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ランニング
2022/11/5 20:45

名門ニューバランス、新たなランニング文化への本物の“厚底”戦略/「大田原 透のランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニグシューズ戦線異状なし

2022「ニューバランス」秋の陣①商品企画担当インタビューの巻

 

スポーツの秋、ド真ん中! ランニングシューズブランド自慢の逸品を、走って、試して、書き尽くす本企画。今回から3回連続でお届けするのは、クラシックラインでも有名な名門「ニューバランス」! スポーツの街、東京・神保町にあるニューバランスジャパンのオフィスにお邪魔し、会議室2つ&エントランスなどを贅沢に撮影に使わせてもらって取材を敢行した。

↑左からニューバランス「Fresh Foam X More(フレッシュフォーム エックス モア) v4」、「FuelCell Rebel(フューエルセル レベル) v3」

 

1回目は、昨今のランニングシューズ事情を背景にした、ニューバランスの戦略を取材。2回目と3回目では、最新のニューバランスのランニングシューズについて、根掘り葉掘り聞いた上で、実際に履いて走るレビューをお届けしよう!

↑ニューバランスジャパン商品本部、フットウェア企画部ランニング課の間宮 葵さん(写真右)。今シーズン、“旅×ラン”というランニングの掛け算として、すでに2つのフルマラソンイベントへの出場を決めているとのこと! 私(写真左)は、ローカルの10㎞やハーフマラソンのイベントにまずは4つエントリー完了!

 

ニューバランスジャパンからお届けしています!

ランニングシューズ界は、今、大きな変革期を迎えている。言わずと知れた“厚底”ブームである。その傾向が、新型コロナ禍以前から始まっていたのだが、まずはその辺りの情報を、ニューバランスジャパンの間宮 葵さんに整理してもらおう!

 

「厚底+カーボンプレート入りのシューズが、国内外の大きなレースを席巻したことで、一気にトレンドになりました」(間宮さん)

 

確かに、その波はエリートランナーと呼ばれる職業ランナーから、アマチュアのトップ層に浸透、数年前からは厚底シューズがファッションの文脈でも語られるようになった。

 

いったんは、厚底=速い人というイメージが出来上がりました。エリート選手や、市民ランナーでもタイムを追い求めるシリアスランナーのためのシューズというイメージですね」(間宮さん)

 

【商品企画に聞く①】“厚底ブーム”の本質とは?

そもそもの話になるが、厚底シューズは、いったい何を変えたのだろうか?

 

「それまでのランニングシューズの常識は、“薄くて軽い=速さ”でした。厚底シューズは、その真逆の“厚底=速い”という発想です。トレンドとして、興味を持った一般の方も出てきたことで、その名前は一気に拡がりました」(間宮さん)

 

すでに5年以上たつ厚底シューズのブームだが、改めてその理由をおさらいしておこう。トラック競技のスパイクよろしく、鍛え上げられた肉体と走力を持つランナーのシューズは、総じて薄い。走りに特化した体型なので、着地の衝撃をサポートする役割をシューズに求める必要がない。一方、過体重の初心者ランナー向けのシューズのソールは、総じて厚い。着地衝撃はもとより、走る機能そのものが脆弱な分、シューズの果たす役割が格段と重いからだ。

 

この常識をひっくり返したのが、まさに厚底シューズブーム。それまでの“厚底=遅い”を覆した。一度気に入ったランニングシューズは、なかなか変えないコンサバなランナーたちでさえも、結果、“厚底=速い”というシューズを履いてみたい! と思うに至ったのだ。

 

「私も、正直、(この現象には)ビックリしました」(間宮さん)

 

しかし、新型コロナ禍により、状況は複雑化する。

 

「より健康に配慮する時流で、ランニング人口は増えました。一方で、マラソン大会などのランニングイベントは壊滅的になり、それまで走っていた人たちはモチベーションを保てなくなってしまいました。今、やっと回復の途上についた感じです」(間宮さん)

 

そんなこんなの状況で、ランニングシューズ各社も混戦状態になっている。さらには、ヨーロッパ発の新たなプレーヤーたちも、日本のみならず世界を賑わせており、名門ニューバランスを含めたランニングシューズメーカーたちも、新たな戦略や戦術の練り直しが迫られていた。そして今、2022年秋には、“厚底=速い”というイメージも薄れてきたという。

 

「各社がさまざまなタイプの厚底シューズを開発したことで、一度厚底を履いてみたかった方々が、自分に合ったシューズを選べるようになりました」(間宮さん)

 

たしかに、選択肢は拡がったと言える。厚底でカーボンプレート入り、厚底だけどカーボンプレートなし、薄底シューズへの原点回帰など、さまざまなシューズがショップの店頭を賑わせている。

 

【商品企画に聞く②】SNSが変えた、リアルに走るひとたち

ランニングをする人たちは、新型コロナ禍に突入してどのように変わったのだろう? 間宮さんに、さらに深堀りして聞いてみた。

 

「従来の『シリアスランナー』と呼ばれる、タイムを追及する市民ランナーにも変化が出てきています。これに加え、新型コロナ禍で、運動不足の方々が“健康”という目的のためにランニングを始めています。この両者をひも解くキーワードは、ファッション、そしてコミュニティです」(間宮さん)

 

間宮さんによると、新型コロナ禍で大会などのイベントが姿を消したため、この傾向がさらに助長されたという。タイムを追及して走る場所(大会などのイベント)を失い、走るモチベーションが薄れたシリアスランナーたち。運動不足解消で走り始めたけれど、ただ単にいつものコースをいつものように走ることに退屈した初心者たち。コロナ禍という事態に、両者ともにアプローチの違いはありながらも、今までとは違うランニングの違う楽しみ方を模索し始めたのだ。

 

「今まで機能を重視してきた方々も、ファッション性に目が向いてきています」(間宮さん)

 

速く走るモチベーションが上がらない分、ファッションや、もっとカジュアルなランニングの楽しみ方に関心が寄せられるようになる……。このファッション文脈こそ、ヨーロッパの新興ランニングシューズメーカーが、一気にギョーカイ地図を塗り替える勢いの査証と言える。

 

「新型コロナ禍でランニングを始めた方は、それまでのランニングの垣根の高さを、自身のSNSなどを通じて下げてくれています。どういうことかというと速く走るのではなく、“街ラン”のように街を発見しながら走る楽しみ方を発信しているのです。こうしたコミュニティも、近年のトレンドです。私たちニューバランスも、“ラン×サウナ”など、ランニングに何かを掛け合わせるイベントなど、現在さまざまな掛け算を提案しています」(間宮さん)

 

なるほど、本来は、いつでも、どこでも、(シューズさえあれば)ひとりで気楽にできるフィットネスであるランニングが、SNSなどを通じて新たな結びつきや楽しみ方を生み出しているのだ。

 

「日本のランニング文化を育ててきた私たちは、今まで42.195㎞のフルマラソンに特化し過ぎたと気づかされました。マラソン大会というお祭りは、ビジネスにも直結しました。それが結果的にランニングのハードルを上げてしまい、それゆえに走ることを止めてしまう人たちを生んだと思います。マラソン大会へのエントリーの伸び悩みを、まさに目の当たりにしている状況です」(間宮さん)

 

一度に数千人から何万人も走るマラソン大会は、プロモーション効率が良いイベントと言える。しかし同時に42.195㎞は、トレーニングをしたことがない人にとって、途方もない距離でもある。それこそフルマラソンの魅力なのだが、敷居を高くしてしまった側面は否めない……。

↑インソールを外してシューズの内側をチェック。シュータン(足の甲に当たる部材)の形状、ラスト(足型)、縫い方などの製法も確認できるため、大田原は怪しまれつつも、お店でも必ずやります!

 

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