2018年7月7日。アメリカ・サンフランシスコのカウ・パレスにて時を止めた爆弾が、2019年11月3日、ふたたび鼓動を始めた。
TIME BOMB――高橋ヒロムが、リングに返り咲き、現王者ウィル・オスプレイへ挑戦を表明したのだ。決戦は、レッスルキングダム14 in 東京ドーム、イッテンヨン。新日本プロレス最大の舞台である。
“首を折ったまま”でベルト防衛
華々しくリングに駆け上がった姿を前に、驚きを禁じえない。考えてみてほしい。高橋ヒロムは、首の骨を折っていたのだ。首の骨が折れたら動けないことは素人でもわかる。折った状態で試合を継続し、勝利を収めたのは、常識外のことだ。もちろん、試合後に戦線離脱を余儀なくされ、ベルトは返上するのだが。引退を想起したファンも多いはずだ。
たったの一年半で、リングを駆け巡り、王座に挑戦する姿をだれが想像できただろうか?
「やっちまったな~、と、思いました。首をやった瞬間、走馬灯……死ぬ前みたいに(笑)、いろんな考えが巡ったんですよ。首をやっちゃったな……折れてる? ってことはもしかして引退か? となるとこの試合はどうなる? このまま負けるのか? 負けたらベルトがメキシコに渡るから……団体にも迷惑かかる。だって次の挑戦者がメキシコに行かなくちゃいけない。渡航費がかかるよ。それに、負けるのは嫌だ! ……そんなことを考えてたら、あれ、体が動く……って」
負傷後、高橋ヒロムはレフェリーに「だめです」と宣言した後「やっぱりいけます」と言い直している。その間、数秒だ。驚愕すべきことに、高橋ヒロムは“首を折ったまま”、挑戦者ドラゴン・リーにTIME BOMBにて勝利を収めたのだ。
「相手は首の骨を折ってるとはわかってないから、普通に攻めてくる。でも痛みもなにも感じなくなってたんですよ。思えば首の骨が折れてるから感じなくなってたっていう危ない状態なんですけど、あ、俺、無敵だ! と思って、思いっきりやってました。もう、どう動いたか覚えてないけど、勝てたんです」
イッテンヨン勝利もアカシックレコードに書かれている!
首の負傷により、脳――頭の制御から外れた肉体が、常識を超えた活動をしたのか? 動けたこと、勝てたこと、そして、骨を折っても神経を傷めなかったこと――すべてが、紙一重である。
「IWGPジュニアヘビー級のチャンピオンになって、これからってときに首の骨を折って戦線離脱なんて、痛いし、動けないし、つらいですよ。でも、引退かな?って思ったのは一日もないですね。驚いたけど、これは運命だなと。そうか、このあと、復帰してまたチャンピオンになるのか。そういうことかって」
高橋ヒロムは、負傷も復帰も、それこそ自分の全人生も、神(のような存在)が記述した運命に沿っている出来事だ、と語る。そして、自分自身は、その運命に沿って、イッテンヨンの大舞台で返り咲くと確信している。その自信は不気味なほどだ。
「おかしいですか? ――実は子どものころから『ムー』が好きで、古代の超大陸とか、南極に穴があった地底世界に通じているとか、そういったことに興味があるんです。プライベートでインドまで行って。アガスティアの葉という、自分の運命が記されている予言の書を見にいったこともあるんですけど、見つからなかった(笑)。でもアカシックレコードっていう、全世界の過去も未来も記録してあるものがあるんですよ。それを見れば、全部わかる。そこには、俺が首を折ることも、復帰することも、ベルトを取り戻すことも書いてある。だから、イッテンヨンも、勝つんですよ」
ただの自信、野心、ポジティブシンキングではない。取材した12月16日時点では、オカルティックな予言のような宣言である。
「不思議なことが現実にあるのが、ムーとか、オカルトの世界。プロレスラーって、リングの上では非現実な存在でもある。自分でも信じられない動きができるし、危ないとか思わない。それをお客さんが見て、盛り上がる。『ムー』を読んできた自分自身が非現実な、超常現象みたいに思えることもありますね」
高橋ヒロム×ムー編集部=超人・高橋ヒロム―!
奇跡の復活は予定通りのことだった……? 復帰戦に向けて、オカルト・パワーが高橋ヒロムの活力となっているのは間違いない。
「もうね、リングネームを高橋ヒロムーにしたいくらい。不思議な力が出そうじゃないですか?イッテンヨンでベルトを取ったら、ムー編集部とコラボして本物の超人レスラーになりたいです。いや、もう、そうなるって、アカシックレコードに書いてあるんですけど」
にわかには信じがたい。だが、そもそも常人離れした復帰を果たした高橋ヒロムについて、常識のモノサシは不要だろう。
あえて断言しよう。
イッテンヨン、予言者ヒロムの見た未来は、現実のものとなる!
【プロフィール】
高橋ヒロム
1989年、東京都八王子市出身。新日本プロレスに入門後、イギリス・メキシコ・アメリカを中心とした海外武者修行を経て、2016年に”TIME BOMB”として凱旋帰国。IWGPジュニアヘビー級王座戴冠、BEST OF THE SUPER Jr.25優勝など、輝かしい実績を持つ他、奇想天外な言動でファンの興味を掻き立て続ける、ジュニアヘビー級のカリスマ。2018年7月にケガで長期欠場を余儀なくされるが、2019年11月に復帰宣言。年明け、2020年1月4日・5日に開催されるWRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドームで現王者ウィル・オスプレイ選手とのタイトルマッチを控える。

レッスルキングダム14
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撮影/我妻慶一