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2020/2/3 17:30

新たな発見も!「開かずの踏切」は本当に開かないのかを検証してみた

昨年秋に神奈川県内で起った京浜急行の踏切事故は、踏切の危険性への注目度を高めた。踏切事故とともに問題視されているのが「開かずの踏切」だ。

 

開かずの踏切とはピーク時の1時間に、遮断される時間が40分以上になる踏切を指す。果たして開かずの踏切はどのぐらいの時間、閉まっているのか。首都圏の代表的な開かずの踏切を訪れ、どのぐらい閉じているのか、検証した。

↑JR南武線の平間駅前踏切。朝はクルマや歩行者、自転車の踏切待ちでごった返す。最長10分43秒という遮断時間を記録した

 

【調査の方法】平日朝の8時から9時までの遮断時間を計った

調査したのは首都圏の「開かずの踏切」5か所。一部の鉄道会社や路線に偏らないようにピックアップした。なお、今回は比較しやすいように、複線区間の踏切の調査に限った。

 

調査は1月半ばの平日、朝8時から9時までの1時間とした。ストップウォッチを用意し、開いている時間と閉まっている時間(=「遮断時間」)を計測した。手動で測ったために、若干の誤差が生じたことはお許しいただきたい。

 

最初に今回、5か所の踏切を計測して分かったワースト記録を見ていこう。

最長遮断時間10分43秒JR南武線「平間駅前踏切」
遮断時間の合計55分35秒京王電鉄・京王線「芦花公園第5踏切」
遮断時間の平均時間4分56秒京浜急行電鉄・京急本線「品川第1踏切」
遮断機が閉じた回数最大20回JR山手貨物線「青山街道踏切」
列車通過本数最大48本
(上り下り合わせ)
・京王電鉄・京王線「芦花公園第5踏切」
・西武鉄道・西武新宿線「井荻第6踏切」
(2つの踏切とも通過本数は同じ)

 

上記のような結果となった。最長遮断時間はJR南武線の「平間駅前踏切」だった。ここでは「無謀横断」が多く見られた。

 

一方、遮断時間の合計が長いのは京王線の「芦花公園第5踏切」だった。とはいうもののここでは「無謀横断」は皆無だった。「無謀横断」に関しては、近くに迂回路があること、また遮断時間の長短、開閉回数の多さなど複合的な問題が絡むことが調査から分かった。

 

列車本数の多いことが、必ずしも遮断時間が長くすることに結びつかないことも分かった。たとえば西武鉄道の「井荻第6踏切」は、列車本数が京王線と並び多かったにも関わらず、今回、調査した踏切の中では、最も遮断された合計時間が短かった。どうしてこのような差が生じたのか、それぞれの踏切の事情を含めて検証していきたい。

【開かずの踏切①】最長10分以上も閉まる南武線の名物踏切

JR南武線「平間駅前踏切」(神奈川県川崎市中原区)

◆最寄り駅:平間駅

平間駅前踏切はJR南武線の平間駅を出てすぐ北側にある。県道111号線に設けられた踏切でクルマの通行量が多い。歩行者も多いが道幅が狭く歩道が無い。通勤・通学のピーク時はごった返す。国土交通省では、こうした踏切を「歩道が狭隘な踏切」として問題視している。

 

◇調査結果(調査日2020年1月14日)

通過列車数・上り(川崎方面)21本
・下り(立川方面)23本
遮断機が閉じた回数15回
遮断時間の合計49分47秒
遮断時間の平均時間3分19秒
最長遮断時間10分43秒
(AM8時6分〜17分、通過列車数:上り4本、下り5本)
開いた時間の合計10分13秒
開いた時の平均時間41秒
開いた時の最長時間1分43秒(AM8時57分〜58分)

 

実はこの踏切は、通過する列車の本数は、上り下り合わせて44本でほかの踏切に比べてそれほど多いわけではない。ところが10分以上という、最長の遮断時間を記録した。

 

その原因として、踏切が駅に近いということが影響していると見られる。南武線では快速列車は10時以降の運転で、朝の時間帯、各駅停車のみの運転となる。駅そばの踏切ということで、停車する電車、発車する電車は、みなスピードを落として踏切を通る。そのため列車1本あたりの通過時間がかかる。

 

平間駅前踏切では遮断機が下りているのにも関わらず、渡ってしまう人が絶えない。そのため踏切の両側には多くの横断禁止の案内板が立つ。

 

なぜ歩行者がこの踏切に集中するのだろうか。その理由は駅の構造上の問題にある。平間駅は駅の入口が東口のみ。そのために駅の北西部に住む人、また勤め先に行く人が、この踏切を利用する。

 

迂回路もある。ところが、迂回路を使うとかなり遠回りになってしまう。駅の南側にある平間駅跨線人道橋がその迂回路だが、写真内の地図のA地点から迂回すると5分30秒ほどかかった。踏切を通れば、わずか40秒ほどで着いてしまう。踏切が近道になる時には、なかなか利用しないように思う。

↑南武線の平間駅は東口のみ。北西方面からは踏切利用が必須となる。迂回路の案内もあるが遠回りで、階段の上り下りが必要に(左上)

 

地元、川崎市議会ではたびたび同踏切の危険性が指摘されてきた。地元では高架化事業計画を進め、令和3年から武蔵小杉駅〜矢向駅間(平間駅も含む)、立体交差化へ事業着手をする予定としている。とはいえ完成は約20年先となる。一番の解決策は平間駅の西口や地下自由通路などを設けることと思われる。ところが駅周辺には民家がすき間無く建つ。川崎市議会では短期的に効果を見いだせる踏切対策を検討しているが、なかなか容易で無いように感じた。

 

 

【開かずの踏切②】我慢の限界?遮断時間が平均して長い踏切

◆京浜急行電鉄・京急本線「品川第1踏切」(東京都品川区北品川)

◆最寄り駅:品川駅・北品川駅

「品川第1踏切」は京浜急行電鉄の京急本線・品川駅〜北品川駅間にある。JR東海道新幹線やJR在来線をまたぐ曲線区間が続く。そのため京急の電車はスピードを抑えて、このカーブ区間を走る。電車のスピードが遅めで、遮断時間が長くなりがちな踏切だ。

 

◇調査結果(調査日2020年1月24日)

通過列車数・上り(品川方面)24本
・下り(京急蒲田方面)23本
遮断機が閉じた回数10回
遮断時間の合計49分24秒
遮断時の平均時間4分56秒
最長遮断時間8分45秒
(AM8時27分〜35分、通過列車数:上り3本、下り4本)
開いた時間の合計10分36秒
開いた時の平均時間40秒
開いた時の最長時間1分8秒(AM8時41分〜42分)

 

遮断機が閉まる回数は、調べた5つの踏切の中で最も少ない。しかし、遮断時間は約49分と長い。つまり1回あたりの遮断時間が長くなっている。結果を見ても、遮断時間の平均が4分56秒と調査した踏切の中で最も長かった。

↑品川駅に近づく京急の電車が品川第1踏切を通過する。駅が近く、またカーブが続くため、すべての電車は徐行して走る

 

この踏切でも遮断機が閉まっている時に、合間を縫って横断してしまう人が多く見られた。やはり遮断時間が平均5分近い時間は、朝の少しでも急ぎたい時にはつらい、ということを物語っているようだ。

 

ちなみに迂回路もある(向かい側に出るためには3分ほど余計にかかる)。迂回路を利用している人も多く見られた。

 

品川付近の泉岳寺駅〜新馬場駅間の1.7km区間は平成30年12月21日に東京都の都市計画化が決定している。現在、準備の段階だが、品川駅と隣の北品川駅が高架化し、3つの踏切が廃止される。すでに用地の測量が始められている。

【開かずの踏切③】遮断時間は最大だったが頻繁に“開く”踏切

◆京王電鉄・京王線「芦花公園5号踏切」(東京都世田谷区南烏山)

◆最寄り駅:千歳烏山駅

今回、調べた中でもっとも遮断時間が長かったのが京王線の千歳烏山駅に隣接する「芦花公園5号踏切」。1時間の間に計4分25秒と、開いている時間の合計が最も少なかった。ところが頻繁に“開く”。さらに踏切が開くのを待っている人が少ない。

 

◇調査結果(調査日2020年1月17日)

通過列車数上り(新宿方面)24本
下り(調布方面)24本
遮断機が閉じた回数19回
遮断時間の合計55分35秒
遮断時の平均時間2分56秒
最長遮断時間6分12秒
(AM8時1分〜7分、通過列車数:上り3本、下り3本)
開いた時間の合計4分25秒
開いた時の平均時間15秒
開いた時の最長時間1分10秒(AM8時55分〜57分)

 

↑千歳烏山駅に隣接する芦花公園第5踏切には、地下自由通路が併設される(右)。エレベータもあり同通路を利用する人が多い

 

待っている人が少ないのは、踏切のすぐ横に千歳烏山駅の地下自由通路があるため。エレベータも併設されていて、自転車の利用者の中にもこのエレベータを利用している人が多い。

 

さらにこの踏切では、電車が通過して警報音が鳴り終わり、遮断機が開き、わずか1〜2秒という間隔で再度、警報音が鳴り始めることが多い。調べていて1時間中、13回は1〜2秒という間合いで再度、遮断機が閉まり始めた。

 

1〜2秒で渡り切れるのだろうか。遮断機が1〜2秒しか開かないならば、渡ることはできない。しかし、プラスアルフアの間がある。その時間を測った。

 

芦花公園5号踏切の場合に、遮断機の遮断カン(遮断機の棒)が開くのに、警報音が鳴り終わってから3秒かかる。さらに警報音がなり始めてから、左側の遮断カンが12秒で閉まり(左側通行のクルマに合わせている)、右側の遮断カンが20秒で閉まり切る。遮断機が閉まり始めたら、いち早く、踏切内から出ることが必要だが、閉まり切るまでやや間はあるということなのである。この時間は今回、調べた踏切のすべてに共通する事柄だった(各踏切で数秒の差がある)。

 

すでに京王線の笹塚駅〜仙川駅間は連続立体交差化事業の工事が始められている。2023年度には立体交差化が完了する予定で、同踏切も廃止の予定だ。

 

 

【開かずの踏切④】列車本数が多いのに意外に開く踏切の不思議

◆西武鉄道・西武新宿線「井荻第6号踏切」(東京都杉並区上井草)

◆最寄り駅:上井草駅

踏切の名は井荻第6号だが、場所は上井草駅の駅前にある。路線バスも走る上井草駅東通りが通っている。列車本数が多いのにも関わらず、意外に遮断時間が短い。遮断時間の平均は2分11秒と調べた5か所の踏切では最も短かった。

 

この上井草駅、上り西武新宿駅方面は踏切北側に、下り田無・小平駅方面は踏切南側、と駅入口が異なる場所にある。駅構内には上り下りホームを結ぶ跨線橋などの通路が無い。そのため、上井草駅近くに住み駅を利用する人は、同踏切を渡ってそれぞれのホームへ向かう。

 

◇調査結果(調査日2020年1月22日)

通過列車数上り(高田馬場方面)25本
下り(田無方面)23本
遮断機が閉じた回数19回
遮断時間の合計41分26秒
遮断時の平均時間2分11秒
最長遮断時間5分37秒
(AM8時55分〜9時1分、通過列車数:上り3本、下り2本)
開いた時間の合計18分34秒
開いた時の平均時間1分2秒
開いた時の最長時間1分43秒(AM8時40分〜42分)

 

↑上井草駅目の前にある井荻第6踏切。道路は上井草駅東通りで路線バスも通る。写真は踏切の南側から見た踏切の様子

 

この上井草駅近くの踏切は、列車本数のわりには遮断される時間の合計が予想外に短かった。速度を落とさず通過する列車の本数が多いことが、遮断時間が短くなる原因のようだ。3本に2本は上井草駅を通過する。通過による踏切が遮断される時間は約50秒強。一方、3本に1本の各駅停車が走ると踏切は1分50秒弱、遮断される。

 

開く時間が結構あるせいか、遮断中に無謀横断する人はいなかった。速度を落とさず走る通過電車も多いことから、横断は危険と判断する人が多いのかも知れない。

 

西武新宿線の井荻第6踏切は、ほかと比べて比較的、開き時間が長いものの、東京都の主導によりこの区間の都市計画が進められている。井荻駅〜西武柳沢駅(上井草駅を含む)間の事業も準備中となっている。準備の段階なので、工事完了はかなり先になると予想される。

【開かずの踏切⑤】列車本数が増えた代々木の踏切の実態は

◆JR山手貨物線「青山街道踏切」(東京都渋谷区千駄ケ谷)

◆最寄り駅:代々木駅

JR代々木駅の最寄りに2カ所のみ残されるうちの1つがJR山手貨物線の青山街道踏切。昨年の11月30日に相鉄・JR直通線の開業により、相鉄の電車が新宿駅への乗入れを果たした。このことで遮断時間が長くなっている踏切だ。路線は山手貨物線。貨物線という名前だが、現在は、埼京線、湘南新宿ライン、そして成田エクスプレスといった特急列車などが多く走る路線となっている。

 

◇調査結果(調査日2020年1月20日)

通過列車数南行(渋谷方面)19本
北行(新宿方面)19本
遮断機が閉じた回数20回
遮断時間の合計43分51秒
遮断時の平均時間2分12秒
最長遮断時間4分25秒(計測時間内)※9時以降まで遮断が続き計12分53秒となった。
(AM8時55分〜9時8分、通過列車数:南行2本、北行2本)
開いた時間の合計16分9秒
開いた時の平均時間51秒
開いた時の最長時間1分50秒(AM8時18分〜20分)

 

↑代々木駅近くにある青山街道踏切。迂回はできるものの北参道交差点を回るとプラス7分以上の時間がかかることが分かった

 

朝9時までの調査時間内には、最長4分25秒だったものの、遮断機が閉まる状況が続き、遮断時間の合計は12分53秒となった。実はこの踏切が、今回、調査した踏切の中で最長時間を記録したことになる。ただ、この時は、通常時とは異なる事情があった。この日、新宿駅でホーム上の非常ボタンが押されるというトラブルが起った。そのため、山手貨物線、山手線などを走る全列車が路線上に、一時的に停車してしまった。

 

山手貨物線には、埼京線、りんかい線、東海道線、東北本線、相鉄線など多くの路線から列車が乗入れているだけに、どこか1路線でもトラブルや遅延が生じると、踏切が開かなくなってしまう可能性を秘めている。

 

近年になって、急に列車本数の増加した踏切だけに自治体、JR東日本の対応も遅れている。地下通路などができれば、一挙に問題解決できそうだが、線路沿いはビルが多く過密化している。その対応は難しそうに思われた。

 

 

【課題をまとめると】調査の結果を見て分かったことは?

ここからは5か所の踏切の調査を元にポイントを整理してみたい。本文中で解説したものも含める。調べからは、次のようなことが分かった。

 

①速度が速い列車が多く通過する踏切は遮断時間が短くなる

②列車の通過速度が遅い踏切は遮断時間が長くなりがち

③わずか1〜2秒の合間でも遮断機が開く踏切もある

④何らかの原因で遅延が生じると①②などの規則性が崩れる

⑤遮断中、無謀な横断は列車が通過する速度が遅い踏切で目立つ

 

遮断機が開く時間がわずか1〜2秒のみであっても、遮断機の遮断カンが完全に締切られるまでは、前述のように警報器が鳴り始めてから最大20秒の時間がある(あくまで締まり始めたら、早めに踏切内から出ることが肝心)。

 

ただし、この時間は片側一車線のやや広めの道の場合だ。遮断カン1本のみの小さい踏切や歩行者専用の踏切で計測したところ、12〜13秒間で閉まった。わずかな差だが、この時間は高齢者に、やや厳しいかも知れない。しかも細い道では、遮断カンが道幅きっちり造られている踏切が多く、通り抜けるすき間がない場合も見られる。体力に衰えが見える年代には、遮断カンを持ちあげる、またくぐるなどの動きを求めるのは酷かも知れない。

 

1〜2秒という開き時間が果たして、高齢化する社会に適合しているかどうかは、結論を出しづらい難い問題を含むようにも感じた。

 

 

【開かずの踏切解決策】解決するためには立体交差化がベスト

こうした開かずの踏切、そして踏切事故をなくす策はないのだろうか。踏切問題を解決するのには路線を高架化、もしくは地下化して立体交差にするのがベストである。だが、こうした高架化、地下化は工事費も多大で鉄道会社のみの努力だけでは進めることが出来ない。そのため「連続立体交差事業」という都市計画事業が、国、自治体、鉄道会社が協力して進められる。

 

この連続立体交差事業は、京王線をはじめ、東京都内では複数の箇所で進められている。GetNavi webでは機会をあらためてこの立体交差事業に関して取り上げる予定である。

 

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