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2020/1/26 19:00

2020年夏、北海道を周遊する「ザ・ロイヤルエクスプレス」を誰よりも深く熱く解説

「THE ROYAL EXPRESS〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」旅行プランが決定

 

静岡県伊豆半島の東岸、伊東駅と伊豆急下田駅を結んで走る伊豆急行伊豆急行線。相模灘や伊豆諸島を眺めて走る風光明媚な路線である。

 

「ザ・ロイヤルエクスプレス」は伊豆急行線を走る人気のクルーズトレイン。この列車が今年の夏は北海道へ出向き、道内を周遊する。その詳しい行程が、先日、発表された。さらに「ザ・ロイヤルエクスプレス」に乗車する機会にも恵まれた。列車の旅を振り返ると共に、北海道の旅プラン&車両情報に迫った。

↑「ザ・ロイヤルエクスプレス」は海沿いを走る伊豆急行線の名物クルーズ列車として2017年7月21日に登場した

 

 

【TRAINに迫る①】北海道の路線を一周するプランが発表された

「ザ・ロイヤルエクスプレス」は主に週末、JR横浜駅発、伊豆急下田駅行、そして翌日に伊豆急下田駅発で、JR横浜駅へ戻るクルーズトレインとして運行されている。春の3月から4月もこうした行程で運行される予定だ(2020年1月31日申込締切り=詳細後述)。

 

さらにこの夏、8月14日(金)〜9月18日(金)の約1カ月間は北海道を3泊4日でぐるりと周遊する。その旅行プランが先日、横浜市内で発表された。

 

クルーズトレインに乗車できるのは30名までで、基本料金は68万円〜(税込・宿泊2名1室利用の場合)となる。車内でいただく昼食は、沿線を代表する4人の料理人が担当。地元の食材を活用した料理が味わえる。さらに沿線の見どころを巡り、十勝川温泉、知床ウトロ、富良野の名宿に宿泊するプランが組まれる。

↑横浜で開かれたクルーズプラン発表会。昼食を提供する食事処や沿線の観光関係者が一同に集まり、PRに務めた

 

「ザ・ロイヤルエクスプレス」が北海道へいつ向かうのか、またどのような姿で北海道を走るのか、そのあたりは後ほどのお楽しみ。まずは「ザ・ロイヤルエクスプレス」とは、どのような列車なのか、また生い立ちはどのような車両だったのか、振り返ってみよう。

 

【TRAINに迫る②】ROYAL EXPRESSは出世列車!生い立ちは?

「ザ・ロイヤルエクスプレス」の車両形式は伊豆急行2100系。この2100系は伊豆急行(東急グループの一企業)の看板列車で、「リゾート21」という愛称が付く。「リゾート21」はこれまで8両×5編成が造られ、うち2編成が今も走り続ける。3次車の「Izukyu KINME Train」と、4次車の「黒船電車」である。伊豆半島の名物キンメダイと、下田に縁の深い黒船をテーマにしたリゾート列車だ。

 

「ザ・ロイヤルエクスプレス」は2100系の5次車「アルファ・リゾート21」として誕生した。週末は東京駅まで乗入れる「リゾート踊り子」として活躍した。そして2017年に大きく生まれ変わった。

↑「アルファ・リゾート21」として走った当時の2100系5次車。2017年初頭、東急の長津田車両工場で改造が進められた(左上)

 

水戸岡鋭治氏のプランニングおよびデザインにより、大規模な改造が行われたのである。そして「ザ・ロイヤルエクスプレス」となった。

 

「アルファ・リゾート21」という名前だった当時も注目を集めた列車だったが、内容を一新、豪華な造りとなった。2100系5次車は、リゾート列車から豪華クルーズトレインへと、いわば“出世”した車両だったわけである。

【TRAINに迫る③】乗車して、列車の細部に迫った!

2017年に登場した車両ということもあり、すでに乗車された方もいるかも知れない。筆者は乗車が始めてということもあり「ザ・ロイヤルエクスプレス」に興味津々。車内をくまなく見てまわった。

 

↑6号車の客室。床が組み木、見上げると、格天井と呼ばれる造りのアーチ型の天井がおもしろい。椅子、照明などの細部にもこだわる

 

デザインは水戸岡鋭治氏。近年ではJR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」のデザインが代表作となっている。JR九州の列車では、天井や床、そして調度品に至るまで、細いところまで水戸岡氏ならではのデザインが行き届いていた。そして「ザ・ロイヤルエクスプレス」を見た印象は、すでに3年前の“作品”ながら、より上質な印象が強まっていることが窺えた。

 

壁、柱、天井などは木材を使用。格天井には箔押しの模様が施される。組子で仕切られたブース席、寄せ木の床と、見てまわるだけでも楽しい。これが1号車から8号車まで、それぞれ異なるのだから、鉄道好きにとっては見て回るだけで時間が過ぎてしまう。そして水戸岡氏が大事に考える子どもたちが遊べるスペース「木のプール」もある。それこそ水戸岡氏ワールド全開なのである。

↑1号車の中ほどにある木のプール。子供用のソファや絵本図書館なども用意される。子ども連れでも飽き知らずの列車だ

 

↑細部を見る。左は5号車の大形トイレ。内部の装飾が見事。右上は7号車のテーブル付ベンチ。窓のブラインドは簾(すだれ)だ

 

そして鉄道好きとしては気になる前後の様子。「ザ・ロイヤルエクスプレス」では1号車、8号車の先頭部から展望が楽しめる構造だ。1号車(ゴールドクラス)には前面展望が楽しめる2人用座席と海向きの2人用座席などを用意、8号車(プラチナクラス)には図書席(ライブラリー)となっていて、書斎として利用できる。

 

↑伊豆急下田方面の展望席からは運転席を通して前面展望を楽しむ。運転室との間にガラスの仕切りが無く迫力の展望が楽しめる

 

 

【TRAINに迫る④】春のクルーズプラン申込の締切りが迫る!

今年の3月中旬から4月にかけて伊豆急行線で運転される「ザ・ロイヤルエクスプレス」。乗車しての1泊2日「クルーズプラン」と、乗車のみの「食事付き乗車プラン」が用意されている。このプランの申込が1月31日と締切り日が間近に迫ってきた。運転日の日程と代金を触れておこう。

 

◇クルーズプランA(乗車と下田エリア観光+下田地区の温泉宿で宿泊)

出発日:3月13日、4月3日、4月10日、4月17日(ともに金曜日発)

代金:15万5000円〜(宿泊1室2名利用の場合)

 

◇クルーズプランB(乗車と西伊豆エリア観光+下田地区の温泉宿で宿泊)

出発日:4月5日、4月12日、4月19日(ともに日曜日発)

代金:15万円〜(宿泊1室2名利用の場合)

 

↑片瀬白田駅〜伊豆稲取駅間は最も海景色が楽しめる区間だ。列車もスピードを緩めて走る。海上には伊豆諸島も望める

 

◇食事付き乗車プラン(著名料理人が監修の料理が楽しめる/曜日により監修する料理人が異なる)

横浜駅出発日:3月13日(金)、4月3日(金)、4月6日(月)、4月10日(金)、4月13日(月)、4月17日(金)、4月20日(月)

伊豆急下田駅出発日:4月6日(月)、4月13日(月)、4月20日(月)、4月26日(日)

代金:ゴールドクラス2万6000円、プラチナクラス3万9000円(ともに1名様料金)

 

豪華な列車ながら、この食事付き乗車プランならば、筆者も何とか楽しめそうだ。次回は申込にチャレンジしてみたい(抽選になることもあり必ず乗車できるとは限らない)。

↑「ザ・ロイヤルエクスプレス」の車内から見た相模灘。JR小田原駅を通り過ぎると、海が徐々に見えてくる。写真は伊豆多賀駅付近

【TRAINに迫る⑤】北海道を1周するクルーズプランの詳細は?

ここからは、8月に走り始める「THE ROYAL EXPRESS〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」の北海道旅行プランを見ていこう。同プランは北海道を3泊4日の行程で周遊する。日程は次の通りだ。

 

①8月14日(金)〜17日(月)
②8月21日(金)〜24日(月)
③8月28日(金)〜31日(月)
④9月4日(金)〜7日(月)
⑤9月15日(火)〜18日(金)

 

販売時期は

 

①先行販売(THE ROYAL EXPRESSリピーター向け):2020年2月10日〜2月16日まで
②一般販売:2020年2月17日〜3月10日まで

 

販売方法はホームページ・郵送で申込み受付後、抽選での販売となる。こちらも間近に迫っているわけだ。それでは、旅程の1日目から4日目の主なポイントをピックアップしよう。

 

1日目は札幌駅を11時頃に出発し、千歳線、石勝線、根室本線をたどって池田駅へ。こちらでは特別企画として「池田ステーションワインパーティ」が開かれる。駅で地元名産の十勝ワインを楽しむ趣向だ。そして1泊目は十勝川温泉での宿泊となる。

↑道内でたどる行程。札幌駅から釧路を経て、知床へ。そして北見、旭川とほぼ一周する。写真はイメージ、一部写真提供:東急(株)

 

↑1日目の夕方16時25分ごろに池田駅に到着。駅では「池田ステーションワインパーティ」が開かれる 写真提供:東急(株)

 

2日目は専用バスで釧路駅へ。ここから再び列車に乗車して釧網本線(せんもうほんせん)を川湯温泉駅へ。さらに知床斜里駅へ向かう。途中、釧路湿原では車窓から眺める大自然が魅力に。車窓からはエゾシカが見えるかも知れない。知床斜里駅からは専用バスを使って世界遺産・知床観光へ。2泊目はオホーツク海を望むウトロ温泉での宿泊となる。

 

3日目は再び知床斜里駅から列車に乗車し、釧網本線を網走駅へ。網走駅から石北本線(せきほくほんせん)を北見駅へ向かう。車窓から望むオホーツク海、網走湖の眺めが素晴らしい。

 

北見駅で途中下車(選択プランがあり列車で過ごすこともできる)、専用バスで遠軽駅(えんがるえき)へ。同駅はスイッチバックとなっていて、機関車の付け替え作業も行われる。遠軽駅からは石北本線を道央へ。途中からは大雪山系などの山並みが楽しめる。この日は旭川駅で下車、宿泊地の富良野へ向かう。専用バスから眺める美瑛(びえい)・富良野の景色や観光が楽しみだ。

↑北海道美瑛町で創作イタリア料理の店を営む才田誠シェフの料理が昼食として提供される(写真はイメージ)

 

4日目は、ラベンダーで知られる富良野のファーム富田で朝食タイム(希望者のみ)、そして専用バスで美瑛の人気スポット「青い池」へ向かう。旭川駅からは最後の列車乗車タイムとなる。そして15時ごろに札幌駅へ到着する。

 

ここでは書き切れないほどの内容充実の4日間となりそうだ。それこそ北海道の魅力が「ザ・ロイヤルエクスプレス」に乗車して満喫できる。

↑ヴァイオリニストの大迫淳英氏。「ザ・ロイヤルエクスプレス」のテーマ曲をプロデュースした。北海道でも大迫氏の演奏が楽しめる

【TRAINに迫る⑥】北海道をどのような編成で走るのだろう?

さて、ここからはやや“鉄分”が濃くなる。鉄道好きが、つい注目したくなるポイントを見ていこう。まず、北海道で「ザ・ロイヤルエクスプレス」は、どのような編成で走るのだろうか。

 

「ザ・ロイヤルエクスプレス」は電車ながら、道内を自走することができない。直流電車のため、交流電化された道内の路線を走ることができないのだ。さらに走る予定の区間は非電化区間が多い。

 

そこで道内ではディーゼル機関車にひかれて走る。通常は8両編成だが、列車の長さを考慮して5両編成に組み直される。乗客の利用できるのは下の写真の4両だ。内訳は1号車が展望車、5号車と6号車がダイニングカー、8号車がライブラリーとなる。

 

↑北海道クルーズで使われる4両。1・8号車からは前後部の展望が楽しめる。5・6号車はダイニングカーとして使用 一部写真提供:東急(株)

 

ほかに4号車・キッチンカーが連結される。この4号車は車両すべてが厨房という割り切った造りの車両だ。

↑連結される4号車はキッチンカー。列車内で提供する昼食がこちらで調理される。クルー(左写真)が乗車して接客サービスを行う

 

 

【TRAINに迫る⑦】道内では機関車と電源車「ゆうマニ」を連結

北海道で走る「ザ・ロイヤルエクスプレス」は、下の水戸岡鋭治氏のイラストのような編成となる。牽引するのはJR北海道のDE10形(もしくはDE15形)ディーゼル機関車だ。黄色いカラーで特別塗装されたDE10形を2両連結した重連スタイルで列車を牽引する。

 

“北海道クルーズトレイン”はそれこそ絵になりそうだ。さらに白い車両が連結されているが、さてこの車両は?

↑北海道を走る「ザ・ロイヤルエクスレス」のイメージ。機関車2両+電源車と連結して走る 写真提供:東急(株)

 

こちらは電源車だ。「ザ・ロイヤルエクスプレス」は道内でパンタグラフをあげずに走るために架線から電気を得ることができない。そのために電源車を連結して、この電源車から電気の供給を受けるのだ。

 

電源車として使われる車両の経歴がおもしろい。形式名はマニ50形。荷物車として造られた。車両の中間部に荷物積み下ろし用の扉が付く。荷物車は主に客車列車に連結され、鉄道荷物輸送で活躍した。1986(昭和61)年に鉄道荷物輸送が廃止され、全国の荷物車は、ほとんどが姿を消していった。

↑北海道クルーズで一緒に走る予定の2車両。上はJR北海道のDE10形ディーゼル機関車。下は電気を供給するマニ50形電源車

 

使われるマニ50形2186号車は、JR東日本のジョイフルトレイン「リゾートエクスプレスゆう」用に、電源車として改造された車両だ。「リゾートエクスプレスゆう」に連結されて走ったことから、鉄道ファンから「ゆうマニ」というかわいらしい愛称が付けられていた。

 

「リゾートエクスプレスゆう」が廃車されて以降、使われることが無くなっていたこともあり、今回のクルーズ列車用に、JR東日本から東急へ譲渡された。これから車体色などの変更が行われていくのだろう。1月末現在、東急の長津田車両工場に入場している姿が確認された。

↑「ザ・ロイヤルエクスプレス」の車両前面。隠れているが、下のプレートの中に連結器が収納される。この連結器が北海道で活躍する

 

 

【TRAINに迫る⑧】いつごろ北海道へ運ばれるのだろう?

「ザ・ロイヤルエクスプレス」は例年7月中ごろまでは伊豆急行線を走る。しかし、真夏は走る機会に恵まれなかった。夏の海水浴シーズンともなると、伊豆急行線では臨時列車が多く運転される。いわば“かき入れ時”だ。ダイヤに余裕がない。そのため、真夏は車両基地に停められていることが多かった。こうした夏期の有効活用という意味合いも北海道クルーズにはある。

 

さて、鉄道ファンにとって非常に気になるポイントは、いつごろ車両が北海道へ運ばれるのか、だろう。同プロジェクトの推進役の東急・松田高広さんへ聞いてみた。

 

「7月21日がロイヤルエクスプレスの誕生した日なので、それまではこちらにいることになります。7月下旬に運ばれて、あちらで試運転が行われることになるかと思います。詳細はこれからつめていきますが……」とのこと。スタッフもこの時期に北海道へ出かけてということになるそうだ。

↑JR貨物のDE200形式ディーゼル機関車が牽引するJR東日本の人気列車「カシオペア」。こうした輸送が7月下旬に行われそうだ

 

大手私鉄の名物車両が、遠く北海道へ出向き、クルーズ列車として走ることはこれまでなかった。まさに画期的な催しである。東急、JR北海道はもちろん、JR東日本、JR貨物の4社連携でプランが進められている。

 

振り返れば北海道の鉄道網は年々、廃線区間が増え、厳しい状況に直面している。とはいえ、北海道の鉄路には、本州以南の鉄路にはない魅力に満ちている。1年限りの“イベント”で「ザ・ロイヤルエクスレス」の運行を終わらせるのは惜しい。せひ例年恒例の北海道クルーズとなることを望みたい。

 

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