話題
2018/6/25 23:00

ニコ・ニコルソン著『わたしのお婆ちゃん』を読む――2025年には730万人が認知症に。向き合う一歩は「知る」ことかも

なんとなく避けてきたこと、なるべくなら一生関わることなく過ごしていきたいと思っていること、それは「認知症」です。

 

岩手に暮らす母親から「私が認知症になったら施設に入れてね」と冗談で言われたことがありました。その時は笑って話をしていましたが、実際、東京で暮らしている私が実家にいる親の介護となると時間的にも物理的にも金銭的にも大変になることは目に見えています。だからこそ考えないようにしていたし、なってから考えようなんて軽く思っていました。

 

でも日本における認知症の割合は、2025年には730万人へ増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると言われているそうです。5人に1人って、自分の両親・祖父母だけでも4人、結婚していればパートナーの両親と祖父母を合わせて8人。身内の1〜2人は認知症になる人が出てくる可能性があるってことか。ふぅ。。。

 

 

認知症についてちゃんと知らなかった

わたしのお婆ちゃん』(ニコ・ニコルソン・著/講談社・刊)は、認知症を避けてきた私にとって、本当に驚くことばかりでした。こんなことを書くのはバカみたいですが、ただただ忘れていくだけが「認知症」の症状だと思っていたのです。

 

・強盗にあった! と嘘を言う

・時間の感覚がなくなって夜中に起きて徘徊する

・家にいるのに「家に帰る!」と言う

・無意識に脱糞してしまう

・ちゃんとお米が炊けない

 

こんな症状が日常的に繰り返されるなんて、想像の遥か上でした。

 

『わたしのお婆ちゃん』の場合、お婆ちゃんの見た目の変化はなく、体の弱りもなく、しっかりご飯も食べられるのに、日常生活が少しずつ崩れていく…初めて認知症の症状が出た時には、「病気なの? ボケちゃったの?」と、家族だけでなく本人も迷うだろうなと思いました。

 

 

老化のぼけと認知症の違いって?

もし私が認知症になったとしても、日頃から塩と砂糖を間違えたり、忘れ物を良くしたり、米だって上手に炊けない時もあるから、ぼけがさらに進行したと思われちゃうのかな? とか考えていましたが、老化によるぼけと認知症ではどんな違いがあるのでしょうか。

 

一緒に生活してみてようやくわかった

これが老化のぼけのはずない

(『わたしのお婆ちゃん』より引用)

 

ヒントがあれば「あ、そうだった!」となるのが老化によるぼけですが、認知症の場合ヒントがあっても「そうだっけ?」と思い出せなくなってしまうような症状なんだそうです。

 

2018年現在で認知症を治す薬はなく、進行を遅らせることくらいしかできません。軽い運動をして体を刺激したり、麻雀したり、ゲームをすることで脳を動かすなど、物忘れを予防したりしている方も多くいますが、認知症の場合は病気なので、予防ではなく治療が必要になります。

 

「もしかして?」と気になった方は主治医の先生に相談してみたり、地域によっては認知症を診察できる医療機関を教えてくれるとのことなので、一度診てもらうのも大事かもしれません。私の祖母は先日、認知症テストを受けて「よかったよ、認知症じゃなかったから」とホッとしていました。認知症じゃないと思えることで、安心した日常を過ごせるようにもなりますし、私たち家族もどこか安心できました。

 

 

家での介護が「最善」というわけではないみたい

実際に認知症と診断された身内がいるという方の中には、「自分の親だから」「自宅で介護する方が本人にとっても良い」とご自宅で介護されている方も多いと思います。

 

『わたしのお婆ちゃん』でも、自分の家にいるのに「家に帰る!」と言われたり、他人のように扱われても、たまーにいつものお婆ちゃんも顔をのぞかせるので、いつか戻るのではないか? グループホームでは生活させるのは可哀想では? と、ニコさんと母親の二人で分担して、デイケアも併用しながら、在宅介護をしていました。

 

けれど、お婆ちゃんの症状は改善せず、在宅介護の限界を迎えます。結果として、高齢者施設へ入居することになるのですが、「でも結局何をしたって後悔は残るのよね」という母親の言葉が印象に残りました。お婆ちゃんの気持ちは尊重しつつも、自分たちも無理をしない。何よりも「家族」でいれる形をとることが大切なのだと感じました。

 

 

知ることが大切

認知症と聞くと、関係ないと思ってしまう人も多いかもしれません。

 

でもなってしまってからでは、考える「余裕」がなくなってしまいます。コミックで読める『わたしのお婆ちゃん』では、今まで知らなかったことをたくさん教えてくれる一冊でした。認知症と向き合うことを避けてしまっていた人にこそ、認知症を知るきっかけの一冊として手に取ってもらえたらうれしいです。

 

今週末、「認知症になったら施設に入れて」と言っていた母親が上京してくるので、『わたしのお婆ちゃん』を読んでもらって、ちょっと早いかもしれないけどこれからの家族のこと考える時間を作ってみようと思っています。避けるのではなくちゃんと向かい合うことは、「やっぱり施設に入れて」と言われるかもしれないけど(笑)、大切なんじゃないかなと思いました。

 

【書籍紹介】

 

わたしのお婆ちゃん 認知症の祖母との暮らし

著者:ニコ・ニコルソン
発行:講談社

東京で漫画家をしているニコ。家族は宮城に住む母と婆。実家は震災の時に流されてしまったけれど、婆の希望で、母が頑張って同じ場所に家を建て直した。そんな実家に久しぶりに帰省した際、ニコは婆の奇行を目にする・・・。幼い頃から、外で働く母に変わって、いつもニコの世話を焼き可愛がってくれた婆。しっかり者の婆が、なぜ・・・? 大好きな婆が知らない人みたいになっていく・・・。ニコはまだ、認知症を知らなくてーー。

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