乗り物
鉄道
2019/9/15 18:00

昭和初期の風景がそのまま残る!「天浜線」11の秘密

【天浜線の秘密⑤】11の駅が登録有形文化財の指定を受ける

天浜線は39ある駅のうち、11の駅が国の登録有形文化財の指定を受けている。4分の1に近い駅が文化財というわけだ。その多くが昭和初期の開業当時の状態を保っている。

 

こうした路線は非常に珍しい。駅に加えて橋、駅施設など36施設が登録有形文化財に指定されている。いわば、路線そのものが博物館そのものと言って良い。登録有形文化財に指定された全駅を巡ったので、写真を中心に紹介しよう。

 

↑路線の起点・掛川駅側から順に(左上から)駅名と特徴を。まず「桜木駅」、駅舎内で鈴虫が飼われる。「原谷駅」は天浜線の典型的駅舎スタイル。「遠州森駅」は待合室の木の椅子が重厚、通路に下りる階段に特徴が。「遠江一宮駅」は駅舎内に手打ちそば店がある

 

↑こちらは天竜二俣駅〜新所原駅間にある登録有形文化財に指定された駅。「岩水寺駅」はホーム上の屋根付き待合室が古風。「宮口駅」は簡素な木の改札口、不釣り合いに長いホーム。「金指駅」はホームに建つ上屋の形が面白い。「気賀駅」はホームの上屋が凝った造り

 

↑金指駅の入口近くに建つ高架貯水槽。駅舎やホームだけでなく、こうした駅を取り巻く構造物も登録有形文化財に指定されている。重厚なスタイルをしていて趣深い

 

 

【天浜線の秘密⑥】なぜ多くの駅が古い姿を留めているのか?

なぜここまで古い施設が残されたのだろう。

 

登録有形文化財と同じく、文化財保護法により守られているのが「重要伝統建造物群保存地区」。全国に残る古い街並みに残された建物や町並みを、景観ぐるみで保存、守っていこうとする制度だ。

 

なぜこうした古い建物や町並みが残ることになったのだろう。これらの地域の多くは高度成長期から続いた好景気の時代に開発が行われなかった。開発の対象から漏れたことが、逆に今となって光を浴びるようになっている。

 

天浜線もこうした例と同じように、国鉄二俣線から含め、輸送力増強という開発のメスが入らなかったことが、今になって幸いしていると言って良いだろう。

 

↑こちらは登録有形文化財に指定された西気賀駅のホームと待合所。のどかな雰囲気満点の駅だ。ホームには地元の人たちにより花が植えられ、きれいに清掃されていた

 

東海道本線の沿線が「東海道メガロポリス」化し、大小の工場や、それに伴うように市街地化され様相を変えていった。対して、東海道本線のバイパス線として造られた天浜線には、路線を含めて開発の手があまり入らなかった。両線の間は、それほど遠く離れていないにも関わらずである。

 

それが今や“お宝”となって残っている。これは貴重なことといって良いだろう。

 

↑ちょっとシュールな桜木駅。改札口には子どもをかたどったボードが立ち「おかえりなさい」の文字が。このボード裏にはアンパンマンの絵が描かれる。駅通路の奥には少女の人形が立ち人気番組「チコちゃんに叱られる」の、チコちゃんの決めぜりふ「ボーッと生きているんじゃねぇーよ!」の立て札が

 

ところで、登録有形文化財に指定されてしまうと、マイナス要素がないのだろうか。登録有形文化財とはどのようなものなのか、ここで抑えておこう。

 

登録有形文化財とは1996(平成8)年に設けられた文化財登録制度に基づき登録された有形文化財のこと。当初は建造物のみだったが、その後に建造物以外も登録できるように変更された。

 

高度成長期以降、急激な都市化により、近世以降に造られ、建てられた建物や施設が、歴史的、文化的な価値を重視されずに、壊されるという残念な例が相次いだ。こうした反省から歴史的にも大切な建物や施設を末長く活かせるように、この登録制度が生まれた。

 

登録有形文化財制度の長所は、現状とほぼ同じ外観であれば、建物内に手を入れても構わないということ。例えば、古い酒蔵の外観を生かしつつ、内部をレストランにしても構わない。

 

天浜線でも登録有形文化財に指定された駅舎が多いが、内部を食堂や、カフェ、そば店として利用した駅が複数ある。

 

↑草花が美しい遠江一宮駅。駅舎内に手打ちそばの店があり、改札口横の部屋でそばの仕込みが行われていた。駅の入口に「だいこくちゃん」の像が立つ。この一帯を所領した小國神社のご祭神、大国主神(おおくにぬしのかみ)にちなむとされる

 

駅が無人で寂しくなるよりも、こうした店舗として使われれば、地方の文化的な拠点にもなる。鉄道会社にしても使ってもらえれば、荒れる心配がないし、利益も得ることができる。天浜線では店が入っていない駅でも、トイレを含め清掃や整備が地元の人たち主体で行われていた。そのため駅の建物が古くともみな奇麗。訪れた人の好印象を生み出す結果に結びついている。

 

さらに登録有形文化財には、建造物修理補助事業という制度があり、保存修理する場合には国から一部を補助が受けられる利点もある。最近多い災害復旧などでも有利になっている。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5