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2020/3/8 18:30

魅力はSL列車だけでない!「東武鬼怒川線」の気になる11の逸話

【鬼怒川線の逸話⑨】鬼怒川温泉駅の駅前名物といえば?

さて、そうした撮影地を巡るために途中下車し、また列車を乗継ぎつつ、SL大樹の終着駅である鬼怒川温泉駅に到着した。同駅は鬼怒川温泉の玄関口である。そのため沿線で最も賑わっている。2017年には駅前に転車台が設けられた。駅に到着したSL列車から蒸気機関車が切り離され、この転車台まで走ってきて、ぐるりと方向転換作業を行う。

 

この鬼怒川温泉駅では、駅前広場に転車台が設けられたところが“味噌”である。転車台が動く時には観光客が回りをとりかこみ、作業を見守るっている。まさしくその光景は鬼怒川駅の名物となりつつあり、娯楽となっている。

 

石炭の香り、ボイラーの熱が間近に感じられる。汽笛の音をごく身近で聞くことができり、白煙を巻き上げつつ走るシーンを目撃できる。ある年齢以上の人たちにはとても懐かしく、若い世代や子どもたちには新鮮に見える。鬼怒川温泉駅前では蒸気機関車が主役、転車台がその舞台であるかのようである。

↑鬼怒川温泉駅の駅前広場に設けられた転車台。SLが転車台でまわる姿を周囲から楽しむことができる

 

ちなみに転車台への「入線時刻」も決まっている。鬼怒川温泉駅の転車台作業は9時55分、13時40分、17時の1日3回。また起点の下今市駅の転車台作業は11時40分、15時10分、18時45分の3回となっている(いずれもSL列車運転日のみ)。

 

こうした転車台の作業を駅前で見せてしまう試みは、大手私鉄のプロジェクトならではの企画力といってよいだろう。駅前には他に、温泉好きにはうれしい無料足湯「鬼怒太の湯」が設けられる(利用9時〜18時)。時間に余裕あれば利用したい。

↑リニューアルされた鬼怒川温泉駅。駅前広場には転車台以外に、足湯(右上)も設けられている

 

筆者は長年、旅行ガイド誌の編集に携わってきたこともあり、温泉やホテル旅館に連絡を取る機会も多かった。鬼怒川温泉といえば、かつて社員旅行、団体旅行、接待旅行などの需要で成長してきた温泉地だった。そのため大型の旅館ホテルが多かった。ところが昨今、そうした利用が激減し、営業を休止せざるをえない宿も増えている。大資本による寡占化も著しい。

 

営業を続ける温泉宿にしてもインバウンド需要でひと息ついてきた宿も多い。新型コロナウィルスの流行で、海外からの利用者が激減している。温泉の素晴らしさを海外の方に知っていただくためにも、この騒ぎが早々に収まることを祈りたい。

↑鬼怒川温泉駅〜鬼怒川公園駅間では、車窓から温泉街が良くみえる。残念ながら営業休止してしまった温泉施設も多い

 

 

【鬼怒川線の逸話⑩】鬼怒川温泉駅から先、地形の険しさが増す

鬼怒川温泉駅からは、旅館ホテルや鬼怒川を眼下に望みつつ走る。進行方向右手からは山々が迫ってくる。その険しさを感じつつ、次の鬼怒川公園駅に到着する。駅の裏手には温泉保養センター「鬼怒川公園岩風呂」がある。広々した露天風呂が魅力の施設だ。駅から徒歩5分の近さ。公営のため一般510円と手ごろなのがうれしい。

 

鬼怒川公園駅付近から良く見渡せるようになる鬼怒川。駅を発車すると緑がより濃くなる。眼下の国道121号とぴったり沿って走ること4分で終着駅の新藤原駅へ到着した。起点の下今市駅から通して乗車すれば約30分の距離である。

 

駅周辺には民家が多く、開けているものの、周囲を取り囲む山々は険しくそびえ、山の中の駅という感が強い。同駅止まりの列車も多いが下車する人は少ない。鬼怒川線では鬼怒川温泉駅の印象が強いが、終着駅はあくまで新藤原駅なのである。この駅から先は野岩鉄道会津鬼怒川線の路線となる。

↑新藤原駅を発車する会津鉄道のAIZUマウントエクスプレス。同列車は鬼怒川線と野岩鉄道を走り、福島県の会津若松駅まで走る

 

ちなみに新藤原駅は大手私鉄の駅のうち関東地方最北の駅にあたる。駅の開業は古く下野軌道の藤原駅として1919(大正8)年に開業した。おもしろいことに、鬼怒川温泉駅より北側は、険しい山々が路線にせまるものの、新藤原駅まではトンネルがない。新藤原駅は険しいながらもトンネルを掘らずに鉄道を敷くことができる北の限界だったわけだ。

 

ここから先の、野岩鉄道の誕生は1986(昭和61)年と比較的、最近になってのことだった。列車は新藤原駅のすぐ北側で藤原トンネルに入る。この先にも野岩鉄道の路線にはトンネル箇所が多い。新藤原駅を境に路線は様相が大きく変わるのである。

 

 

【鬼怒川線の逸話⑪】蒸気機関車の増備でSL列車がさらに充実

鉄道好きな方は、すでにご存じかと思うが、東武鉄道では蒸気機関車の増備を進めている。まずはC11 1号機が導入される。これは琵琶湖畔を走っていた江若鉄道(こうじゃくてつどう/現在のJR湖西線の一部に路線が活かされた)が発注した1号機だ。国鉄C11形の1号機という意味ではない。北海道の雄別鉄道(ゆうべつてつどう)、釧路開発埠頭と移りその後、個人所有となっていた。東武鉄道では2018年に購入して、整備を始めている。

 

さらに真岡鐵道が走らせていたC11形325号機も新たに購入された。真岡鐵道では、C11とC12の2両のSLを所有していたが、財政難のため、検査の予算出せない状態あった。そのため、引き受け手を探していたのだった。

 

鬼怒川線を走る207号機はJR北海道から借りて運行している。東武鉄道の所有車両ではない。また1機体制では、検査や修理の期間中に、運休しなければいけない。現在、下今市駅にあるSL用車庫は増築工事を進めている。この車庫の増築が完了し、また車両の整備の目処が付いた時に、東武鉄道からSL増備のお知らせが発表されるだろう。

↑2019年の12月1日で運行終了となった真岡鐵道のC11形325号機。今後は東武鉄道で整備され再デビューとなりそうだ

 

どのような運行がその時に行われるのか、2両つなげた重連運転が行われるのか、一部の列車は会津鉄道まで走るのだろうか。

 

夢が膨らむプロジェクトは、SL大樹の運行が始まった時点で終了したわけではなく、これから大きく発展していきそうである。現在、SLを運行させている地方鉄道は、真岡鐵道の例も含め、厳しい経営状況に陥っている。JR各社や東武鉄道がSL列車を走らせていることは、単に集客のためだけでなく、長年にわたり受け継がれてきた鉄道文化を継承する上で、大きな意味があると思う。

 

今後も東武鉄道のSLプロジェクトを応援していきたい。

 

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