ライフスタイル
2016/9/17 14:30

和みの東急大井町線、セレブ感醸す東京メトロ南北線、競馬オジサンのJR南武線……客層に現れる“路線の人格”

20160917-a03 (1)

 

■不動産ポエムにすっかり“教育”された私たち

休日の新聞折り込み広告や、電鉄駅貼り・車内貼りの大仰なマンション広告コピーに、苦笑したことはありませんか。「伝統と品格の地、◯◯沿線に住まう」なんてコピーがちっちゃな分譲マンションの広告に載っているのを見た私は、「“住まう”なんて言葉があるのか」と感心し、そういう独特の修辞を用いた住宅広告コピーを“マンションポエム”と呼ぶと知って、皮肉たっぷりのネーミングにさらに感心したものです。

 

確かに、住宅マーケティングは土地や電鉄の名前に(それが妥当であるかどうかは別として)やたらと高級感や高揚感や安定感や何やらのイメージを載せ、色気たっぷりに膨らませ、私たち消費者の心の底の何かをくすぐり、購買欲を煽るのが得意。たとえば「憧憬のアドレス、◯◯を選択するという生き方」みたいなコピーを広告上に刻むことで「◯◯は憧憬の的であり、その記号はモテるし“ドヤれる”アクセサリーである」と言い張り、その勢いで既成事実化しようとするわけです。でも地元民からすると「そんなに言うほどかぁ?」と首をひねるケースも多々あるわけですね。

 

とはいえ、そんな風にアドレスや沿線を記号化する不動産業界の手法はバブル期から営々と続いてきたものですから、私たち消費者もすっかり教育されてしまいました。刷り込まれたイメージに自分の実感値を混ぜながら、「何線?」「どこ住み〜?」なんて質問に「◯◯沿線……でもラッシュすごいからヤなんだよね」とか「あえての◯◯」とか、控えめにドヤったりほんのり言い訳したりしている人も多いのでは。

 

それくらい、路線には路線民本人たちが納得するにせよしないにせよ、パブリックイメージがべったりとついているのです。だってほら、2013年に東急東横線が東京メトロ副都心線と相互直通運転を開始した時、それによって東武東上線や西武有楽町線・池袋線と東急東横線・みなとみらい線が乗り入れたことを知った神奈川在住ネット民のみなさんが沸騰したではないですか。

 

「川越・飯能・所沢・練馬から、東武民・西武民が渋谷はおろか横浜中華街へと大挙して押し寄せる事態に!」

「対・埼玉民池袋防衛線、ついに決壊す」

「だから池袋と渋谷を地下で繋いじゃダメだってあれほど……」

 

■「◯◯線はイヤだワー」「◯◯線は乗っちゃダメよ」

東京世田谷に、京王井の頭線と小田急新宿線が交わる下北沢という駅がありますが、あそこは新興民であるサブカル大好きな学生(&その後)と、何世代にも渡ってそこに住み続けてきた世田谷資産家住民とが共存する場所です。すると、資産家住民は下北沢という地を「文化度高く富裕層の多い“井の頭線沿線”」と認識しており、サブカルびとたちは「いわゆるチベット(文化的辺境郊外)型大学キャンパスの多い厚木・町田からファッション・音楽系専門学校の多い新宿を結ぶ“小田急線沿線”」と認識しているという、乖離が見られます。「小田急というよりは井の頭」vs「井の頭というよりは小田急」との認識の偏りは、それぞれが「どちら側のイメージに所属しているか、所属していたいか」によるようです。

 

ワーママにもそういうのがあるそうです。例えば、子連れでも通勤でも「東急大井町線は乗り心地がいいなー」とホッとするとか。「やっぱり東京メトロ南北線のセレブ感は素敵」とか、「都営大江戸線は通勤客と観光客と高齢者と練馬民、いろいろ混じっているから落ち着かない」とか。走るエリアごとに乗客の客層もいろいろなので、「○○線はイヤだワー」というのもあるのでしょうね。

 

関西で有名なのは、大阪〜神戸を結ぶ“阪神間”と呼ばれるエリアの「阪急線アゲ、阪神線サゲ」です。阪急線住民は「阪神間とは主に芦屋・西宮・宝塚、神戸市中央区・灘区・東灘区の阪急線沿線のことであり、阪神線沿線とは一線を画す」と自負しているそうです。阪急夙川で育ったある人は「小さい頃親に『阪神線は乗ったらあかんよ、怖いおじさんがたくさんいるから』って脅されて、大人になっても阪神線はまだ緊張する」と言っていました。大人になっても払拭できないほどの刷り込みって強烈ですねぇ。

 

ちなみに、神奈川県川崎市で育った筆者の場合は、JR南武線が大人に「乗っちゃダメよ」と言われた路線でした。川崎競馬と府中の東京競馬場の2つの競馬場を結ぶ、いぶし銀路線。ヤニ走ったおじさんたちが、赤鉛筆を耳に小粋に挟んで競馬新聞を真剣に読みふける、その足元には既にコップ酒というファッショナブルさ。今となっては私もマイコップ酒片手に、隣に座りたいくらいです。

 

それから、大人になってもブレない軸として、「東急東横線>>>>>東急田園都市線」という強固な信条があります。理由は東横線で育ったから、それだけです。異論は認めません。

 

■西武池袋線や埼玉方面にはイジリたくなる何かがある

そうそう、以前、盛大に炎上した「東京都杉並区と横浜市青葉区、そこに住む「意識高い病』にかかった人々の共通点」という記事へのコメントに、「ちょいちょい挟み込まれる練馬disは何なの?w」というのがありました。今回もよく読むとそこはかとない練馬disが散りばめられているような気がしなくもないですが、筆者自身も「なぜ私は練馬でオチをつけたがるのか」と胸に手を当てて考えてみる。

 

それは多分、どうも「ねりま」という「ねぎま」みたいな美味しそうでちょっと間の抜けた語感、限りなく埼玉に肉迫しながらも23区であるという「手の届く“アイドル志望”感」、そんなところに私のサディスティックな何かがくすぐられるからではないでしょうか。そういえばサイタマとか、イケブクロという語感にも、イジらずにはいられない何かが……はっ。私は何の話をしているのでしょうか。疲れているようだ。今日はここまでにしておきます……。

 

【著者プロフィール】

河崎 環

1973年京都生まれ神奈川育ち。乙女座B型。 部活:演劇部(男役など) 趣味:お笑いとロックと飲酒 特技:歌と飲酒 将来の夢:隠遁して飲酒 悩み:親が奇人。娘が2次元で迷子。ほうれい線。 寝床にある書:『疲れ過ぎて眠れぬ夜のために』内田樹 藤沢の田舎、海外遊学などで若さと人生を無駄遣いしたのち、予備校・学習塾講師を経て物書きの世界へ足を踏み入れ、いよいよ人生を棒に振る。2002年よりAll About「子育て事情」ガイドとして活動するも失踪。ふと気づくと何かの波にさらわれて渡欧、海を越えたのならと開き直りエレガントに理屈をこねた(自称)のち、最近再び日本の土を踏んだ様子が報告されている。

TAG
SHARE ON