文房具
2017/3/10 19:20

【小物王のつぶやき】インターネットと意外な共通点? カセットテープはしぶとくも生き延びる

インターネットは、誰もが情報発信できるツールだと言われていたけれど、普及し始めた頃は、自分から何かを発信する人は、あまりいなかった。というよりも、何を発信していいかが良く分からなくて、目の前には可能性だけが広がっているという状況だったのだ。

20170310-a05 (1)

 

■個人が好きに作れる最初のメディア

それでも、自分で何かを作るメディアを手に入れたと考えた人たちの手で、少しずつ、面白いツールとしての使われ方が始まって、ブログやSNSなどの補助ツールもあって、今では当たり前に、多くの人たちが個人メディアとなって、様々なコンテンツを作っている。それは、色々な弊害はあったとしても、悪い事ではないと思うのだ。出版社やテレビ局が作るメディアだけがメディアではないという状況は、玉石混交だけれど、だからこそ面白いのだ。個人が作るメディアというのは、そういうものだ。

 

同人誌やZineなどの、自費出版物もネット登場から現在に至るまで続く、個人メディアの形。ただ、ちょっと敷居が高いし、お金がかかる。その意味で、インターネットのような、個人が好きに作れる最初のメディアがカセットテープだったのだ。ラジカセがブームになったのは、機械の面白さ、音楽を身近にする環境といった要素も大きいけれど、何より魅力だったのは、それが、自分たちが自分たちのために作る事ができるメディアだったからなのだ。

 

■自分を表現できる楽しさ

好きな曲を集めて、自分だけのベストテープを作る事に皆が熱狂したのは、選んで編集すれば、自分を表現できることを知ったから。しかも、それはポケットに入るサイズの小さなメディアで、人に渡す事だってできる。これが楽しくないわけがない。そのために、私たちは60進法の計算を覚えて、なるべく時間ピッタリになるように曲を選び、曲順を考え、A面B面という二つの領域を、自分なりに構造化して、自分のため、それを聴かせたい誰かのためにテープを作る。さらには、インデックスを自作し、ジャケットだって作って、パッケージングする。この面倒くさくも手順の多い作業を、しかし私たちは、当たり前のように年中やっていたのだ。その作業の一つ一つが楽しくて。

 

■カセットテープが生き延びる理由

カセットテープが、CDの時代になっても続いたのは、この「編集作業」の楽しさのせいだ。私たちは、アナログレコード同様、CDもカセットテープに録音して聴いていた。もちろん、それはウォークマンという、どこにでも持ち歩いて聴けるツールがあったからだし、ベッドサイドにはラジカセがあって、車にはカーステレオがあって、とにかくカセットテープなら、どこででも楽しむ事ができたという事もある。もう、カセットテープはメディアを超えて環境になっていた。

 

最後のウォークマンが発売されたのは2004年、つまり、インターネットが普及しきった頃に、カセットテープは、その役割を終えつつあったのだが、しかし、実は、カセットテープのような、誰でも簡単に自分のメディアを作ってパッケージングまでできるツールと言うのは今でも他にはない。だから、カセットテープはしぶとくも生き延びる。ラジカセもまた、そのキッチュなルックスや、膨大なアイディアを詰め込んだ家電として、今も十分魅力的で、しかも、今でも普通に使えてしまう。

 

■音楽はもちろん落語やトーク、ドラマまで

今、カセットテープ人気が復活しているなんていうのは、とっても当たり前だ。カセットテープの代わりになるものは他に無いのだから。カセットテープは、音楽だけでなく、落語だって、トークだって、ドラマだって、入れる事ができる。そして、耳で聴くことができるコンテンツは、何かと忙しい今、他の事をしながらも楽しめる現代的なコンテンツだ。

 

広く聴いてもらいたければネットを使えばいい。でも、特定の誰かに何かを伝えるのなら、カセットテープのような「モノ」は説得力がある。カセットテープを聴くための機械は、まだ売っているし、かなり安価だ。環境は簡単に整う。作るにも聴くにも、デジタルに比べてちょっと面倒だけど、それ以上に、手のひらに確かにある「モノ」が作れてしまうのは楽しいのだ。それは、かつてのラジカセブームの時と変わってはいない。

 

【著者プロフィール】

納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。