ライフスタイル
2016/9/6 12:30

値下げの裏には何が!? 知られざるタクシーと新しい“白タク”の現実

2週間前の週末、東京のタクシーの初乗り料金を、従来の2㎞まで730円から約1㎞まで410円とする実証実験が、都内4カ所のタクシー乗り場で始まった。初乗り料金が下がっただけで、その方は順当に料金が上がり、2㎞以上では従来の料金と同じになるのが、これまで値上げが続いてきたタクシー業界において、大きな転換期である事は確かだ。

20160906-a03 (1)

タクシー業界が現在の形になってから初の値下げがなぜ実施されたのか。相次ぐ値上げで利用者離れが深刻になってきたこともあるけれど、もうひとつ、米国Uberをはじめとするライドシェアへの対抗心があるのは間違いない。

 

ライドシェアは日本では、「自家用有償旅客運送事業」と呼ばれる。読んで字のごとくで、自家用車を使い、料金を徴収し、人を運ぶビジネスのことだ。現状では、自治体が運営するもの、福祉目的であるもの、過疎地の交通空白地で走るものに限り、事業が認められている。

 

このうち自治体運営と福祉目的については、すでに各地で運行例がある。そして最後の交通空白地の運行についても、今年春に京都府京丹後市で導入された。地元のNPO法人が主体となり、世界最大のライドシェア企業Uberの日本法人がシステム提供などのアシストを行っている。

 

地元のドライバーに、タクシー運転手と同じ2種免許の取得あるいは国土交通大臣認定の講習会受講をしてもらい、彼らの自家用車で運行している。料金は最初の1.5kmまで、通常の小型タクシーが620円のところを480円で行け、 以降は253mごとに80円加算されるタクシーに対し1kmごと120円加算と、遠くへ行くほど割安になっていく。ライドシェアを導入した京丹後市の丹後町地区は、タクシーが撤退し、路線バスのルートはほとんどが国道上であるなど、不便を強いられている。住民の立場から考えれば、ライドシェア導入は納得できる。

 

タクシー業界はこのライドシェアに反発している。タクシーは2種免許を持つドライバーが、緑ナンバーを付けた専用車両で運行すると規定しており、白ナンバーの自家用車でタクシーに似たサービスを行うライドシェアは、「危険な白タク」であると声を上げているのだ。

 

ところがタクシー、ハイヤー、自動車教習所、観光バスの労働者組合である自交総連(全国自動車交通労働組合総連合会)のウェブサイトを見ると、意外な事実が浮かび上がってくる。ここで掲載している走行距離あたり交通事故のデータによると、2012年の100万km走行あたりの事故件数は全自動車が0.9なのに対しタクシーは1.6に跳ね上がる。タクシーのほうが事故に逢う確率が高いことを、自ら認めているのだ。

 

一連の動きから、タクシー業界は既得権益を守ろうとしていると感じる人が多くなってきたようだ。業界としては前例のない初乗り運賃値下げは、その批判を和らげるための施策でもあるようだ。問題はそれが東京で実施されたことである。東京は鉄道などの公共交通が発達しており、タクシーがなくてもほとんどの地域に移動できる。本来なら京丹後市のような、代わりの移動手段がない過疎地域でこそ、初乗り運賃の値下げを行うべきではないだろうか。

 

そうならなかったのは、地方でのタクシー経営が厳しく、初乗り料金値下げが困難だからと想像できる。なのに過疎地域でのライドシェア導入を「白タク」という言葉で否定しつつ、対抗策を大都市東京で実施する手法は、もっとも移動に困っている地方の人たちを軽視していると指摘する有識者もいる。東京のような大都市と、京丹後市のような地方の過疎地域では、交通事情は大きく違う。どこで線引きするかは議論の必要があるけれど、大都市と過疎地域とでタクシーのルールを分け、後者では「白タク」つまりライドシェアを認めても良いのではないだろうか。

 

人間は動物であり、移動することで生活を営む生き物だ。過疎地に住んでいても、高齢で足腰が弱くなっても、移動したい。今の事情に見合った移動手段を提供すべきであり、白ナンバーのライドシェアはそのためのソリューションとして適していると思っている。ナンバープレートの色だけで判断している場合ではない。

 

【著者プロフィール】

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

THINK MOBILITY:http://mobility.blog.jp/

TAG
SHARE ON