文房具
手帳
2016/12/18 20:30

「手帳が仕事に役立つ」というのは最近の話。なぜ今、紙の手帳が人気なのか?

もはや、意外に知られていない歴史的事実なのだけど、手帳でタイムマネージメントする習慣なんて、ここ10年に満たない、かなり新しい手帳の使い方だ。それ以前は、手帳を買うという習慣さえなかった。毎年会社からもらう手帳に、大事な予定を書くか、メモを取るかくらいが一般的なビジネスマンだった。ルーティーンワークがしっかりしているから、個人的なタイムマネージメントは不要だったのだ。

20161218-a04 (2)

 

■実は手帳習慣の歴史は浅かった

一方で自営業者や自由業者は、ルーティーンワークがないから、何かでスケジュールを管理しなければならない。世界で初めて、見開き一週間バーチカル型の手帳を作ったクオバディスの手帳が、彼らに人気だったのは、時間管理がしやすくて、持っていたくなるデザインの手帳が他に見当たらなかったからだ。しかも、クオバディスが日本に入ってきた当時は、雑貨店や洋服店などで扱われていたこともあって、日本ではファッション雑貨的な扱いだったのだ。しかし、90年代初頭は、私を含め、結構、フリーライターや編集者は、クオバディスの正方形の手帳「エグゼクティブ」をよく使っていた。あの「システム手帳」ブームが終わった後の話だ。

では、システム手帳では何をやっていたのかというと、あれは情報の一元化だ。スケジュールからメモから資料から住所録から電卓から筆記具から領収書入れから、何でも1冊にまとめられるという部分が受けた。ただ、それらは簡単にパソコンやスマホに置き換わる機能だったから、手帳ブームにはシステム手帳は乗れなかった。しかし内容を編集できる手帳として、今、復活の兆しがあるが、それはまた別の話。

 

■あたらしい手帳の登場と手帳ブーム、そしてデジタルとの併用…

2000年代に入って、少しずつ、「手帳」が見直されてきたのは、パソコンでは意外にスケジュール管理がしにくかったからだ。しかし、時代は、ルーティーンワークをこなせば仕事はどうにかなるという状況ではなくなり、個人の動き方、個人が持つ情報が重要になってきた。そして、2006年には東京糸井重里事務所の「ほぼ日手帳」が登場する。1日1ページで、仕事も遊びも何でもここに書いたり貼ったり、1ページを好きに使って1年を一冊にまとめてしまおうという手帳の登場だ。ただ、この時も最初に飛びついたのは、比較的忙しいフリーランスの人たちだった。意外に日々書くことがあるから、こういう手帳があると便利かも、と思ったわけだ。

 

そして、変わった手帳が売れているという状況になって、手帳ブームがやってくる。手帳が仕事に役立つという、何というか、卵が先か鶏が先かみたいな、微妙な本末転倒が起こって、時間管理術と手帳がセットになってビジネスシーンを駆け巡った。その一方で、手帳で自己表現するといった使われ方も登場する。そちらのラインはライフログ的な方向で、徐々に世間に浸透した。

 

Googleカレンダーとスマホによる時間管理が出てくるのは、その後である。そして、手帳の使い方自体が3つの派閥に分かれることになる。一つは自分のタイムマネージメントに手帳を使いたいという人々。この人々は比較的スムーズにスマホに移行しつつ、一方で、ノートやメモ帳を併用するスタイルに落ち着く。しかし、手帳で自己表現したり、日記を書いたり、その日の記念品や写真を貼ったりといった事がしたい人はデジタルには行かない。そういう雑多な情報の管理はデジタルが苦手とするところだ。また、手帳を使うことで自己実現、自己啓発を、といった考えの人たちは「書く」ことに重点が置かれているから、やはりアナログの手帳が好きだ。

 

さらに、ほぼデジタルでスケジュール管理している人も、バックアップだったり、デジタルが苦手な部分、例えば一ヶ月を俯瞰したり、日をまたぐ予定を管理したり、といった部分を補完する手帳との併用というユーザーも多い。私も、毎年、スマホとデザインフィルの「フラットダイアリーライト」という大型の見開きマンスリーを俯瞰用に使っている。実際、最近はスマホとの併用を考えて作られたアナログ手帳も増えている。さらに、スマホでは難しい複数ビュー型も出てきた。グリーティングライフの「モメント」のような、マンスリーとウィークリーが同時に見られるタイプだ。

 

と、まあ、手帳ユーザーの3分の2プラスアルファが、紙の手帳を欲しているのだから、売れるのも無理はない。また、仕事の仕方が変わってきた現在、「単位時間当たりの仕事効率の向上」といった合理性はあまり求められなくなっている。手帳の役割もまた、変わる時期に来ているのかもしれない。今後は、スケジュール管理が目的ではない、「書くこと」が目的の手帳へと変化していく可能性もあるのだ。

 

【著者プロフィール】

納富 廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。