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2019/7/7 17:00

奥州三名湯・飯坂温泉へ走る福島交通の「いい電」10の秘密

【いい電の秘密④】直流電車と交流電車が隣り合わせ福島駅を発着

前置きがやや長くなったが、路線の模様を見ていくことにしよう。

 

発車は福島駅。福島交通の乗り場は駅の北側にある。JR東北本線、東北新幹線とは連絡通路で結ばれているものの、ややわかりにくい。

 

独自の入口から入る場合は、福島駅の東口を外に出て、駅前を北に向かう。バスが発着するロータリーの前に、いい電の乗り場入口がある(下写真)。簡素な造りで、「電車のりば」という表示がとてもレトロな趣だ。

 

↑福島交通飯坂線と阿武隈急行線の乗り場入口付近。駅ビル「S-PAL」とパチンコ店のちょうど間にある。この奥に切符売場と改札が設けられる。JR線の跨線橋からも連絡通路が通じている

 

いい電の乗り場は、写真を見ておわかりのように第三セクター鉄道の阿武隈急行線と共存している。

 

ユニークなのは1本のホームに一方は飯坂線が、JR東北本線に面した側に阿武隈急行線のホームとなっていること。実は、この2路線。電化方式が異なっている。飯坂線は直流1500ボルト。阿武隈急行線は交流20000ボルトだ。

 

阿武隈急行線の線路は、駅の先でJR東北本線の線路と合流する。JR東北本線の一部区間を共用しているだけに、JR線と同じく交流電化されている。

 

こうした直流と交流の電車が隣合わせながら、同一のホームを利用するというのは、非常に稀なこと。全国的に見て、ここのみでないかと思われる。

 

↑福島駅ではいい電の電車(右)の向かい側から阿武隈急行線の電車が発着する。阿武隈急行線は路線開業が1988(昭和63)年と新しいせいか、案内表示もやや新しいようだ

 

直流と交流という違う種類の電車が同居する。鉄道ファンとしては、なかなか興味深い駅ホームの形態である。とはいえ、外から見ただけでは、阿武隈急行線の電車のパンタグラフ付近に碍子(がいし)がごてごてと付いているぐらいと、そう違いがあるわけではないのだが。

 

 

【いい電の秘密⑤】福島市のシンボル信夫山をかすめて走る

福島交通飯坂線の路線は全線が単線で、桜水駅などの途中の駅で上り下り電車の交換がある。時刻は朝夕が15分間隔、日中は20〜30分間隔で運行されている。福島駅へ着くと、すぐに折り返し運転されている電車が多い。

 

駅間は短く、最短の岩代清水駅〜泉駅間で300m、遠くても美術館図書館前駅〜岩代清水駅間、医王寺前駅〜花水坂駅間の1.3kmといったところ。つまり隣駅まで、歩けてしまう距離に駅が連なる。

 

福島駅を出ると次の駅の曽根田駅(そねだえき)。ここまで600mの距離だ。この曽根田駅は、太平洋戦争前後に「電鉄福島駅」と名乗り、いい電の玄関口だった。そのためかターミナル風の駅舎が残る。ちなみに、JR東北本線の路線はすぐ横を平行して走っているが、曽根田駅、次の美術館図書館前駅とも、いい電のみ駅が設けられ、JR東北本線には駅がない。このあたり、いい電は市内線、そして近郊線の役割を果たしているといって良いだろう。

 

↑曽根田駅は1942(昭和17)年に現在地に移されて開業した。外観は1990年ごろまで走っていた福島交通の車両の色、赤とベージュの色に合わせている。レトロな趣を活かし、写真のようにイベントの会場として使われることも多いようだ

 

曽根田駅の次は美術館図書館前駅と非常に長い名前の駅だ。降りてみると、住宅地の中にある駅といった印象。小さな入口と連絡通路、小さめのホームと、コンパクトにまとめられている。駅名どおり福島県立美術館と福島県立図書館にも近い。

 

↑美術館図書館前駅と岩代清水駅の間で、JR東北本線の線路と交差する。右側にある山が福島市のシンボル信夫山。いい電は、信夫山の西端をかすめるように走っている

 

美術館図書館前駅を過ぎると、進行方向右側に小高い山がそびえる。この緑の一帯は、信夫山(しのぶやま)と呼ばれる。信夫山は福島市のシンボル的な存在で、標高275m、福島駅からも見えているのがこの山だ。

 

桜の名所でもあり、春には多くの花見客で賑わう。この信夫山をかすめるようにいい電は走り、間もなく、JR東北本線の線路を陸橋で越える。

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