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2017/2/12 19:00

わずか5000万円(!)で本格レースに参戦可能。GT3が増殖したきっかけは富裕層の“欲望”にあった

「GT3」という規格のレース車両が世界的に勢力を広げている。2017年はアキュラ(本田技研工業のプレミアムブランド)がNSX GT3を、レクサス(トヨタ自動車のプレミアムブランド)がRC F GT3を登場させた。

 

F1世界選手権には「F1」しか走れないが、GT3は複数のシリーズで走行が認められている。例えば、アメリカではIMSAという団体が主催するシリーズに出走することが可能。1月28日~29日に開催されたデイトナ24時間はアキュラNSX GT3とレクサスRC F GT3のデビュー戦だった。

↑アウディR8 LMS。市販のR8のイメージそのままだ
↑アウディR8 LMS。市販のR8のイメージそのままだ

 

日本では、SUPER GTのGT300クラスにGT3が活躍する場が設けられている。スーパー耐久シリーズにも出番がある。ヨーロッパではニュルブルクリンク24時間レースや、同じくニュルブルクリンク(ドイツ)を舞台にしたVLNというシリーズ戦、ブランパンGTシリーズでGT3車両が走り回っている。

↑GT3といえばポルシェ911のイメージが強い
↑GT3といえばポルシェ911のイメージが強い

 

アキュラNSX GT3やレクサスRC F GT3が登場する以前、すでに下記のようなGT3がサーキットを走り回っていた。

 

・アウディR8 LMS
・アストンマーティン・ヴァンテージGT3
・ベントレー・コンチネンタルGT3
・BMW M6 GT3
・キャデラックATS-V.R GT3
・シボレー・コルベットC7 GT3-R
・フェラーリ488イタリアGT3
・ランボルギーニ・ウラカンGT3
・マクラーレン650S GT3
・メルセデス・ベンツAMG GT3
・日産GT-RニスモGT3
・ポルシェ911 GT3 R

 

壮観である。スーパースポーツばかりだ。乗用車の骨格はスチールを用いるのが一般的だが、スーパースポーツを指向するクルマは軽量なアルミを用いたり、より軽量高剛性なカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)を用いたりする。エンジンもまちまちだ。例えば、スチールモノコックの日産GT-Rは419kW(570ps)の最高出力を発生する3.8L・V6ツインターボエンジンを搭載する一方で、アルミとCFRPのハイブリッド構造の車体骨格を持つアウディR8は、397kW(540ps)の5.2L・V10自然吸気エンジンを積む。

↑日産GT-Rは570psを発生する3.8L・V6ツインターボエンジンを搭載
↑日産GT-Rは570psを発生する3.8L・V6ツインターボエンジンを搭載

 

日産GT-Rの車高は1370mmだが、アウディR8の車高は1240mmしかない。車高が低い、すなわち前面投影面積が小さいクルマの方が、最高速を出すには有利である。それに、吊しの状態でサーキットを走るに十分な性能を持ち合わせたポルシェ911のようなクルマもある。

 

■より市販車に近いから、面白い

さまざまな成り立ちを持ったクルマの競争力が拮抗するよう、ルールを統括するFIA(国際自動車連盟。F1やWRC、WECなどのルールも統括)は、ベース車両をもとにGT3仕様に仕立てる際、車重や出力、空力性能を決められた範囲に収めるよう定めている。軽いクルマの出力は低くしなければならず、重いクルマは出力を高くできる。また、空気抵抗の大きいクルマは、ハンデを帳消しにするために出力を高く設定できるといった具合だ。

 

こうした性能をバランスさせる枠を設けることにより、素性の異なるクルマが走り回っても、特定のモデルが断トツの速さを見せたり、ベース車両の諸元でハンデを持つクルマが置いてきぼりをくらったりしないようにしているのである(あっちの方が有利だ。いや、そっちこそ……みたいな不平不満は常について回るが)。

 

SUPER GT GT500の車両は共通のモノコックに、市販車をイメージさせるスキンを被せているのが実体だが、GT3はベース車両の車体骨格を用いなければならない。その意味で、より市販車に近い規格と言える。エンジンもベース車両が搭載するユニット、もしくは、同一メーカー内でラインアップするユニットでなければならない。性能のバランス化によってパフォーマンスは拮抗する方向に向かうが、ベース車両の素性に左右されるぶん、ある程度の有利不利が生じてしまうのは避けられない。

 

■なぜレクサスはGT3にこだわったのか?

ニューカマーのレクサスRC Fは、GT3に仕立てるにあたって苦労した1台だ。まず、背が高い。ベース車両で1390mmもある。これを1270mmまで低くしたが、もともと1240mmしかないR8のGT3版は車高が1171mmしかなく、並んでみれば車高の差は歴然としている。RC Fの車体骨格はアルミでもCFRPでもなくスチールなので、軽量化は悩ましい課題だった。

↑レクサスRC F GT3。今年の1月に発表された最新モデル
↑レクサスRC F GT3。今年の1月に発表された最新モデル

 

レクサスがそうまでしてGT3車両を開発したのにはワケがあって、GT3車両を用いたカスタマーモータースポーツが世界各地で盛り上がっているからだ。F1やWEC、WRCで見られるように、自動車メーカーが車両開発からチーム運営に至るまで、一貫して取り組む参戦の形態をワークス活動と呼ぶのに対し、自動車メーカーが車両をチームに売り渡し、車両のセットアップを含め、運営はチームが主体的に行う形態をカスタマーモータースポーツと呼ぶ。

 

車両を購入したり、購入した車両を運転したりするのは、「ジェントルマンドライバー」と呼ばれる資金的に余裕のある層が多い。彼らがプロのレーシングドライバーと組んでレースに参戦するのだが、そうしたリッチな層にとって、日本円にして5000万円前後で本格的なレーシングカーが手に入り(近年は競争の激化によって車両価格が高騰する傾向にあるが)、レースを楽しめるのは大層魅力なのだ。

 

そして、そうした層を満足させるべく、世界のプレミアムブランドがこぞってGT3車両を送り出しているのである。サーキットで強さを見せつければ、ブランドの価値が上がるのも魅力。ポルシェやアウディに習えとばかりに、カスタマーモータースポーツの世界に踏み込んできたのがレクサスというわけだ。レクサスは1月の東京オートサロンでRC F GT3を展示。2月2日には、2台をSUPER GT GT300クラスに投入すると発表した。ヨーロッパでの参戦も視野に入れている。

 

ジェントルマンドライバーがステアリングを握ることを想定しているので、F1のように性能至上主義でないのもGT3の特徴だ。RC F GT3はとくにその点に留意して開発されており、コンディションを問わず扱いやすいのが特徴(サスペンションや空力にヒミツがある)。長時間の雨に見舞われたデイトナ24時間では早くもその特徴が真価を発揮し、慎重なドライブに終始する競合を尻目に、ハイペースを保って周回を重ねた。

 

世界各地のサーキットで増殖を続けるGT3、当分の間、目が離せない。

 

【著者プロフィール】

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。

世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々:http://serakota.blog.so-net.ne.jp/