乗り物
飛行機
2019/6/22 17:00

この秋に日本の空を飛ぶJAL新型機「A350-900」の秘密

おもしろ飛行機の旅 〜〜JAL 新型機A350-900〜〜

日本を代表する航空会社・日本航空株式会社(以下「JAL」)が、画期的な新型機をこの秋にデビューさせる。

 

新型機の名は「エアバスA350-900」。どのような飛行機なのだろう。最新技術を多数利用して生み出される新型機A350-900の“秘密”に迫った。

 

↑新型機の尾翼にはJALのシンボルでもある「鶴丸」のロゴが入る。さらに白いボディには大きく「エアバスA350」の文字が入れられた

 

【新型機の秘密①】JAL初のエアバス機&ロールスロイスエンジン

筆者は常々、本サイトでは鉄道関連のルポ記事を中心に書かせていただいているが、鉄道以外にも乗り物全般が大好きという人間である。とはいえ、飛行機に関しては機種を多少は知っている程度の知識しかない。そこで今回は、乗り鉄ならぬ“乗り飛行機”流の素朴な興味と視点にこだわり新型機を追った。

 

羽田空港のA滑走路に面したJAL M2ビル。大きな格納庫の中に新型機がいた。始めて見た感想は「意外にスリムだな」ということ。だが、この格納庫自体、天井の高さが41mもあるのだから、大型機がすっぽり入っていても、小さめに見えてしまうのは当然なのかも知れない。

 

新型機の機種名はエアバスA350-900(以下「A350」と略)。エアバス社、最新鋭の飛行機である。

 

↑エンジンはA350のために新開発されたロールスロイス社の「トレントXWB」。このエンジンを2基搭載する。同エンジンの長所は静寂ということ。整備士たちも、始めて接した時にその静かさに驚かされたそうだ

 

A350はJALとしては初めての購入になるエアバス社製の飛行機。さらにロールスロイス社のエンジン機を保有するのもはじめてとなる。

 

JALの使用航空機数は合計で231機。うち子会社のJ-AIRなどが運行するボンバルディア、エンブラエルといった小型機を除き、ほとんどがボーイング社製の機体を使用している。

 

 

【新型機の秘密②】なぜエアバス機の導入となったのだろう?

さて、なぜ始めてエアバス社の航空機を導入することになったのだろう? 登壇した赤坂祐二社長は「すべてタイミングの問題」と語る。

 

JALでは現在、主力機としてボーイング777を40機ほど使用している。ボーイング777が運用開始されたのは1995年のこと。世界中で1500機近い機体が製造され、使われ続けてきた。

 

↑トリプルセブンの愛称で親しまれるボーイング777。JALでも中心的な役割を担う。これに代わる飛行機としてA350が選ばれた

 

航空機の寿命はほぼ20年から25年くらいとされている。

 

こうした寿命を考えると、次の機種の選定が急がれていた。A350の座席数は369席。この席数の旅客機の中では大型機にあたる。現在、旅客機を造るメーカーは小型機を除くとボーイング社とエアバス社の2社しかない。寡占化が進んでいるわけだ。

 

ボーイング社では新しい機種といえば787。この787の大半は200人〜300人の座席数を持つ中型機にあたる。ボーイング社の大型機で新機種といえば、777の進化タイプしかない。対してエアバス社のA350は、初飛行が2013年と登場も最近、設計思想、取り入れられている技術も新しい。

 

こうした2大航空機メーカーの現状を見ると、エアバス社のA350となったことも理解できるのである。

 

↑JALが導入したエアバスA350-800は座席数369席。白い機体に入るA350の文字は赤とされた。2号機以降はこの文字色が変更される(後述)

 

A350の導入計画は5年前から進められていたという。近々の問題では2019年3月にボーイングの最新小型機737MAXが墜落して、システムの不具合の可能性が指摘された。結果、ボーイング社の新型機への評価を下げることになっている。

 

こうしたトラブルと、JALの新型機導入は機種の大きさも異なり(737MAXは小型機)、無関係とはいえ、新型機のエアバス社へのシフトは、素人目に見れば非常に賢明だったようにも写る。

【新型機の秘密③】25%の燃費性能の向上&CO2削減に

エアバス社はフランスとオランダに本社を置く航空宇宙機器開発メーカーだ。設立が1970年と航空機を製造する企業としては新しい。そのため先進的な設計思想、新しい技術を積極的に導入した機体設計を得意にしている。

 

A350もこうしたエアバス社の思想が見て取れる。たとえば機体の53%に炭素繊維複合材が使われる。炭素繊維複合材とはカーボンカーボン複合材料とも呼ばれる。例えば、モータースポーツのF1などフォーミュラマシンにはカーボン製のボディが使われている。非常に強く、軽く、その強度で事故がたとえ起きてもレーサーの身体を安全に守ることができる。

 

炭素繊維複合材の多用による機体の軽量化に加えて、ほかさまざまな工夫を取り入れることにより、同じクラスの機体と比較すると燃費性能は25%減、さらにCO2も25%削減されているとエアバス社は公表している。

 

エンジン音も従来機に比べると静寂性を高められている。乗っていても快適性が実感できるとされる。いわば環境にやさしい飛行機と言うことができるだろう。25%減、いわば4分の1ほど燃費性が高まるのだから、もちろんコストカットに結びつく。

 

↑「客室仕様お披露目会」ではJALグループ社員350名とエアバス社、ロールスロイス社からお祝いにかけつけた来賓を含めA350の人文字が作られた 写真提供:日本航空

 

↑人文字を作った全員によりA350の導入を祝って折り紙ヒコーキが飛ばされた。左上はその飛ばされた折り紙ヒコーキ。さすが航空会社、折り紙のデザインも凝っている

 

 

【新型機の秘密④】年に何億円のコスト削減につながるのだろう?

25%の燃費性能の向上は、結果としてどのぐらいに燃料の削減につながるのだろう。この数字を聞いて驚いた。

 

赤坂社長は「1機で年間2億円のコスト削減につながります」と言うのである。当初予定の10機が導入されれば、20億円の削減になる。さらに最大56機という導入予定を実現すれば112億円という莫大な燃料費の削減になる。

 

A350、1機のお値段は約355億円だそうである。それを数10機購入することは航空会社にとってビックプロジェクトといえるだろう。そのためコスト削減という利点をより生かしたいという気持ちもよく伝わってきた。

 

↑A350のボディは意外に細く見える。一方、主翼は長く、超広角レンズを使っても両翼まで入りきらない長さだった

 

↑主翼の翼端に付くウイングレット(ウイングチップとも呼ばれる)。2010年ころから一般化した形状だが、燃費向上に効果があるとされる。A350のウイングレットは、微妙にアールが付き、美しい形状になっていた

 

 

【新型機の秘密⑤】室内は天井が高〜い!収納スペースがビッグ!

A350の室内に入ってみた。同1号機はファーストクラス12席、クラスJが94席、普通席263席が、それぞれ前方から順に備えている。外見から見たコンパクトさに比べ室内に入ると、通路部分の天井が予想以上に高く感じた。まさにA350の特徴であるワイドボディが生かされている。

 

↑クラスJのシートから天井部を見てみる。シートの上には荷物室があるため天井の高さはそこそこだが、通路部分の天井が高い。シート地などに日本の伝統美が生かされている

 

そして窓側の列の上にある大型収納スペースが予想以上に大きい。下の写真を見ていただくとわかるように大型のキャスター付きバックを複数個、タテに入れることができる。

↑A320の大型収納スペース。この写真だけではその大きさが測ることができないが、下ではバックを入れた状態を紹介した

 

国内線でもインバウンドの利用者が増えて、バックの大型化が目立つ。荷物を預ける時間がなく、機内に持ち込まざるを得ない人も目立つ。そんな時に、従来の飛行機だと、収納スペースに納まらず、座席から離れた位置に置かざるをえないということも良く見かけた。そうした時にも、A320ならば十分なスペースが確保されていて、安心だ。

 

↑キャスター付きバックを入れた状態。タテに多くのバックが入ることがわかる。これだけ入れてもまだ余裕が感じられたのもしい

 

キャスター付きとはいえバックはかなりの重量になる。写真のようにいくつも入れたら、さぞや開け閉めが大変なのでは?

【新型機の秘密⑥】収納スペースの開け閉めにもひと工夫ほどこす

飛行機の出発時、機内では収納スペースを締めるのにひと苦労しているCAの姿を良く見かける。多くの荷物が入った収納スペースの動きは重く、さらに高い位置に備え付けられているので、ぴったり締めるという作業はかなり大変そうだ。

 

JALではA350導入にあたり、エアバス社に、この収納スペースの可動に関してサポートシステムを付けてもらえるように要望を出した。エアバス社のその大切さを理解し、力をそれほど入れずに開け閉めできるように、従来のA350にはなかったサポートシステムを工夫し、新たに取り付けた。

↑JALが導入したA350の大型収納スペースにはサポートシステムがついている。そのため、開け閉めがラクになったそう。同CAさんも「ラクに開け閉めできて乗るのが楽しみ」と話す

 

今回の公開では室内でJALのCA(キャビンアテンダント)が取材撮影のサポートをしていた。複数人に尋ねたところ、従来機にくらべて、大型収納スペースの開け閉めが非常にラクになっていると答えてくれた。

 

あるCAさんは、締める時、途中から「ズ・ズ・ズ〜と上がっていく感じ」と表現してくれた。今後、A350に乗ったらCAさんにお任せせずに、「ズ・ズ・ズ〜」を体験したい。

 

 

【新型機の秘密⑦】ややっ!普通席も横幅が心持ち広いぞ

A350機の室内にある各クラスの座席に座ってみた。ファーストクラスは大型のシェル、柔らかなクッションでソファのような座り心地と同機の解説書にある。隣の席とは間仕切りとなるセンターディバインダーも設けられ、プライバシーが保たれる。

 

↑機体の前方にあるファーストクラスのスペース。隣りあう席の間には視線を防ぐようにセンターディバイダーが設けられる。左下写真は座席に設けられたスイッチ。JAL国内線では初の電動リクライニングシートを採用した。電動マッサージ機能も備えている

 

「ひとつ上のくつろぎを」がクラスJのシート。足下のシートピッチが約97cmと広く、さらに足をサポートするレッグレストも備えている。二種類の生地を組み合わせたシートカバーで、「室内空間にアクセントを与えるとともに、視覚的な広がりを創り出します」と同機の解説書にある。

 

↑クラスJのシート。肘掛け部分に収納された折り畳み式のテーブルを開いてみた。肘掛け部分には座席のリクライニングボタンとともに、レッグレスト用のボタンが付く。レッグレストは微妙な角度での調整が可能、体型に合わせた位置で利用できる

 

3種類のシートのうち、後方にある普通席。座席は黒とグレーの生地で落ち着く。A350の普通席の特徴は、頭部をサポートするヘッドレストの可動域が上下に大きいこと。さらに、普通席にもUSBポートやAC電源が用意されている。

 

そしてうれしいのは、従来の飛行機の標準的な座席幅(左右のアームレスト間)にくらべて広いことだろう。長さは約44cm。これは普通の座席に比べて1.5cm広いのだという。

 

実際に座ってみた。普通席の場合、隣りあう人との距離感が気になるところだが、適度なすき間が保てるのがうれしい。

 

↑3列シートが並ぶ普通席。座面の横幅が従来の普通席に比べて1.5cm広い。これもA350のワイドボディのなせるワザと言えそうだ

 

↑普通席に付くモニターは10インチ。搭乗時にお目にかかる最初の画面には例えば左上のように55Eと座席番号も記されている。これならば座席番号を間違えてしまって、という心配もなさそうだ。映画、ライブTVなど映像コンテンツもモニターで楽しむことができる

 

↑座席に付くモニターでは機外カメラの映像も見ることができる。尾翼(矢印の位置に付く)のカメラによる「ウイングビュー」が見えるというのも画期的。鳥になった気分で空の旅が楽しめそうだ(囲み内はウイングビューの見本映像)

 

【新型機の秘密⑧】A350の操作はサイドスティックで行う!

今回の公開時にはA350のコクピットにも入ることができた。

 

コクピットに入ったところ気付いたのは操縦桿がどこにあるの、ということだった 飛行機を操縦する時に使うハンドルのような形の、専門的には操舵輪がないのだ。

 

↑A350の先頭、コクピット部分を外から見る。窓は黒フチが付き、ややタレ目気味の愛嬌のある顔立ち。動物の顔にたとえれば人気者のアライグマに近いといったら失礼だろうか

 

↑A350のコクピット。左が機長の座る席で、右が副操縦士の席となる。エアバス社の飛行機はみなサイドスティック(席の左上の棒状のもの)で操縦を行う。そして中央部にあるスロットル・レバーでエンジンを制御する

 

心配はご無用。A350では操縦はコクピット内の席の左前にあるサイドスティックが操縦桿となっている(副操縦士の場合は右前)。通常の飛行機とは異なるのだ。この構造の場合、座席の前にはノートや、パソコンなどを置ける構造となっている。操舵輪がないだけ、足下も快適かも知れない。

 

たとえとしてやや異なるかも知れないが、飛行機の操縦桿は鉄道車両ではマスコンハンドルのようなもの(飛行機の方がより三次元的に動かす必要があるが)。鉄道もマスコンハンドルの構造は左にあったり、中央にあったり、さらに古い車両は構造が異なる。そうした構造の違いがあっても、運転士は使い分けしている。

 

こうした操縦桿の構造の違いは、それこそ操縦するパイロットの慣れと経験でカバーできるということなのだろう。

 

↑A350のギャレー。ここでCAがドリンク類の用意、国際線ならば食事の用意を行う。大型機ということもあり非常に広い造りになっていて、作業もしやすそうだ

 

 

【新型機の秘密⑨】サイズに合わせ空港のスポットの調整が必要に

JALにとって初のエアバス機、ロールスロイスエンジンということで営業上、また整備をする上での問題点はないのだろうか。

 

↑A350はJALの主流機だったボーイング777に比べて主翼の長さ(翼幅)が4mほど、機体の全長も3m長い。実際に見ても主翼はかなり長く感じられた

 

JALの整備工場では、自社が所有している機体の整備のみに行っているわけではない。他社の機体の整備も請け負っているので、エアバス社の機体の整備も経験済みとのことだった。そのため、初のエアバス社の新型機を導入することに関して不安はないと言い切る。

 

むしろ、主力機のボーイング777と入れ換えていく上で、サイズの違いなどに合わせて空港の施設を調整する必要があるぐらいだとされる。

 

サイズを比較すると両主翼の左右幅、翼幅で4m、全長で3mほどA350のほうがひとまわり大きい。そのために利用空港での、駐機場、旅客乗降用エプロン用の駐機地点など「スポット」の調整は必要になるとされる。

 

いずれにしても整備や地上設備の問題では、エアバス社の機体に変更しても、そうした調整の範囲で済むようだ。

 

 

【新型機の秘密⑩】2号機、3号機のカラーもすでに決定済み

1号機が6月11日にフランスのトゥルーズ工場でJALに引き渡され、今回の報道陣へのお披露目となった。

 

今後、テスト飛行などが続けられた後に、9月1日に、東京羽田空港と福岡空港を結ぶ福岡線に就航の予定だ。さらに2号機、3号機も順次、JALへと受け渡される。次の2号機、3号機の車体に入る色も決定されている。

 

こうしたA350は国内線のボーイング777と入れ換えられ使われていく予定となっている。国際線に使われるボーイング777は導入された時期が国内線にくらべて新しいため、まずは国内線を変更が優先になる。

 

↑A350の2号機(上のシルバー)と、3号機(下のグリーン)の色見本。主翼の先のウイングチップも同色に合わされるとされる 写真提供:日本航空

 

 

思い切った新型機の導入。まずはA350の快適な乗り心地を味わいたいものだ。

 

【ギャラリー】

 

【関連記事】
弱点は笑い飛ばせ! 「KLMオランダ航空」のユーモアあふれるPRが大評判