

武井 冒頭の話にも戻りますが、「飲食業界の一助になる」がもともとの開発の主旨でしたので、自社だけで抱え込むのではなく、設計情報をオープンにし、より広まっていくことを願ってのことです。

↑オープンになっている設計情報の一部。設計情報は今後も公開し続けるとのことです

 

武井 飲食用フェイスシールドを設計情報通りに作るためには3Dプリンタなどがないとできないと思います。しかし我々だけでなく、様々な方々がこの飲食用フェイスシールドを作り、多くの人に広まっていくと良いなと考えています。

 

ーー今後、飲食用フェイスシールドをさらにブラッシュアップさせていく予定はありますか?

 

武井 具体的には決まっていないですが、皆様からのご要望があれば今後はさらなる改善版の開発も検討していきたいと思っています。現状でもすごく使いやすい飲食用フェイスシールドなのですが、改善点を1点挙げるならば、形状に工夫の余地があると思っています。

 

ーーどんなことでしょうか。

 

武井 右利き用しかないんですよ。お椀型のシールドが左方向に可動しますので、左利きの方には少し扱いづらくなります。「左利き用も作ってほしい」という声をすでにいただいておりますので、今後の参考にさせていただきたいと思います。

↑実に有意義な開発を行った凸版印刷。今後の動向にも要注目です

 

感染防止の観点から考えれば、飲食時には、それまでつけていたマスクを外す際も慎重に行うべきですし、そのマスクも外側の表面に指先が触れたりしないよう、あるいは別の何かに触れさせないよう注意をはらうべきです。この飲食用フェイスシールド、持ち運ぶ際はそのまま、または分解するとのこと。相応の手間はかかりますが、昨今問題になっている会食の際には必須のアイテム。機会がありましたらぜひお試しください!

 

撮影/黒飛光樹

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】