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2018/11/23 18:00

ゴーン氏解任で“日本の日産”は主権を取り戻せるか?

11月19日、ルノーと日産自動車、三菱自動車の会長を兼務するカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕された。日産は「複数の重大な不正行為があった」として、同氏らの解任を22日に召集する取締役会で提案すると発表した。日産自動車の行く末も気になるところだが、本稿ではゴーン氏の意思が強く働いていたモータースポーツの行く末について考えてみたい。

主にグローバルのモータースポーツ活動をウォッチしている身として感じるのは、近年の日産はNissanのブランドロゴを掲げてモータースポーツ活動を行っているものの、横浜に本拠地がある日産の、あるいは日産の100%子会社でモータースポーツ活動を専門に行うNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル:ニスモ)が主体的に活動を行っているようには見えないことだ。

 

例えばル・マン。Nissanは2015年にル・マン24時間レースの最上位カテゴリーに参戦した(2012年、13年は賞典外の特別枠で参戦している)。3台投入したうちの1台には日本人ドライバーが乗り込んだし、ガレージには日本人スタッフの姿もちらほら見られた。だが、プロジェクトの運営はヨーロッパがベースで、アメリカのベースと行ったり来たりして開発を進めていた。エンジンを車両ミッドに搭載するのが当たり前な状況でフロントに積み、フロントタイヤを駆動する斬新な(と言っておく)車両を設計したのもヨーロッパ出身のエンジニアで、プロジェクトを率いていた人物も同様だった。

 

外から見たNissanは完全に欧米のチームだった。メディア対応もヨーロッパ側が仕切っていた。欧米の人たちが欧米の人たちを相手にモータースポーツ活動を行っているように見えた。ま、ドライに言えば、日産ブランドは日本で十分に浸透しているので、モータースポーツをツールとして情報発信する必要はないということか。国内ではSUPER GT GT500に参戦しているし……。

国内ではSUPER GT GT500に参戦。日産ブランドは浸透している

 

2015年のル・マン参戦車両(似ても似つかない格好だったが、GT-Rを名乗っていた)が搭載した3.0L・V6直噴ターボエンジンはニスモの開発で、技術的に興味深い取り組みを行っていたが、ル・マン参戦プロジェクトそのものと同様、積極的に日本のメディアに向けて発信しているふうではなかった。オール・ジャパンの体制でル・マンに挑戦していた時代を知るファンは、日本の日産/ニスモの関与が薄いことを残念に思ったに違いない。

 

Nissanは12月から始まるシーズン5(2018/19年)から、電気自動車によるレースシリーズのフォーミュラEに参戦する。日本の自動車メーカーとしては初めての参戦で、画期的な出来事だ。日本でもそれなりのプロモーション活動は行っているし、今後もファンの目に触れる機会を予定しているようだが、3年前のル・マンのときと同様、日本の日産、あるいは日本に本拠地があるニスモが主体的となってプロジェクトを動かしているようには見えない。

Nissanのロゴは掲げているもののカラーは完全にヨーロッパ

 

チーム名はNissan e.damsという。昨シーズンまではルノーe.damsといった。ご存じのとおり、ルノーと日産はアライアンスの関係にある。チーム名を見ると、看板を掛け替えただけのように見えるが、実際のところ、それに近い状況のようだ。10月中旬にスペイン・バレンシアで行われた合同テストでNissanのガレージを覗いてみると、ヨーロッパのエンジニアやメカニックが忙しく立ち動いていた。日産自動車の日本人エンジニアもひとり帯同していたようだが、完全に、裏方に徹していた。

 

日本の自動車メーカーが自社ブランドの看板を掲げて世界を転戦するレースシリーズに参戦しながら、チームを構成するエンジニアやメカニックの大部分が日本人以外で占められるケースは珍しくはない。例えば、今年20回目の挑戦で念願のル・マン24時間初優勝を果たしたトヨタがそうだ。日本人スタッフは完全に少数派である。

 

だが、チーム代表は日本人だし、車両の核となるハイブリッドパワートレーンは日本人エンジニアが中心となって日本の研究開発施設で開発している。多国籍チームではあるが、チームのアイデンティティは日本であり、日本のカラーや日本人の顔が見る側に伝わってくる。

 

日産が海外で展開するモータースポーツ活動にはそれが感じられない。繰り返すが、Nissanのロゴは掲げているものの、カラーはヨーロッパなのだ。親近感を期待して近づいていくと肩すかしを食らうことになる。

日産グローバル・モータースポーツ・ディレクターのマイケル・カルカモ氏

 

合同テストを訪れた日産グローバル・モータースポーツ・ディレクターのマイケル・カルカモ氏は、フォーミュラEの参戦活動と「日本の日産」のかかわりについて次のように述べた。

 

「私は日本人ではないし、フランス人でもない。アメリカ人だ。重要なのは才能であり、アイデアであり、イノベーションだ。Nissanは日産だ。ベスト・オブ・ベストであれば、国籍は関係ない。グローバルカンパニーとして一緒に働くことが重要なんだ。レースだろうとプロダクションカーだろうと、フィロソフィーは変わらない」

 

そう言われてしまえばもう、何も言うことはない。日産はグローバルカンパニーなのだ。その方向に舵を切ったのはゴーン氏である。ルノー・日産アライアンスのモータースポーツ活動はルノーのF1参戦活動しかり、ゴーン氏の意思がダイレクトに反映されているといわれる。カルカモ氏もその意思を背負っているとみるのが妥当だろう。ゴーン氏の解任によって、日産のグローバルなモータースポーツ活動に対するスタンスも変化するのだろうか。

 

必ずしも良い方向に変化するとは限らないが、日本の日産が主権を取り戻す絶好の機会には違いない。ゴーン体制からの離脱を内外にアピールするのに、モータースポーツほど適したツールはないとも思うのだが、いかがだろうか。

 

【著者プロフィール】

モータリングライター&エディター 世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日』『F1テクノロジー考』『ル・マン/WECのテクノロジー2018』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など

 

世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々:http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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