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2017/1/15 19:00

交通事故死者数は減少ーー実は人口あたりの死者数は東京都がいちばん少ない?

1月5日、昨年の交通事故死者数が警察庁から発表された。一昨年より200人以上も少ない3904人となった。死者数が3000人台になるのは、実に1949年以来とのことだ。一昨年は、たった4人ではあるが、15年ぶりに前年を上回った。車両や道路の安全性向上を考えれば、ある意味異常事態と言えただろう。

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この結果を見て、警察庁がかなり積極的に対策を取ったことが、昨年の大幅減少につながったのかもしれない。昨年後半、高齢者が関わる交通事故が相次いで報道された。一連のニュースだけを見て、死者数は増加するだろうと思った人がいるかもしれないが、実際はそうではなく、報道が加熱していたのだった。

 

警察庁のデータでは、65歳以上の高齢者や都道府県別のデータも出ている。まず高齢者の項目を見ると、一昨年の2247人から2138人へと、こちらも減ってはいるものの、全年齢に対する比率は54.6%から54.8%と、わずかながら増えている。もちろんこの中には、最近問題視されている高速道路の逆走やペダル踏み間違いによる死亡事故もまれているはずだ。

 

一方都道府県別のデータを見ると、死者数が多いのは愛知県、千葉県、大阪府の順で、一昨年と比較すると2位と3位が入れ替わったものの、ワーストスリーには同じ府県が入っている。ただしこれは絶対的な死者数であり、人口10万人あたりの死者数となると、ランキングは大幅に変わる。こちらでは福井県と徳島県がワーストワンの座を分け合い、香川県が続いている。

 

いずれも自動車での移動に頼ることが多いと思われる地域だ。逆に人口あたりでもっとも死者数が少ないのは東京都。こちらは公共交通が充実しているだめだろう。絶対数ではワーストスリーにランクインしてしまった大阪府も、人口10万人あたりで見ると神奈川県についで3番目に少ない。

 

■カーシェアリング車両の安全性向上に期待

公共交通の充実が環境対策や過疎化対策だけでなく、交通事故減少にも有効であることが、この数字から分かろう。高齢者が自動車に依存しなくても移動できるだけでなく、小中学生など運転免許を持たない若者が歩行者や自転車で移動する割合も減るはずであり、たしかに事故に遭う確率は減る。公共交通が充実すれば、クルマを運転することは減る。たまに必要な時にのみステアリングを握るということになる。

 

筆者も東京都内の駅の近くに住んでいることもあり、自転車や二輪車を含めて、さまざまな乗り物を使い分けて生活している。たまにしか運転しないと、むしろ危険度が高まるのではないかという意見もある。たしかに数十年間ペーパードライバーだった人がいきなりステアリングを握るのはリスクが伴う。しかしクルマを運転するのが月に一度ぐらいという頻度であれば、運転操作は忘れないはずだし、むしろ心身の変化などに気付きやすいので、安全ではないかと考えている。

 

気になるのはカーシェアリングなど、複数の車種を乗り分けるような状況だ。筆者は雑誌やウェブサイトの取材で、古今東西さまざまなクルマを運転する機会がある。昔に比べれば平準化してはいるものの、当然ながら車種によってステアリングやペダルの位置関係や反応は異なる。同じカーシェアリングで用意しているA車では、しっかりアクセルペダルを踏み込まないと発進しなかったのに、B車ではちょっと踏んだだけでビュッとダッシュするような違いがあると、事故につながる恐れがある。

 

こうした状況を考えると、カーシェアリングに使われるクルマには、一般に販売される車両以上に、操作系の安全対策が求められると言えるかもしれない。自動車メーカーもこうした予防安全装備は充実しているが、オートバックスの「ペダル見張り番」など、後から装着できる製品もある。カーシェアリングの車両は不特定多数の人がドライブする。だからこそこうした安全装備の完備を期待したい。

 

【著者プロフィール】

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

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