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2019/1/23 17:30

昼はバスで夜はトラック!?「自動運転」の進化が早すぎて驚きの連続

世界最大のIT家電見本市「CES2019」が1月8日~11日にかけて開催されました。もともとは家電見本市として1967年にスタートしましたが、近年は自動運転やコネクテッド技術といった自動車関連の最新技術も数多く出展されるようになるなど、いまや自動車関係者にとっても無視できない大イベントへと成長。そこで本稿では、今年のCESで注目を集めたモビリティ関連のトピックをまとめて振り返っていきます。

↑「CES」は毎年1月初め、ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)で4日間にわたって開催される。広大なエリアにまたがって開催されるため、内容を絞り込まないと到底見切れない

 

<今回紹介するコンセプトカー一覧>

 

CES2019のトピックはズバリ「MaaS(Mobility as a Service)」

CES2019で1番の話題は、「MaaS(Mobility as a Service)」への動きが急速に進んだことでしょう。「MaaS」とは移動するモビリティそのものをサービスと見立てる考え方で、これに向けた提案があちこちで見られたのです。

 

きっかけは昨年の「CES2018」でトヨタが提案した「eパレット・コンセプト」でした。これは自動運転で走る低速型EV(電気自動車)モビリティとなっているもので、それまでボンヤリとしていたこの構想が初めて具体的な姿として提示されたのです。それを受けて、今年のCESではそのコンセプトに右へ倣え! とばかりに各社こぞって箱型の自動運転シャトルを発表し始めました。

 

その姿は共通のシャシーを使って、必要に応じてボディを架装し、乗員を運ぶときもあればモノを運ぶときもあります。さらには移動店舗として使われることもあるでしょう。

 

ここで重要なのは、この車両は基本的にカーシェアリングで使われるということです。

 

たとえばこの車両だけが走る街作りをするとします。そこにはマイカーもありません。車両は域内をすべてオンデマンドで走るシェアカーとなり、低速で走ることから自動運転も実現しやすくなります。クルマとインフラ、歩行者と常に相互通信するV2X(Vehicle to Everything)により、事故もより確実に防げるようになるでしょう。

 

一方で、ほかの都市への移動については郊外に作ったステーションに集約し、そこまで無人のモビリティに乗って行き、公共交通システムやそこに置いたマイカーで移動します。

 

いままで自動運転といえば様々な交通システムが入り乱れた状態で構想が進んできましたが、現状でそのような状態での自動運転化はハードルがかなり高い。それならば、より実現しやすい街作りから始めたほうが、結果として恩恵を受ける人が多いのではないか。そんな考え方がここへきてクローズアップされてきているのです。

 

「そんなこと言って、低速型モビリティだけが走る街作りなんてホントにできるの?」そう思う人も多いでしょう。確かに日本では街の開発が進み、新たな街作りをする発想はなかなか生まれにくいかもしれません。

 

しかし、海外に目を向けると、これを真剣に取り組もうとする街作りがすでに広大な土地があるアメリカや中国でスタートしています。一部では、2020年代の早い時期に街開きするという話も伝わってきています。こうした動きが現実味を帯び始めているからこそ、自動車メーカーやサプライヤーはこぞってカーシェアリングの取り組みを真剣に始めているのです

 

各社のコンセプトカーに見る未来のくらし

上記の話を踏まえ、CES2019で出展されていたMaaS関連の出展をご紹介しましょう。

 

メルセデス・ベンツが出展していたのは、「Vision URBANETIC」という自動運転のコンセプトカー。未来の都市課題を解決するというコンセプトで開発され、ボディ部を積み替えて、最大12人が乗車できるシャトルバスとして使い、場合によっては無人カーゴにすることもできます。

↑ボディとシャシーが分離できる「Vision URBANETIC」という自動運転のコンセプトカー。最大12人が乗車できる

 

ユニークな発想として提案されたのが、日中は乗員を輸送し、通行量が減った夜間には荷物の輸送に使うというもの。これは自動運転車だからこそできる発想といえるでしょう。車両には複数のカメラやセンサーが取り付けられ、ほかの道路利用者に対しては、車両の前面の大型ディスプレイを使って注意を呼びかけられるということでした。

 

「これってクルマなの?」そんな印象を受けたのが、韓国のKIA(起亜)が出展した「R.E.A.Dシステム」というコンセプトカーでした。中には座席と大型のディスプレイがあるだけ。そのスタイルはもはや移動する部屋です。

↑KIAはAIがリアルタイムでドライバーの心理状態を分析して、照明や室温、映像などを最適な状態で提供する「R.E.A.Dシステム」を発表

 

これはマサチューセッツ工科大学との共同研究から生まれたもので、AIがリアルタイムでドライバーの心理状態を分析して、照明や室温、映像などを最適な状態で提供するといいます。完全自動運転のレベル5が実現した際は、現代では想像もつかないスタイルのクルマが登場するのかもしれません。

 

日産が発表したのは、コネクテッドカー技術によってドライバーが見えないものを可視化する未来のクルマ「Invisible-to-Visible(I2V)」です。リアルとバーチャルの世界を融合させたARを使い、たとえば土砂降りの雨のなかでも良好な視界で運転できたり、見えないカーブの先の情報をドライバーに提供できたりします。

↑コネクテッドカー技術によってクラウドと連携し、ドライバーが見えないもの可視化する未来のクルマ「Invisible-to-Visible(I2V)」

 

これは車内外のセンサーが収集した情報とクラウド上に上がっているデータを統合することで実現するという仕組み。また、運転の楽しさを向上させるため、例えばアバターが車内に現れて人間同士が双方向コミュニケーションしているかのように運転をサポートしてくれます。

スマホ予約で迎車? ロボット犬が荷物を運ぶ? 驚きの提案も続々

自動車メーカーに部品を供給するサプライヤーも様々なMaaSを意識した車両を展示をしていました。

 

パナソニックが展示していたのは、自動運転機能を備えたEV「SPACe_C」です。前回のCESから電動パワーユニットの出力を高めて小型化し、スペース効率を大幅に高めたタイプを出展。シャシーとボディを分離でき、必要に応じて載せ替えられるコンセプトはほかと同様です。

↑電動パワーユニットの出力を高めて小型化し、スペース効率を大幅に高めた自動運転機能付きEV「SPACe_C」

 

今回の展示では野菜が入った冷蔵ケースを出展し、スーパーや病院などで利用できることを想定するなど、自動運転で展開される先のサービスまで踏まえた展示に注目が集まっていました

 

ハーマン・インターナショナルのプライベートエリアでも「リンスピード」が同様のコンセプト「マイクロ スナップ」の出展を行っていましたが、注目はそのデザインの良さです。

↑サイズを小型化してシャシーとボディを自在に組み合わせられる「マイクロ スナップ」を発表

 

スイス生まれのエンジニアリング会社の同社は、ハーマン・インターナショナルの傘下に入ってからも斬新なコンセプトカーを発表してきました。今回は昨年出品したボディを載せ替えられるという「スナップ」の基本コンセプトを踏襲しながら、大幅に小型化してシャシーとボディを同時充電する機能も追加。これにより、ボディ単体での利用も可能となり、移動オフィスとしても使えるとのことでした。

 

ボッシュもMaaS対応の自動運転車「Shuttle Mobility」を出展しました。そのイメージコンセプトは動画を見ていただくとすぐにわかります。

スマートフォンから予約すると、指定場所までシャトルが自動的に迎えに来てくれます。乗車時は本人確認を行うので目的地が違う人が乗ることもありません。仮に同じ方面に向かう人がいた場合は乗員の許可を取って乗り合いすることで料金を定額化することも可能になるのです。

↑MaaS対応の自動運転車「Shuttle Mobility」。ボッシュは世界最大の自動車部品サプライヤーで、その実績により自動運転車の開発もすべて自前でできるという

 

また、充電もシャトルは必要に応じて自動的にスポットへ向かいます。ボッシュは世界最大のサプライヤーでもあり、プレスカンファレンスではその実現へ向けてすべて自前でできるというのも大きな強みになっているとも話していました。

 

そして、プレスカンファレンスで意表を突かれたのが同じサプライヤーのコンチネンタルでした。無人運転のシャトルを使うコンセプトは同じなのですが、ある一定のエリアに到達すると車内からロボット犬が飛び出し、最終目的地まで荷物を運んでくれるというわけです。

↑目的地付近まで荷物配送をシャトルで行ったあとは、ロボット犬が荷物を引き継いで玄関先まで届ける

 

無人でモノを運んだ場合、届けたものの、どうやって玄関先まで運ぶかが大きな課題となります。コンチネンタルはこのロボット犬でその役割を果たすというわけです。コミカルな動きは会場でも大きな人気を呼んでいました。次の動画でもその様子をご確認いただけます。

 

より低コストでMaaSシャトルの実現を目指したのが日本のヤマハです。同社はゴルフカートで世界ナンバーワンのシェアを持っており、そのノウハウを生かして、実現間近なシャトル「Public Personal Mobility」をCES会場で実際に走らせていました。

↑世界最大のゴルフカートのメーカーでもあるヤマハは、何よりも普及を第一に考えた低コストの自動運転カーを開発。将来はステアリングなしも想定したコンセプトカーも出展した

 

誘導は路面に設置した電磁ワイヤを使い、センシングはフロントに装着したステレオカメラのみ。技術的にはすでに工場やゴルフ場などで実用化され、石川県輪島市でも実証実験を行った結果生まれたもの。これに専用アプリ「AI車掌」によって乗員の認証を行って目的地へと運びます。走行中は乗員のジェスチャーによって出発・停止をコントロール。まさに身近な技術で自動運転を実現するデモだったと言えるでしょう。

 

今回出展されたものはすべてコンセプトに基づくもので、実際に実現されるかどうかはいまの段階では何とも言えません。しかし、自動運転をどうすれば実用化できるか、どうすれば社会に受け入れられるのか、その辺りを各社が真剣に考え始めたことを今回の展示では実感することができました。自動運転は身近な部分からスタートしていき、気がつけば自動運転の恩恵にあずかっていた。そんな時期がもうすぐ来るのかもしれません。