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2017/6/4 18:00

佐藤琢磨「インディ500」初優勝! 彼が取り戻した“2012年の忘れ物”とは……

5月28日にアメリカ・インディアナポリス州のインディアナポリス・モーター・スピードウェイで行われた「インディアナポリス500」(通称インディ500)で、佐藤琢磨が優勝した。日本人ドライバーがインディ500を制するのは、101回の歴史で初めてだ。これまで、佐藤琢磨を紹介する際は「元F1ドライバーの」という表現がついてまわったが、これからは「インディ500ウイナーの」という表現に変わることだろう。それほどに大きな出来事だ。

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インディ500は1周約4km(2.5マイル)のオーバルコースを200周する競技で、琢磨はホンダ製2.2L・V6ターボエンジンを搭載するアンドレッティ・オートスポーツに所属する。出走33台中、4番手でスタートした琢磨はトップグループでレース序盤を過ごしたが、82周目に行ったピットストップで時間をロスしたため、大きく順位を落としてしまう。89周目には17番手にまで沈んでしまった。

 

「だめかなと思った瞬間もあった」と琢磨はレース後に振り返ったが、諦めずに走りつづけ、少しずつ順位を取り戻していった。122周目には6番手にまでポジションを戻すと、168周目には5番手に浮上。179周目には一気に2台をかわして3番手に順位を上げた。

琢磨はホンダ製エンジンを搭載するアンドレッティ・オートスポーツで参戦
↑琢磨はホンダ製エンジンを搭載するアンドレッティ・オートスポーツで参戦

 

最後の6周は、インディ500を3度制しているエリオ・カストロネベス(シボレー)との一騎打ちだった。

 

「最後の3周はなんて表現していいかわかりません。エリオがすごくフェアに戦ってくれたので、全開で行くだけでした」

 

195周目にトップに立った琢磨は、カストロネベスの追撃を抑え、フィニッシュラインを駆け抜けた。2位との0.2011秒のギャップは、インディ史上6番目にランクされる僅差だった。200周のレースでトップに立ったドライバーは15人で、歴代最多記録を更新。どれだけ激しいレースだったかがうかがえる。

 

■自転車競技からスタートした異端のキャリア

1977年1月28日生まれの佐藤琢磨は、高校~大学と自転車競技に打ち込むが、大学在学中に一念発起してモータースポーツ界への転身を決める。幼少の頃にゴーカートから始めて経験を積み、ステップアップを重ねてトップカテゴリーを狙うのがモータースポーツの世界で上を目指す王道。そう考えると、琢磨のキャリアは異端であり、明らかにハンデを負っていた。

 

だが、琢磨はハンデをものともせず、急速に力をつけていった。1997年に鈴鹿サーキット・レーシング・スクール・フォーミュラ(SRS-F)を主席で卒業すると、2000年に渡英。イギリスF3選手権に参戦し、2001年に日本人として始めてのタイトルを獲得する。同じ年、ミカ・ハッキネンやミハエル・シューマッハらを輩出し、F1への登竜門として知られたマカオGPも制した。

 

2002年、琢磨はジョーダン無限ホンダからF1デビューを果たす。自転車からレーシングカーに乗り換えてわずか5年で頂点に達したことになる。B・A・Rホンダ時代の04年には、インディ500の舞台である“インディアナポリス”で行われたアメリカGPで、日本人最上位タイとなる3位を記録。これが、08年まで7シーズンにおよんだ琢磨のベストリザルトとなった。

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↑今回の優勝後のインタビューで琢磨は、2011年の東日本大震災について触れた

 

2010年、琢磨は新天地を求めてアメリカに渡り、KVレーシングからインディカー・シリーズに参戦。A.J.フォイト・エンタープライズに所属していた2013年のロングビーチ戦(市街地コース)で、自身にとっても日本人ドライバーとしても初優勝を飾る。インディ500での優勝はインディカー・シリーズ通算2勝目で、オーバルコースでの優勝は初だ。

 

初優勝にも増して印象的だったのは、2012年のインディ500だ。終盤2番手まで順位を上げた琢磨は、最終周に先頭を走るダリオ・フランキッティ(ホンダ)を追い抜こうと仕掛けるが、その際、姿勢を乱してウォールにヒット。あとほんの少しのところでインディ500の優勝を逃した。

 

「2012年の忘れ物を取り戻す必要がありました。(レース後に)ダリオが挨拶にきてくれたのはうれしかったですね。アンドレッティ・オートスポーツは素晴らしいクルマを用意してくれました。戦略もすばらしかった」

 

琢磨の人柄を表しているのは次のコメントだ。レース終了直後、オフィシャルインタビュアーにマイクを向けられた際に発した(つまり、全米に向けた)言葉である。

 

「(インディ500での勝利は)個人的にもうれしいですし、日本にとっても意味のあることだと思います。2011年に大きな地震と津波がありました。まだ多くの人が避難所で生活しています。まだ、苦しんでいるのです。この勝利が日本に力を与えることになればと思います」

 

成し遂げた男は、格好いいことを言う。

 

【著者プロフィール】

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など

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