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2018/5/28 19:00

意外に知られていない「踏切」の安全対策。「踏切の安全確認のために停車いたしました」はどんなとき?

国土交通省が平成28年度に行った調査によると、踏切事故は20年前に比べて58%減、10年前に比べて40%減となり、死亡者数も平成8年度142人、平成18年度124人、平成28年度97人と確実に減ってきている(鉄軌道輸送の安全に関わる情報)。一方で、70歳代以上の高齢者が巻き込まれる事故が34.5%と目立っており、60歳代まで含めると49.7%にもなる。

踏切には安全対策のためにさまざまな機器が取り付けられている。こうした安全装置を知ることにより、クルマや高齢者が踏切内に取り残されたときなど、もしものときに遭遇したらどのように対応すればいいのか知っておきたい。今回は、首都圏に路線網を持つ京王電鉄の踏切の安全対策を中心に見ていこう。

 

「踏切の安全確認のために停車いたしました」はどんなとき?

駅はまだ先だというのに、電車が駅と駅の間で停車。「踏切の安全確認のために停車いたしました」という車掌のアナウンスが車内に流されることがある。踏切でどのようなトラブルが起こると、電車が停止するのか、整理しておこう。停止となる要素は次のことがあげられる。

 

①非常停止ボタン(踏切支障報知装置)が押されたとき

②踏切障害物検知装置が、踏切内に残されたクルマなどを検知したとき

③踏切警報装置の電源が停電したとき

 

それぞれについての詳細は後述するが、これらのことが起こると以下のような対応が行われる。

「特殊信号発光機が作動して運転士に知らせるとともに、当該踏切の手前で停まるように信号が発信されます。さらに万が一、運転士のブレーキ操作を行わなかった場合でも、自動的にブレーキが作動します(停止距離に余裕がない場合は非常ブレーキが作動)」(京王電鉄)

ちなみに、踏切障害物検知装置で人が検知されることはあまりなく、数秒間、同じ場所に留まってはじめて検知されるとのこと。つまり通行する人が遮断機が閉まりかけている踏切を無理に渡ろうとした場合、こういった事例を運転士が発見し危険だと思いブレーキをかけたときをのぞき、電車が急停車するまでには至らないようだ。

 

もちろん、そのような行為は大変危険であり、絶対に行ってはならない。踏切内で転んだり、もしものときは取り返しがつかない。直前横断が踏切事故の原因のなかでもっとも多いことを忘れないようにしたい。

 

非常押ボタンが押されたら、係員や乗務員による復帰操作が必要

さて踏切の安全確認のために電車が停車したとき、運転再開の手続きはどのように行われるのだろう。

「駅係員または乗務員により、目視で当該踏切道の異常の有無を確認します。非常押ボタンによる発光信号の作動については、安全確認後に係員が同装置の復帰操作を行います。運転再開は踏切道内の安全確認後に、そのむねを運輸指令所へ報告してから行います」(京王電鉄)

特に非常ボタンが押されて一度停まってしまうと、運転再開まではなかなか大変なのである。このことにより、列車の遅れ、または前後の踏切が開かなくなるなどの影響が生じてしまう。

 

踏切の警報が鳴りだして遮断動作が終了するまでの時間は15秒が標準。また遮断動作が終了してから電車の到達までの時間は標準で20秒あるそうだ。警報器が鳴り始めて、少なくとも電車到着までに35秒以上の時間があるわけだ。閉まりかけた踏切には無理して進入しない。さらに、もしもの時も慌てずに対応したい。

↑警報が鳴ってから電車が到達するまで約35秒。ただこの数字はあくまで標準時間で、踏切を渡り切る時間を考慮しつつ、長時間、遮断させないなどの設計が行われている

「踏切警報灯」は視認性を考えて場所ごとに使い分けされていた

ここからは、踏み切りに施された安全対策を見ていこう。これらを把握しておくことで、いざというときに落ち着いて行動できるようになるだろう。まずは赤く点滅する踏切警報灯の話題から。

 

京王電鉄の場合、踏切警報灯には次の写真のようなタイプが使われている。大きく分けて、片面形と全方向形、両面形の3種類だ。古くからある片面形だが、「老朽化に伴う更新では片面形から全方向形へ、もしくは両面形への変更を基本としています」と京王電鉄では話す。

片面形は片側のみ、全方向形はその名前のとおり360度、どこからでも点滅していることが確認できる。両面形は表裏の両側から見える形だ。古くから使われてきた片面形に比べて、視認性というポイントでは全方向形と両面形の2タイプのほうが優れていることは言うまでもない。

 

さらに京王電鉄の踏切では、視認性を向上させるために、形の違う踏切警報灯を併存させている箇所がある(上の写真の右下がそれにあたる)。この場所では、線路と交差する道に加えて、線路沿いに側道がある。ちょうど街路灯の柱があり、側道から踏切警報灯が見難いことから、全方向形と片面形を併存させている。

↑京王電鉄をはじめ、鉄道会社の踏切は、写真の全方向形の踏切警報灯が増えつつある

 

筆者が京王電鉄京王線の高幡不動駅 → 笹塚駅の間にある70か所の踏切警報灯を調べたところ(踏切北側のみ)、全方向形が50%近くと圧倒的に多く、従来からある片面形が38%と減りつつあることがわかった。なお、両面形は10%と数は少なめだった。

 

遮断機のトラブルで多い「遮断かん」の破損を防ぐ工夫

次の写真は、東海地方のある路線で見られた踏切のトラブル例だ。遮断機がしまりつつあるのに、クルマが無理に渡ってしまったらしく、踏切を遮断する棒「遮断かん」が完全に折れ曲がっていた。このような状態になると、保安要員が現地へ出向き、修理をしない限り、電車は踏切の手前で停車、さらに踏切前後で徐行運転をせざるをえない。実際にこの路線では列車が大幅に遅れ、また付近の踏切がなかなか開かない状態になっていた。

↑踏切を遮断する棒「遮断かん」が折れてしまった事例。こうなってしまうと、保安要員が到着して遮断かんを交換するまでは、電車は徐行運転を余儀なくされる

 

鉄道会社ではこのような遮断機のトラブルに、どのように対応しているのだろうか。

 

まずは遮断かんを動かしている電気踏切遮断機と、遮断かんをつなぐ部分に「遮断かん折損防止器」という機器を取り付けていることが多い。この防止器を付けることで、多少の角度の折れ曲がりには耐えられる仕組みとなっている。

 

とはいえ限界を越えると上の例のように鉄道の運行に支障をきたし、ほかのクルマや歩行者に迷惑をかけることになってしまう。踏切事故の原因のなかでもっとも多いのが直前横断で、全体の56.5%を占めている(国土交通省調査)。クルマの運転をしているときは、当たり前だが閉まりかけた踏切の無理な横断は慎みたい。

↑電気踏切遮断機(左のボックス部分)と遮断かんの間に付く遮断かん折損防止器。この装置で、一定の角度までは遮断かんが折れないような仕組みとなっている

 

一方、高齢者が(踏切の内側で)遮断かんを前にして立ち往生しているような場合は、手で遮断かんを上にあげて、高齢者を踏切の外へサポートしたい。筆者も自転車を押す高齢者が遮断かんの手前で動けなくなっていた際に、遮断かんを持ち上げて外に出られるよう手助けしたことがあった。人が通るために遮断かんを持ち上げるぐらいならば、大概の踏切には遮断かん折損防止器がついていて、折れることはまずないといっていい。

 

京王電鉄の場合は、まず遮断かん折損防止器の装着に加えて、FRP(繊維強化プラスチック)という、かたい素材の遮断かんを使っている。それでも、クルマが遮断かんに引っかかったりして、折れることがある。折れた場合は、すぐに保守要員が現場に急行して予備品と交換するそうだ。

 

さらに最近ではスリット形遮断かん、屈折ユニットといった、折れ曲がりの衝撃を緩和する遮断かんの導入を進めているということだった。

 

踏切の動作状況を運転士に知らせる「踏切動作反応灯」

踏切がしっかり閉まっているかどうか、これを運転士に知らせるのが踏切動作反応灯だ(京王電鉄社内では「踏切遮断表示灯」と呼んでいる)。踏切動作反応灯の点灯によって、踏切が正常に作動していることがわかる。万が一、停電や故障で踏切が可動していない場合には、この表示が消えたままとなる。

 

ちなみに、この踏切動作反応灯は、鉄道会社により形が違っている。

↑踏切の手前に設けられた京王電鉄の踏切動作反応灯(×印が付いた側)。踏切がしっかり閉まっているかどうかをこの反応灯で運転士に知らせている

 

↑西武鉄道の踏切動作反応灯。上下のランプが点滅して、踏切が正常に作動しているかどうかを運転士に知らせる

 

ところで、上の京王電鉄の踏切動作反応灯の写真に写り込むランプ(踏切動作反応灯の上)は何だろうか?

 

これは踏切の安全を守るために欠かせない特殊信号発光機というもの。踏切に設置された非常ボタン(正式には踏切支障報知装置と呼ばれる)が押されたとき、または踏切障害物検知装置(詳細は後述)が障害物を検知したときに、この発光機が赤く光る。鉄道会社によっては、棒状のもので知らせる例もあるが、いずれのタイプも、赤い光がぱっと輝き、遠くからでもよく見える。

 

非常ボタンを押されたら、この特殊信号発光機が発光して運転士に通知、さらにATC装置(自動列車制御装置)が作動、走る電車の減速が自動的に行われる。2重の安全対策が施されているわけだ。

↑踏切に設置されている非常ボタン(踏切支障報知装置)。このボタンが押されると、特殊信号発光機が点灯、さらにATC(自動列車制御装置)が作動し、電車が減速される

 

↑特殊信号発光機の点灯の様子。点灯時の様子はなかなか目にできないが、点灯時は赤く輝き、遠くからでもすぐわかる(非常ボタンの仕組みを伝える鉄道イベントでの1コマ)

 

踏切内でクルマが立ち往生、または高齢者が踏切内で立ち往生していて動けない、といったトラブルが生じたときには、いち早く非常ボタンを押して、運転士や鉄道会社へ知らせることが大切だ。

 

非常ボタン以外にも障害物を検知して知らせる仕組みが

利用者のあまり目に触れないところで、踏切の安全を守っている装置が踏切障害物検知装置(以下、障検・しょうけんと略)だ。障検のなかでもっとも普及しているのが、光センサー式の検知装置だ。踏切の左右両側に、銀色の柱が数本、立っている姿を目にしたことのある人もいるのではないだろうか。これがその検知装置だ。

↑踏切の脇に立つ踏切障害物検知装置。発光器から赤外線、またはレーザー光線を発光し、受光器でその情報を得て、踏切内の障害物の有無を検知している

 

赤外線やレーザー光線を発光器から出し、もう一方の側に立つ受光器でこの信号を受ける。赤外線やレーザー光線が途中で遮られ、踏切内にクルマなどの障害物があることが検知されると、非常ボタンが押されたときと同じように特殊信号発光機が光り、さらにATC装置が作動して、車両が減速される。

 

光センサー式の検知装置は、複数の装置を立てて、障害物を検知する。とはいえ、赤外線やレーザー光線を照射する部分が限られている。元々、クルマなどの障害物の検知を前提にした装置のため、踏切内に人がいたとしても、その検知は難しい。

 

この検知装置に比べて高度な検知が可能にしたのが「三次元レーザーレーダ式(3DLR)」と呼ばれるシステム。踏切脇の支柱上に箱形の装置が設置されていて、この箱からレーザー光が照射され、踏切内の障害物を検知しようというものだ。障害物が踏切内に留まっている場合、クルマだけでなく、条件によっては人まで感知できるように検知の精度が高まっている。

↑三次元レーザーレーダ式の踏切障害物検知装置。京王電鉄では芦花公園駅に隣接する踏切などに設置される。同踏切がカーブ途中にあり視界が悪いため設置されたと思われる

 

ちなみに京王電鉄では踏切障害物検知装置の設置割合は踏切全体の63%だとされる。歩行者専用の踏切もかなりあるので、クルマが通行できる踏切のうち、多くが何らかの装置を備えているわけだ。ちなみに検知方式は光センサー式の検知装置(HB形と呼ばれるものやレーザー式)を多く使用しているが、一部に三次元レーザーレーダ式も設置されている。

 

踏切の保安設備がない「第4種踏切の事故」が目立つ

ここまでさまざまな安全対策について見てきたが、踏切は、その保安設備により第1種、第2種、第3種、第4種の全4種類に分けられている。踏切警報器や自動遮断機が付いている踏切は第1種踏切とされる。第2種踏切は踏切保安係が遮断機を操作する踏切で、現在はすでに国内にない。第3種踏切は自動遮断機がなく、踏切警報器のみの踏切だ。

 

そして第4種踏切は踏切警報器などの保安設備がなく、足元に踏み板が設けられ渡れるようになっている形のものだ。ちなみに大手私鉄の踏切は、第4種は非常に少なく、今回紹介した京王電鉄はすべての踏切が第1種で、第4種は1つもない。第4種は、列車の運行本数の少ない地方の鉄道路線に多い。

↑踏切警報器や自動遮断機がない第4種踏切。地方路線に多く残り、事故率も高いことか問題視されている

 

数で言えば全国の3万3432箇所(国土交通省平成27年度調査・路面電車の路線も含む)ある踏切のうち、第4種は2864箇所で、0.085%でしかない。

 

ところが、第4種踏切で起きた事故が、踏切事故全体の13.9%を占める。今後、どのような対策を施していけばいいのか。近隣の人たちにとって、欠かせない第4種踏切もあり、安全対策が模索されている。