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2018/4/8 16:30

極上の鉄道旅に出かけよう!! JR九州「D&S列車」全11列車の魅力を完全解説!

風光明媚な球磨川を横に見ながら走るのはJR九州のD&S列車「かわせみ やませみ」。グリーンとブルーのメタリックボディがおしゃれで、車窓から川の景色を眺めつつ、のんびりと鉄道の旅が楽しめる。

D&Sとは「デザイン&ストーリー」という意味。デザインと物語がある列車で九州を楽しんでもらいたい、というJR九州の願いが込められている。現在、D&S列車は全部で11列車が運行されている。この全列車の紹介と、それぞれの魅力をチェックした。

↑九州を走るD&S列車は全部で11本。2018年4月現在、熊本地震や災害の影響で、経由路線などが変更されている列車があるので注意したい

 

①元祖D&S列車の特急「ゆふいんの森」

まずはJR九州を代表するD&S列車・特急「ゆふいんの森」から。

 

「ゆふいんの森」は国鉄が分割民営化されて間もない1989(平成元)年3月に運行が開始された。現在は博多駅〜由布院駅間を2往復(日によって異なる)が運行されている。JR九州が生まれ、専用車両を用意して走らせた最初の観光特急でもあり、D&S列車の元祖と言っていい。この「ゆふいんの森」の成功が、その後、九州各地を走る多くのD&S列車を生み出すきっかけとなった。

↑特急「ゆふいんの森」に使われるキハ71形気道車(JR九州では「形」としている。ただし形の読み方は「けい」)。沿線の風景がより楽しめるハイデッカー構造となっている

 

↑特急「ゆふいんの森」用に1999年に新造されたキハ72形気道車。当初は4両編成だったが、利用者が多いことから1両増結、5両編成で運転されている

 

車両は床が高いハイデッカー構造で、沿線の景色を高い座り位置から楽しめる。さらに、木が多用された車内、シートもクラシカルな造りとなっている。サロンスペースなど、自由に使えるスペースがあってより楽しめる。

 

もちろん、九州の代表的な温泉観光地、湯布院や別府と九州の表玄関、博多駅を直接結ぶという運転区間の魅力も見逃せない。

 

■特急「ゆふいんの森」

●運転区間:博多駅〜由布院駅(2018年夏頃までは小倉経由で運行、後に久留米経由に戻る予定)

●運転日:ゆふいんの森91号・92号はほぼ毎日、93号・94号は週末を中心に運行

●車両:キハ71形4両編成・キハ72形5両編成

 

②2017年春に誕生した特急「かわせみ やませみ」

D&S列車は毎日走る列車と、週末などを中心に走る列車の2つの運行パターンに分かれる。ここでは先に、毎日運行されている列車から見ていこう。

 

D&S列車のなかでも最も新しいのが、2017年3月に登場した特急「かわせみ やませみ」だ。運転区間は熊本駅〜人吉駅間で、八代駅〜人吉駅間は、ほぼ球磨川沿いを走る。

 

列車名は球磨川に生息する鳥の名前から名付けられた。2両編成中、1号車は「翡翠(かわせみ)」、2号車は「山翡翠(やませみ)」とネーミングも凝っている。

↑2両編成で走る特急「かわせみ やませみ」。人吉側が1号車でブルーの「翡翠(かわせみ)」。熊本側が2号車でグリーンの「山翡翠(やませみ)」とそれぞれ名付けられる

 

車両はキハ47形の改造車で、JR九州のほぼ全列車をデザインしている水戸岡鋭治氏が内外装を手がけた。魅力はこの車両の造りと、車窓に広がるダイナミックな球磨川の景色だ。車内には軽食などを販売するサービスコーナー(ビュッフェ)も設けられている。

 

■特急「かわせみ やませみ」

●運転区間:熊本駅〜人吉駅

●運転日・運転本数:毎日3往復

●車両:キハ47形2両編成

 

③肥薩線の山線を走る特急「いさぶろう・しんぺい」

肥薩線には「川線」区間と、「山線」区間がある。八代駅〜人吉駅間は球磨川沿いを走るので「川線」、人吉駅〜吉松駅間は山に分け入り、山を越える区間なので「山線」と呼ばれる。川線、山線の両区間を走るのが「いさぶろう・しんぺい」だ。

↑古代漆色に塗られた「いさぶろう・しんぺい」。車窓からは球磨川沿いを通る川線とともに山線の魅力が満喫できる

 

↑上空から見た肥薩線大畑駅(おこばえき)。吉松駅行きの場合、手前の線路から右側の駅ホームへ入線。出発後に、左側へ入り、さらにスイッチバックして上の線路を登って行く

 

「いさぶろう・しんぺい」とは、ユニークな特急名だが、肥薩線の開通当時(1909年)の逓信大臣の山縣伊三郎と、鉄道院総裁の後藤新平の名から付けられたものだ。吉松駅行き下りが「いさぶろう号」で、熊本駅行き(または人吉駅行き)上りが「しんぺい号」として運転される。

 

凝った特急名のほか、面白いのが沿線風景の移り変わりだろう。八代駅〜人吉駅間は球磨川を、人吉駅〜吉松駅間は山越えの楽しみが味わえる。山越えの区間には、貴重なスイッチバック駅が大畑駅と真幸駅(まさきえき)と2つにある。また大畑駅はぐるっと回って標高を稼ぐ、ループ線の途中にある駅でもある。さらに日本三大車窓に上げられる矢岳越えなど見どころが満載だ。

 

■特急「いさぶろう・しんぺい」

●運転区間:熊本駅(人吉駅)〜吉松駅

●運転日・運転本数:熊本駅〜吉松駅間、人吉駅〜吉松駅間をそれぞれ毎日1往復

●車両:キハ140形+キハ47形2両編成 *人吉駅〜吉松駅間は普通列車として運転

 

④鹿児島湾を眺めて走る特急「指宿のたまて箱」

鹿児島中央駅と温泉で知られる指宿(いぶすき)駅を結ぶのが、特急「指宿のたまて箱」だ。

 

浦島太郎の伝説が残るこの地方にちなんだ特急名で、駅に到着すると、たまて箱の煙のようにミストが車体から立ちのぼる。そんな凝った演出が楽しい。鹿児島湾の海景色が十分に楽しめるように、海側の座席は、海に向いて設置される。

↑鹿児島湾に沿って走る「指宿のたまて箱」。車体は海側が白、山側が黒という塗り分け。通常は2両で運行、写真のように増結される場合もある

 

■特急「指宿のたまて箱」

●運転区間:鹿児島中央駅〜指宿駅

●運転日・運転本数:毎日3往復

●車両:キハ47形2両編成

 

⑤前面展望が楽しめる特急「あそぼーい!」

熊本地震の影響で豊肥本線の一部区間が運休となり、別の路線で不定期運行されていた特急「あそぼーい!」。2018年3月のダイヤ改正以降、熊本県の阿蘇駅と大分県の別府駅を結ぶD&S列車として復活した。

 

この車両の特徴は前面展望が楽しめるパノラマシートが付くこと。加えて親子用の座席「白いくろちゃんシート」、子どもたちの遊び場に「木のプール」があるなど、親子連れでの利用を考えた造りとなっている。

↑前後にパノラマシートがあるキハ183系「あそぼーい!」。写真は熊本地震前に熊本駅〜宮地駅間を走っていたときのもの。現在は阿蘇駅〜別府駅間と運行区間が変更されている

 

↑横3列に並ぶパノラマシート。ゆったりした座席で、移り変わる前面展望が満喫できる。座席の背の部分や肘掛けなどに木が多用されている

 

■特急「あそぼーい!」

●運転区間:別府駅〜阿蘇駅

●運転日・運転本数:金・土・休日を中心に運行。1日1往復

●車両:キハ183系4両編成

⑥広がる阿蘇の風景が楽しみな特急「九州横断特急」

「九州横断特急」は熊本地震が起こる前までは、名前の通り、九州を東西に横断した特急列車だった。現在は特急「あそぼーい!」と同じく別府駅〜阿蘇駅を結ぶ特急列車として運行されている。

 

運行日は「あそぼーい!」が運転されない日のみ。要は別府駅〜阿蘇駅間は、「あそぼーい!」、もしくは「九州横断特急」のどちらかが運行される形になっている。阿蘇駅近くの豊肥本線の車窓から見る阿蘇五岳の景色が素晴らしい。

↑国鉄が四国用に開発したキハ185系がJR九州に移り、活用されている。真っ赤な車体が特徴。車内も改造され、木が多用され落ち着いた造りになっている

 

■特急「九州横断特急」

●運転区間:別府駅〜阿蘇駅

●運転日・運転本数:平日を中心に運行(特急「あそぼーい!」の運行がない日)

●1日1往復/車両:キハ185系2両編成

 

⑦天草観光に便利な特急「A列車で行こう」

ジャズのスタンダード・ナンバーの名が付くD&S列車。“16世紀の天草に伝わった南蛮文化”をテーマにした内外装で、天井の造り、座席の模様、ステンドグラスなど細かい箇所の造りが凝っている。

 

A-TRAIN BARと名付けられたカウンターでは、熊本名物のデコポンをアレンジしたハイボールを販売、こちらも名物となっている。終着の三角(みすみ)駅の目の前にある港から、天草・本渡(ほんど)港行きの船「天草宝島ライン」が接続。天草観光にも最適なD&S列車だ。

↑三角線の沿線からは島原湾越しに雲仙を望むことができる。車両はキハ185系を改造したもの。2両で運転される

 

■特急「A列車で行こう」

●運転区間:熊本駅〜三角駅

●運転日・運転本数:土・休日を中心に運行。1日3往復

●車両:キハ185系2両編成

 

⑧古い駅舎が残る肥薩線の名物特急「はやとの風」

鹿児島中央駅と肥薩線の吉松駅間を走る特急「はやとの風」。肥薩線の隼人駅〜吉松駅間は1903(明治36)年に造られた路線で、いまでも開業当時の駅舎が途中、嘉例川(かれいがわ)駅と大隅横川駅に残り、必見の価値がある。

 

登録有形文化財でもある両駅に同特急も停車。停車時間も4〜8分と余裕を持たせているので、写真撮影も可能だ。鹿児島湾越しに見る桜島の風景もまた美しい。

↑漆黒のボディが特徴の「はやとの風」。写真の嘉例川駅の駅舎は115年前に建てられたもの。各列車とも5分前後の停車時間があるので記念撮影も可能だ

 

■特急「はやとの風」

●運転区間:鹿児島中央駅〜隼人駅

●運転日・運転本数:土・休日を中心に運行。1日2往復

●車両:キハ147形+キハ47形2両編成

 

⑨日南海岸の絶景が楽しめる特急「海幸山幸」

日豊本線の宮崎駅と日南線の南郷駅を結ぶD&S列車が「海幸山幸(うみさちやまさち)」だ。地元の神話に登場する海幸彦と山幸彦を元にした特急名で、沿線にはその名前の通り、海の幸、山の幸の宝庫でもある。

 

とくに車内から望む日南海岸の海景色が素晴らしい。沿線には城下町・飫肥(おび)や、景勝地・青島など観光地も多い。途中下車して南国、宮崎の観光も満喫するのも楽しい。

↑日南線を走る「海幸山幸」。沿線の油津港はクルーズ船の寄港地でもある。撮影時、ちょうど油津港には「飛鳥Ⅱ」が寄港していた。「飛鳥Ⅱ」は日本を代表する外航クルーズ船だ

 

↑車両は高千穂鉄道の元TR-400形気道車を使用。全面改造されて運行されている。写真は1号車「山幸」の車内。座席は3列シートで広々している

 

■特急「海幸山幸」

●運転区間:宮崎駅〜南郷駅

●運転日・運転本数:土・休日を中心に運行。1日1往復

●車両:キハ125形2両編成

 

⑩現役最古の蒸気機関車8620形がひく「SL人吉」

最近は、各地でSL列車が増えているが、現役で最も古い蒸気機関車がJR九州の8620形58654号機。誕生したのは1922(大正11)年で、1975(昭和50)年まで活躍、その後、肥薩線の矢岳駅前の人吉鉄道記念館に保存されていた。この車両をJR九州が修復し、「SL人吉」の牽引機として活躍している。

 

「SL人吉」は、機関車だけでなく、客車も魅力満載。クラシカルな内装、前後1号車と3号車に展望ラウンジがあり、球磨川や移り行く景色が楽しめる。2号車にはビュッフェがあり、軽い食事やドリンク、グッズ類が販売されている。

↑1988(昭和63)年に復活された8620形58654号機。長い間、「SLあそBOY」の牽引機として走ったあと、再整備され2009年から「SL人吉」の牽引機として走り続けている

 

↑前後部とも全面ガラス窓の展望ラウンジに改造した50系客車を利用。広々した車窓風景が楽しめるとあって人気だ

 

■「SL人吉」

●運転区間:熊本駅〜人吉駅

●運転日・運転本数:金・土・休日を中心に運行(冬期は運行休止)。1日1往復

●車両:8620形58654号機+50系客車3両

 

⑪極上スイーツが車内で味わえる「或る列車」

鹿児島本線や長崎本線の一部は、1889(明治22)年に私設鉄道会社として生まれた九州鉄道の手により開業された。この九州鉄道が1906(明治39)年にアメリカのブリル社に豪華客車を発注した。九州鉄道は、その後、国有化されたため、ほとんど利用されず消えていった客車だが、豪華な客車は「或る列車」として後世に伝えられた。

 

この豪華な客車を再現したのが「或る列車」だ。金色と黒に塗られ、一部に唐草模様をあしらったユニークな外観が目立つ。車内では東京南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ、成澤由浩氏監修の軽食とスイーツが楽しめる。

↑外観は金色と黒、加えて唐草模様をあしらった「或る列車」。走るコースは固定されておらず、2018年6月末までは佐世保駅〜長崎駅間の予定

 

運行される路線は2018年6月末までは佐世保駅〜長崎駅間の「長崎コース」の予定。車窓に広がる大村湾の眺めも楽しみだ。

 

■「或る列車」

●運転区間:佐世保駅〜長崎駅(2018年6月末まで)

●運転日・運転本数:金・土・休日を中心に運行。1日1往復

●車両:キロシ47形2両編成

 

これまで見てきたようにJR九州のD&S列車は多種多彩。ただ車両と走る区間の楽しみだけに留まらない。各列車では客室乗務員が乗車し、各種サービスを行っている。記念撮影のお手伝いなど、細かい気配りが各列車で行われていることも、D&S列車の魅力をアップする大きなポイントとなっている。

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