文房具
2017/3/4 19:00

【小物王のつぶやき】まるで「男と女」のよう?「筆記具と紙」の相性の話

確かに、筆記具と紙の相性というのはある。あるのだけれど、その相性は、例えば肌と石鹸の相性とか、仕事のパートナーとの相性などとはちょっと違う。もしかしたら、男女の相性とかに似ているかも知れない。

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例えば、肌と石鹸の相性は簡単、痒くなれば相性悪いし、問題なく使えれば相性は良いのだ。しかし、筆記具と紙の相性はそう単純なものではない。そもそも「書き心地」というのが、あやふやというか曖昧というか、どういう状態を「書き心地が良い」とするかというのは、結構問題なのだ。

 

■紙にぐるぐると試し書きして何がわかる?

良く、試し書きとして、紙にぐるぐると繋がった丸を描く。その時、物凄く快適にスムーズにペンが動いて、ぐるぐると淀みなく線が描けたとする。それは「書き心地が良い」のだろうか。手は確かに気持ちよいだろう。しかし、そこに描かれているのは、ただのぐるぐるの線であって、それをもって「書いた」と言って良いのか、ということである。

 

筆記具で何をするのか、というと、まあ、多くは絵を描くか文字を書くか、図を描くか、といったところだろう。ぐるぐるを描く為に買うなら、ぐるぐるが気持ちよいペンを買えば良いけれど、筆記具って、そういう道具じゃないことが多い。

 

手帳に細かい予定を書き込む時と、広い紙に大きな文字を書く時では、手に伝わる感触も違うし、そもそも、画数の多い漢字を狭いスペースの中で書いている時に、手に伝わる感触と、正確に書きたい場所に書きたい線が書けるのと、どちらを「書き心地が良い」と感じるかという問題も出てくる。つまり、単に「書き心地が良い」と言うのは、何も言っていない事と同じなのだ。

 

■カリカリ系、ぬらぬら系…書き心地も色々

よく、筆記具の書き味を「カリカリ」とか「ぬらぬら」と表現する場合があって、それはそれで良いのだけど、「ぬらぬら」は、大きく書かないと、そういう感触にはならないし、「カリカリ」は小さな文字を書かないと、そういう感じにならないから、それは、結局、筆記具や紙というより、どう書いているかの影響が強い表現なのだ。つまり、「書き心地」と一口で言っても、筆記具が紙に当たる部分の問題、インクの出方の問題、筆圧の問題、書き癖の問題、紙の種類の問題、書く文字の大きさの問題、などが絡まって、しかも最終的な判断は、気持ちいいかどうかという、「書く」という行為とあまり関係ない部分で判断されるわけで、それはとても個人的な体験を表すものになるのだ。

 

例えば、パイロットの「ジュースアップ」という細字のゲルインクボールペンがあるのだが、これが世間では「カリカリ系」と言われている。が、私には、「小さな文字もカリカリせずに書けて気持ちいいなあ」という感触のペンなのだ。そのくらい、感触というのは人それぞれ。

 

■実は「筆記用」に作られた紙は多くない?

もちろん、「書く」というのは個人的な作業だから、評価も判断も個人的で構わないし、だからこそ世の中には沢山の種類の筆記具があるのだ。ただ、実は「紙」は、それほど種類はなかったりする。現在、日本で使われている紙のほとんどは、印刷用紙で筆記用に作られた紙はあまり多くないのだそうだ。それこそ、昔はチラシの裏とか包装紙の裏とかにメモしたりしたものだけど、元々、書く為の紙でもなければ、筆記具もインクが出るのかどうか書いてみなければ分からないボールペンだったりして、書き心地どうこう以前の問題だったわけだ。

 

実際、ボールペンに「書き心地」を求めるようになったのは、ここ10年くらいの話。万年筆の場合は、書き味は重視されていたものの、それも「手に馴染む」「疲れない」といった実用の部分が中心で、「書いていて心地よい」的な評価軸そのものがなかった。その頃の「快適」は、ストレス無く描き続けられる、という、もっぱら機能に関する話だったのだ。

 

■書き心地への関心は、最近の話

筆記具の書き心地について、人々が関心を持てば、当然、そのパートナーとも言えるノートや手帳も紙の質を大事にするようになる。手帳のために作られた、デザインフィルの「MDペーパー」、ツバメノートが使っている事でも有名な、日本最古の筆記専用紙「フールキャップ紙」、銀行の帳簿などに使われていた「バンクペーパー」など、「書きやすい」とされる紙を使ったノートや手帳が増えてきて、さらにはマルマンの「ニーモシネ」のように、ノートやメモ帳、手帳などを同じ上質な紙で作るシリーズや、書きやすさを求めて作った紙を使ったアピカの「プレミアムCDノート」、万年筆での書き心地を追求して作った紙を使った神戸派計画の「グラフィーロ」といった、「紙」に特長がある製品も続々と登場。

 

そもそも、例えば、昭和ノートの「ジャポニカ学習帳」やコクヨの「キャンパス」シリーズなどの、学生用のノートからして、スルスルと引っ掛かりなく書けるのだ。

 

■書く内容によってノートを変える

つまり、書きやすい紙があって、選べるほど多くの種類の筆記具がある。この場合、重要なのは、何の為に書くのか、という点である。書く内容によって選ばなければならないのは、筆記具ではなくノートや手帳だ。自分が書きたい内容に合わせてノートが選ばれる。もし、そのノートが愛用の筆記具との相性が悪かった場合、変えるのは筆記具の方なのだ。

 

もちろん、自分の中での最高の組み合わせは、あっていい。私にとっての、Thinking Power NotebookとペリカンのM205の組み合わせは、本当に書いていてストレスが全くない。それが使える場合は、積極的に、その組み合わせで書く。でも、そうでなかったら、優先すべきは紙の方だ。「ジェットストリームは滑りすぎて嫌だ」という人も、滑らない紙を使う時にジェットストリームを使うと、とても楽に書けるかも知れないのだ。本当に、そのくらい、現在の紙製品の質は全体に高いし、現在の筆記具は凄いのが色々ある。「手書き」に良い時代なのだ。

 

【著者プロフィール】

納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。

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