ライフスタイル
2016/8/13 12:00

女子より深刻…! 飲食店で見かける「マウンティング男子」の切なさ

「この頃、都に流行るもの」で始まる『二条河原の落書』。室町時代、京都の二条大橋付近に掲げられたとされる落書(風刺文)である。そのなかに「賢者ガホナル伝奏ハ。我モヽヽトミユレドモ。 巧ナリケル詐ハ。ヲロカナルニヤヲトルラン」という一節がある。現代語に訳すと「誰もが、もっともらしい顔つきで帝にウソを囁くが、アホらしいものばかり」と、なるらしい。いつの時代もそういう人は存在する。

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現代なら、そういう行動によく出くわすのが飲食店だ。酒の勢いもあるのだろう。隣席からホラッチョ(©週刊文春)な話が聴こえてきたり、ヘタをすると目の前にいる泥酔した友人から、(おそらく本人も本気では思っていないであろう)罵詈雑言を浴びせられることもある。まったく酒の力は恐ろしい……が、今日の本筋はそこではない。「この頃、飲食店で見かけるもの」に「マウンティング男子」や「イヲカル女子」がやたらと多いのだ。

 

■小学生のような自慢で周囲を呆然とさせる、マウンティング男子

まず「マウンティング男子」。言わずもがなではあるが、「自分のほうが格上である」「ものをよく知っている」と上から目線でアピールする男性のことだ。小学生の頃、何を言っても「俺、知ってる知ってる!」と自慢気にアピールしてくる男の子がいた。アレである。

 

先日、ちょっといい和食店で食事をしていたら、隣席に座っていた男性4人組の50代男性が「うーん。誘ってもらったのにアレだけどこの店の料理、おいしくないね。この手の店なら、☓☓とか○○のほうがはるかにうまい。まあ、あのあたりの店は普通の人は予約取れないからなあ……」と言い出した。もちろん残りの3人は氷の彫像状態。

 

「誘ってもらったのにアレ」と本人が口にしているが、人に予約をとってもらった席で、こんな物言いをする人がいるのか。まるで海原、あたかも雄山だ。実にシビれる。体験したことはないがフグ毒に当たったら、こんな感じなのだろうか。ちなみに言っておくとその店は、きちんとした料理を出すいい店だ。隣席の僕らだって気分はよくないが、アレな人が席を外している間、誘ったであろう人が苦笑いをしながらこう言った。

 

「あの人、前にも僕が飲んでた酒を注文して、『うん。僕が頼んだ酒のほうがうまいな』って言うような人だからなあ」

 

ああ、なるほど。一番じゃないと気が済まないマウンティングか。グルメを自任する方にも、たまにいらっしゃる。相手よりも優位に立ちたいがために、「俺はモノがわかっている」という言動で周囲を辟易とさせ、聞いてもいないのに「俺は☓☓の予約が取れる」と喧伝する「マウンティング男子」が。まあ「男子」とはいっても、たいていの場合、十二分におっさんなのだが。

 

■社交性の女子、社会性の男子

もともと、流行り言葉として先行したのは「マウンティング女子」だった。だがこの言葉にはどこか違和感があった。一般に「マウンティング女子」の対象となるであろう、意識の高い女性は社交性が高く、公衆の面前で相手を見下ろすような上から目線を全開にはしない。言い換えれば、そうした女性は「社交性の生き物」なのだ。高度なコミュニケーションを武器に、給湯室や井戸端会議的社交の場で密かに企む。なるべく矢面には立たないように――。

 

かたや、男性はどうか。男性の世の中との関わりは、主に仕事や会社と通じて生じるものが多い。つまり男は「社会性の生き物」なのだ。正確に言うなら「社会に支配されることに自覚的な生き物」だ。いい悪いは別として、白馬の王子様的幻想を抱くのは難しい。もっと言えば、本気でそう夢想する男性がいたらキモい。

 

たいていはある程度の年齢に達すると仕事に就くし、少なくとも2016年現在、結婚という一大通過儀礼を経たからといって、男性が「仕事」から逃れられることはない。もちろん、人との関わりを完全に絶って成立する仕事もまずない。そうした社会のなかで、少しでも上位に君臨するためのプログラム――社会性が男性には刷り込まれてきた。

 

社会性とは、組織やコミュニティを機能させるためのスキルでもある。だが、先の例などは周囲という社会からの評価をほしがるあまり、思わずマウンティングしてしまい、失笑されてしまう好例であり、アンビバレンツの象徴的事例でもある。自ら不全感を埋めるために躍起になると無理が生じ、結果、他人からの評価を下げてしまう。一方、他者との比較や相対論に取り込まれず、対象にまっすぐ向かう人には(たとえば飲食ならば)店、知識、人脈などのストックが生まれやすい。同じ興味にまっすぐに向かう者同士こそが、次なる高みに到達できる。

 

「持てる者はますます富み、持たざる者はさらに失う」

 

聖書の一節は圧倒的な真理なのだ。そして今回、名称だけしか登場させられなかった、「イヲカル女子」については次回に紹介させていただきたい。

 

【著者プロフィール】

松浦 達也

フードアクティビスト/編集者&ライター。『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド/ニュース解説も。著書『大人の肉ドリル』(マガジンハウス)などのほか、経営者や政治家、アーティストなどの書籍・コンテンツの企画・構成も多数。マンガ大賞選考員。

うまいものばか!:http://umaimonoholic.blogspot.jp/