「燃費」に関して、かねてよりメーカーが公表するカタログ記載値と実燃費には乖離があるという印象が強いですよね。2割や3割はザラで、ひどいものでは4割ぐらい違います。それも一般的には燃費がよいとされているハイブリッド車などのほうが乖離率が高い傾向にあります。
とはいえ、これでもずいぶんマシになったほうなのです。カタログ記載値と実燃費の乖離が大きいというのは、昔からよくいわれてきた問題です。このメーカーが公表する燃費のカタログ記載値について、昔は「60km/h定地走行」を採用していました。それが1973年からは都市部の走り方を想定した走行パターンによる「10モード」に、さらに1991年からは、それに郊外の走り方を加えた「10・15モード」になりました。そして、走り方をより現実的なものに近づけた「JC08モード」を、2011年4月より採用して現在にいたります。なお、近い将来、国際的な統一試験法である「WLTP (Worldwide harmonized Light-duty TestProcedure)」を日本も導入予定であることがすでに発表されています。これについては、長くなるのでまた別の機会に説明しましょう。
話を戻すと、燃費計測の試験は実走ではなくシャシーダイナモ上で行なうのですが、その際にあらかじめその車種の走行抵抗を想定した負荷をローラーにかけます。そして、燃料の消費量から1リットル当たりの走行距離、つまり燃費を算出します。
なお、試験は埼玉県の熊谷にある公的な施設か、メーカーの施設に審査官が出向いて行なわれます。そして、運転するのはメーカーが用立てたドライバーです。本来であれば、常にまったく同じように運転できるロボットがあればよいのですが、それは現時点では無理なので、よい燃費を出すべく訓練を受けたメーカーのドライバーが行ないます。
つまり、冒頭で述べたようにカタログ記載値と実燃費は乖離が大きいといわれていますが、そのメーカーのドライバーと同じように運転すれば、理論的には同じ燃費が出せるということになります。
そして、前で述べた車種ごとの走行抵抗のもとになるデータというのは、車両重量や空気抵抗などを事前にメーカーから審査官に申告することになっています。ところが今回、三菱が申告したデータは実際よりもずいぶん軽かったのです。そのため算出された燃費値が本来の燃費値よりもだいぶよくなっていました。つまり、どうやってもカタログ記載値の燃費を実際に誰も出すことができないわけです。そこに大きな問題があるわけです。これでは「不正」というほかありませんよね……。
むろん、こうした不正が言語道断であることはいうまでもありません。ただし、もともと制度自体にこうした不正をやろうと思えばできてしまうという瑕疵があることも今回の一件の引き金となったのは否めません。今後はこのようなことが起こらないよう、制度そのものを見直す必要があるといえそうです。
ところで、燃費についてはいろいろな都市伝説がありますよね。たとえば、「エンブレをかけると燃費が悪くなる」というのは、昔のキャブレターの場合は、エンジンが回るだけ燃料が吸い込まれていたのですが、今のインジェクションであれば、燃料の噴射を自動的に止めるので、エンジンはただ回っているだけで、燃料は消費されません。
「窓を開けて走ると燃費がよくなる」という説もありますが、これはエアコンを切って窓を開ければそのぶん燃費がよくなるという、ごく当たり前のことが広まったようです。実際には、低速ならまだしも、速度域が高くなると、窓を開けると空気の流れが乱れて空気抵抗が大きくなるので、燃費は悪化する傾向となります。
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著者プロフィール
岡本 幸一郎
1968年5月、富山県生まれ。 学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。 カテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーを中心にさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。 それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。 2004年より日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。 2008年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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