文房具
2017/4/9 18:00

【小物王のつぶやき】3000円のシャープペンシル「オレンズネロ」はカッコいいのか?美しいのか?

「人はなぜ『美しい』がわかるのか」という本がある。著者は橋本治。その中には、「美しい」と「カッコいい」の違いも明瞭に述べられているが、それはそれとして、見ただけで「カッコいい」と思ってしまうものというのはある。それは「美しい」に比べると一般性は無いし、主観でしかないのだけれど、自分が使う、自分の手元に置きたいものは、多分「美しい」ものではなくて、「カッコいい」ものなのだ。では、「カッコいい」モノは美しくないのかというと、それは両立する場合もあるし、しない場合もある。つまり、評価軸が違うのだ。

画像出典:「ぺんてる株式会社」公式サイトより
画像出典:「ぺんてる株式会社」公式サイトより

 

■デザインがとにかく「カッコいい!」

例えば、ぺんてるの「orenznero(オレンズネロ)」はカッコいいと私は思う。多分、小学生の私が見ても、それはカッコ良くて、だから欲しいと思うし、使いたいから学校にも持っていくだろう。三つ子の魂百までというのは、中々恐ろしい言葉で、年をとるほどに、子供の頃に好きだと思った気持ちが、如何に現在の自分を作っているかを感じて、その「好み」というものの自分に根ざした深さにゾッとするのだけど、自分からは逃げられない。「カッコいい」は自分の価値観なのだろう。

 

十二角形の軸は、前半分が金属粉を混ぜた樹脂、後ろ半分は樹脂で作られていて、重さのバランスを少しだけ前に寄せてある、と聞いただけで「カッコいい!」と思い、実際に持ってみると、絶妙な重心の位置だと思うと同時に、金属ではなく、樹脂の柔らかい手触りの心地よさがしっとりと手に吸い付くようで、また「カッコいい!」と思うのだ。さらに、前半分と後ろ半分の十二角形のラインがズレないように、継ぎ目無く1体成形されていることに気がついて、また「カッコいい!」と思う。

 

■十二角形の黒い軸はフラッグシップの証

そういった、自分の感覚に訴えてくる「カッコいい!」に比べれば、実は、1回ノックしたら芯が続く限りノック無しで書き続けられるという「機能」は、「便利だなあ」と思うけれど、無いなら無いで良いかもしれない。この持った時の気持ちよさがあれば、使用中にノックするくらい何でもない。実のところ、芯が0.2mmや0.3mmでなくて、0.5mmだったとしても、私は構わなかったと思う。

 

一方で、「orenznero」は、シャープペンシルの歴史を牽引してきたぺんてるだからこそ作ることが出来た、シャープペンシルというジャンルそのもののフラッグシップを目指して作られたモデルだ。ノック式シャープペンシルを作ったのも、0.5mm芯を開発したのもぺんてるだし、十二角形の黒い軸のシャープペンシルを常にフラッグシップモデルとして作ってきた、そしてそれらがベストセラーになっているのは、ぺんてるの歴史そのものだ。0.2mm芯なんて、ぺんてるしか作れないし、その細い芯を実用的に使うための「オレンズ」を作ったのも、当たり前だがぺんてるだ。

 

その歴史を踏まえ、その歴史を集大成するつもりで、その点において、マーケティング的な事は考えずに作られたのが、「orenznero」だ。それは、開発者が好きに作ったというのとは少し違う。価格は3000円と、先に決められていたそうだし、開発期間や技術の問題で、涙をのんで諦めた部分だって、沢山あったそうだ。十二角の軸が何故生まれたかさえ、もはや社内で分かる人はいない。その中で実現できることは何でも挑戦した上で出来上がったという、その姿勢は、「美しい」と思う。でも、使う私にとっては、「美しい」から好きなわけではない。

 

■凄く売れているのは当然の結果?

モノにまつわるストーリーと、モノ自体の「カッコ良さ」は、分けて考えたい。そして、どこに「カッコ良さ」を感じるかは、人それぞれで、「orenznero」は好きじゃないという人がいてもいい。むしろ、製品コンセプトからすると、そんなに誰もが欲しいと思うような製品ではない。凄く売れているという事実は、「当然」と思う気持ちもあるけれど、「これが売れるなら、他にも売れて良さそうな製品いっぱいあるよね」という気持ちもある。まあ、製品のターゲットは、全てのシャープペンシルユーザーという種類の製品だから、ハマれば売れて当然なのだ。

 

ただ、コンビニで気に入った製品は、必ずヒットしないまま店頭から消えていくような趣味の私が、DNAレベルで「カッコいい!」と思った製品が、そんなに売れるなら、私の人生はもっと楽だったのではないかと、そんな事も思う。セブンイレブンの「厚切ハムカツパン からしマヨネーズ」、何故消えたー!

 

【著者プロフィール】

納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。