乗り物
鉄道
2020/7/5 21:15

コロナ禍のさなか1日も休まず走り続けた「鉄道貨物輸送」――とても気になる11の秘密

〜〜おもしろ鉄道貨物の世界をひも解く〜〜

 

JR旅客各社が緊急事態宣言の出るなか減便を余儀なくされた。一方、物流を担うJR貨物は、難しい状況の中でも、ほぼ休むことなしに鉄道貨物輸送を続けてきた。貨物列車は多くが深夜や早朝に走り、また一部の幹線に列車が集中するために目立たず、実情をあまり知らない、という方が多いのでないだろうか。

 

そこで今回は「鉄道貨物輸送」の気になる一面を見ていきたい。都心を昼に走る列車、暮らしに直結する列車など意外に興味深い事実が浮かび上がってくる。

 

【関連記事】
2020年の春どう変ったのか?ダイヤ改正を経た「鉄道貨物輸送」を追う

 

【鉄道貨物の秘密①】列島を南北に縦断する日本一の長距離列車

日本で最も長い距離を定期的に走る列車といえば、旅客列車ならば特急「サンライズ出雲」である。寝台列車がほぼ淘汰されたなかで、「サンライズ瀬戸」とともに、ほぼ孤軍奮闘の活躍を見せる。

 

一方、貨物列車まで含めると日本一、長い距離を走る列車は、どこを走る列車なのだろう。実は九州〜北海道間と列島をほぼ縦断する“超長距離”貨物列車が走っていた。九州の福岡貨物ターミナル駅と、北海道の札幌貨物ターミナル駅の間を結ぶ貨物列車で、毎日、欠かすことなく走っている。

↑秋田郊外、奥羽本線を走る福岡貨物ターミナル駅発、札幌貨物ターミナル駅行き3099列車。EF510形式交直流電気機関車が牽引する

 

列車番号は北海道行きが2070→3099→99列車(区間で列車番号が変わる)。九州行きが98→3098→2071列車となる。距離にすれば、なんと2136.6km。ちなみに日本列島は南北・東西約3000kmと言われている。これと比較すれば、列島の3分の2以上を走っていることになる。

 

所要時間は北行列車が42時間53分、南行列車が37時間6分になる。より時間がかかる北行列車の場合は、福岡を真夜中の1時55分に発車して、一昼夜走り、翌日の夜の20時48分に札幌に到着する。

 

ざっとルートを見ると、福岡貨物ターミナル駅からは、鹿児島本線を走り山口県の下関・幡生(はたぶ)操車場へ。ここから山陽本線と東海道本線を走り吹田貨物ターミナルへ。さらに吹田から東海道本線、湖西線、北陸本線を東進する。直江津駅からは信越本線、羽越本線、奥羽本線を走り続け、青森県の東青森駅・青森信号場へ。ここで折り返し、津軽線、青函トンネルを抜けて、道南いさりび鉄道線で函館・五稜郭駅(函館貨物駅)へ。五稜郭駅からは函館本線、室蘭本線、千歳線を経て札幌貨物ターミナル駅に到着する。

 

札幌から福岡への列車は、このコースの裏返しだ。日々、まさに大旅行が行われているのだ。

 

牽引する電気機関車もたびたび変わる。福岡貨物ターミナル駅〜下関の幡生操車場まではEH500形式交直流電気機関車、幡生操車場から吹田貨物ターミナル駅まではEF210形式300番台直流電気機関車。吹田貨物ターミナル駅から青森信号場まではEF510形式交直流電気機関車。さらに函館貨物駅まではEH800形式交流電気機関車。函館貨物駅から札幌貨物ターミナル駅まではDF200形式ディーゼル機関車が牽引する

 

実に機関車だけでも5車両がバトンタッチ。運転士も途中、リレーしつつ、2000km以上となる長い旅路を支えている。この列車、通常は1日1便だが、臨時便も1便が用意されている。それだけ需要があるというわけなのだ。まさに列島縦断、ロマンに富んだ列車と言って良いだろう。

 

 

【鉄道貨物の秘密②】カッコいいニックネームが付く貨物列車

貨物列車には一企業が貸し切って走らせている列車がある。モーダルシフト化が加速していることもあって、こうした専用列車が徐々に増えつつある。そうした列車は同色、同デザインのコンテナが連なることもあって、鉄道ファンの注目を浴びやすい。列車はみなおしゃれなニックネームが付けられている。

↑東海道本線を下る盛岡貨物ターミナル駅発「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」。青いコンテナで統一されているので目立つ

 

代表的な例を見ておこう。まずはトヨタ自動車の部品などを運ぶ「TOYOTA LONGPASS EXPRESS(トヨタ・ロングパス・エクスプレス)」。愛知県の名古屋臨海鉄道の名古屋南貨物駅(東海道本線・笠寺駅を経由)と岩手県の盛岡貨物ターミナル駅を結んで走る。土・日曜日をのぞく1日2往復の便があるほど、今やトヨタ自動車にとって欠かせない列車となっている。

↑東海道本線の貨物線を早朝に走る上り52列車「福山レールエクスプレス号」。この先、5時38分に東京貨物ターミナル駅に到着する

 

トヨタ自動車と並び、東海道本線を華やかに彩るのが「福山レールエクスプレス号」。写真や名前からもお分かりのように、大手運送会社、福山通運の専用列車である。福山通運の名前が大きく入った大型コンテナを載せた貨車が連なる。同列車、2013年から東京貨物ターミナル駅〜吹田貨物ターミナル駅間を走り始めた。2015年には増便、東京貨物ターミナル駅〜広島県の東福山駅間の列車も走り始めている。さらに2017年には名古屋貨物ターミナル駅〜福岡貨物ターミナル駅間にも専用列車が走り始めている。

 

運送業界では長距離ドライバーの不足が著しい。1列車で31フィートコンテナ40個が積載可能で、往復すればトラック80台分を鉄道貨物にシフトできる。それだけ鉄道貨物はモーダルシフトへの貢献度が高いとうことなのだろう。

 

【鉄道貨物の秘密③】深夜の東海道本線を快走する貨物電車は?

↑東海道本線を走るスーパーレールカーゴ。安治川口駅23時9分発で東京貨物ターミナル駅に5時20分に到着するスーパーな列車だ

 

宅配便の鉄道貨物へのシフトが著しい昨今だが、2004(平成16)年から専用列車を東京〜大阪間に走らせるのが宅配便大手の佐川急便。「スーパーレールカーゴ」というニックネームが付く列車が使われている。この専用列車のため特別な車両が開発された。

 

通常の貨物列車は機関車がコンテナ貨車などを牽いて走る。ところが、スーパーレールカーゴに使われるのは動力分散方式を採用した〝電車〟なのである。M250系電車と名付けられ、4M12Tという構成。電動車ユニットが4車両、その間に付随車ユニット12両を挟み、計16両で走る。

 

かつて筆者はM250系の取材をしたことがあった。その時、担当運転士は「通常の貨物列車と比べて、電車のように動きがスムーズですね」と話してくれた。

 

貨物電車M250系の最高運転速度は130km/h。設計最高速度は140km/hになる。この性能を活かして、東京貨物ターミナル駅〜大阪・安治川口駅間をかかる時間は下りが6時間12分、上りが6時間11分で走りきる。ちなみに1958(昭和33)年に登場した特急「こだま」は、東京〜大阪間を8時間前後かかっている。「こだま」が登場してから約40年後に登場したM250系。時代の変化が実感できる貨物列車だ。

 

 

【鉄道貨物の秘密④】真昼に新宿駅や渋谷駅を通過する貨物列車

↑渋谷駅〜恵比寿駅間を走る3086列車。目の前をちょうど正午に通り抜けていった。牽引するのはEH500形式交直流電気機関車だ

 

東京の都心では、貨物列車の姿を見ることは一部の路線をのぞいて、ほぼない。首都圏を通過して、列島の南北間を結ぶ貨物列車が多いのにかかわらずだ。都心で見ない理由は多くが武蔵野線を迂回して走っているから。武蔵野線は、都心部の混雑緩和のため、主に貨物列車の通過を念頭に設けられた。1976(昭和51)年に、都心を迂回してぐるりと回る武蔵野線の現在のルートが完成している。

 

以降、隅田川駅に発着する貨物列車以外は、都心部ではほとんど貨物列車を見かけなくなった。しかし、一部が残っており、しかも池袋駅、新宿駅、渋谷駅といった都心の駅を、ほぼ正午前後に通過する列車があった。

 

3086列車がそれで、札幌貨物ターミナル駅発、名古屋貨物ターミナル駅行き。埼京線や湘南新宿ラインの列車が走る線路を抜けていく。電車待ちをしている人たちは、まさに意表をつかれた、というような表情で赤い電気機関車+コンテナ車20両の長大編成の列車の通過を見守る。

 

山手線と平行、埼京線の電車が走る路線は、実は山手貨物線という路線名が今も残っている。古くは貨物線だったわけで、貨物列車が通過してもおかしくは無い。実際に、今も1日に3往復の貨物列車が走っている。そのうち5本は電車が走らない深夜2時台、1本は朝5時前後。唯一、3086列車のみ昼に通過していくのだ。

 

ちなみに雪が多く降り積もるような真冬には、コンテナの屋根に雪を残して走る姿も珍しくない。さすが北国・札幌発の貨物列車である。

 

 

【鉄道貨物の秘密⑤】日本海縦貫線ってどこの路線のこと?

貨物列車の専用時刻表「貨物時刻表」を愛読書としている鉄道ファンも多いのではないだろうか。この時刻表には、今も「日本海縦貫線」の時刻を掲載したページがある。さて、日本海縦貫線という路線が今もあるのだろうか。

 

この日本海縦貫線は路線の正式名ではない。日本海に面して走る北陸本線、信越本線、羽越本線、奥羽本線といった路線の総称である。北陸本線は、すでに北陸新幹線の延伸により、新潟県、富山県、石川県の一部の路線は、第三セクター化してしまい、北陸本線の名称すら怪しくなりつつあるのだが。

↑寝台特急が通ったころ人気の撮影スポットだった新潟県の鯨波海岸。いまは日本海縦貫線を走る長距離貨物が“主役”となっている

 

そんな状況の中でも、貨物列車の世界では、日本海縦貫線の名前には変化がない。まさに貨物列車の世界では“王道”、“鉄板”とも呼ぶべき路線名といって良い。ちなみに同路線には、前述した最も長距離区間を走る貨物列車以外に、関西地方と北陸、新潟、青森、北海道を結ぶ列車が走る。日本海側の都市にとっては欠かせない重要な路線であり、首都圏を通るよりも、走行距離と時間を減らすことが可能な大切なバイパスルートでもあるのだ。

 

【鉄道貨物の秘密⑥】寝台特急を牽いた機関車が最前線で活躍中

客車で定期運行した最後の寝台特急といえば特急「北斗星」「カシオペア」、そして「トワイライトエクスプレス」。2015年3月まで走ったものの、北海道新幹線の開業とともに姿を消した。その一方で、「北斗星」「カシオペア」を牽いた機関車は今も貨物輸送の最前線で活躍していた。

 

日本海縦貫線で活躍するEF510形式500番台交直流電気機関車(以降「EF510・500番台」と表記)である。この機関車ほど予期せぬ出来事で使われ方が変った機関車もない。

 

EF510・500番台はJR東日本が発注した機関車だった。2009(平成21)年度と2010年度に計15両が製造された。「北斗星」「カシオペア」の牽引機、EF81形式交直流電気機関車の置き換え用だった。北斗星の車体色に合わせた青い車体(青窯)が13両、カシオペアの車体色に合わせた銀色の車体(銀窯)が2両という陣容だった。

↑信越本線を走る下り貨物列車の先頭に立つEF510・500番台。写真の515号機はEF500・500番台のラスト機でもある

 

寝台特急2列車のために造られた機関車にしては車両数が多い。多く製造されたのには理由があった。導入当時、JR東日本は、常磐線の貨物輸送業務をJR貨物から受託していた。常磐線は、東北本線の貨物列車の迂回路として有効に活用されていた。そのため常磐線は貨物列車の本数も多かった。2010年12月1日から常磐線の貨物列車もEF510・500番台が担当した。ところが……。

 

常磐線の貨物牽引を始めて間もなくの2011年3月11日。東日本大震災が起る。常磐線は福島県内、宮城県内で不通となり、その後、貨物列車も一部区間内の列車のみとなり、それこそ本数が激減してしまった(常磐線はその後の2020年3月にようやく全線復旧)。

↑特急「カシオペア」を牽く515号機。列車のヘッドマーク+側面に北斗星のマークが入り、現在とは異なる機関車のように見える

 

JR東日本で15両が製造されたEF510・500番台だったが、真価を発揮せずに一部は、ほとんど稼働せずに東京の田端運転所で眠ることになる。さらにJR貨物からJR東日本が委託を受けていた貨物輸送の業務が2013年3月で、終了してしまった。

 

その後に定期運行していた寝台特急2本が廃止となり、EF510・500番台は、ほぼ働き場所を失った。そのため、2013年から2016年にかけて、順次、JR貨物に売却されることになった。EF510は基本番台24両が富山機関区に配置されていて、日本海縦貫線の列車輸送に活躍していた。さらに古いEF81と代わる形で富山機関区にEF510・500番台の全車が配置された。

↑EF510・500番台には特急「カシオペア」と同色の銀色の車体も造られた。写真は富山機関区に移って以降の510号機

 

↑寝台特急の牽引機として活躍した510号機。この日は色違いの北斗星を牽く。今となってはこんな風景も見ることができなくなった

 

今では青窯、銀窯が赤い「レッドサンダー」の愛称を持つ基本番台に混じって運用されている。走る範囲は、北は青森県の八戸貨物駅、南は名古屋貨物ターミナル駅、西は山陽本線の岡山貨物ターミナル駅までと走る範囲が広い。

 

残念なことといえば首都圏への列車牽引がないことだろうか。いつの日は故郷・首都圏を走る日を夢見たいものだ。

 

 

【鉄道貨物の秘密⑦】日本で唯一! 貨物列車が走る可動橋とは

↑四日市港内に架かる末広橋梁を渡るセメント列車。右手に出荷センターがある。列車が走らない時間帯は橋の一部が上がっている(左下)

 

可動橋という構造の橋がある。かつては港や大きな河川の河口部に架けられる橋の複数が可動橋だった。隅田川に架かる勝鬨橋(かちどきばし)も可動橋である。大きな船が通過する時には、上部の橋桁を上げて船を通過させた。

 

勝鬨橋の場合はその後、車の通行量が増え、河川を船舶が通ることがなくなったこともあり、今は可動しなくなっている。近年、新しい橋は、橋脚が長くなり橋桁の下を船が通れるようになっている。可動橋は次第に淘汰され、珍しくなりつつある。そうした時代に逆らうかのように、鉄道橋で唯一、可動橋が残されているところがある。

 

その橋は、三重県の四日市港内に架かる。橋の名前は末広橋梁。1931(昭和6)年に竣工された。跳開式可動橋梁と呼ばれる構造で、いま国内に残る唯一の可動鉄道橋梁となっている。そのため国の重要文化財に指定されている。通るのは四日市駅と港に面した太平洋セメント出荷センターを結ぶ貨物専用線。この橋上を三岐鉄道三岐線の東藤原駅と出荷センターを結ぶ専用列車が走る。タンク車に積まれるのはセメントの粉体。この列車をDF200形式ディーゼル機関車に牽いて走る。駅構内の入換えと同じ扱いの列車ということもあり、スピードは抑え目。1日に5往復の列車が、末広橋梁上をゆっくりと越えていく。

 

場所が四日市の港内ということもあり、見守るのは鉄道ファンや、鉄道好きの親子連れぐらい。ここでは、可動橋を渡る光景があたりまえで、風景に溶け込んでいる印象だ。

【鉄道貨物の秘密⑧】今も無蓋車が使われる国内唯一の貨物列車

ここからは、貨車に目を向けてみよう。コンテナを載せる貨車をコンテナ車(コキ車)と呼ぶ。現在、貨車は大半がコンテナ車となっている。一方で、わずかながらも専用の貨車が使われている列車がある。こうした専用の貨車で輸送する貨物を「車扱貨物(しゃあつかいかもつ)」と呼ぶ。古くは車扱貨物のみだった。貨車の多くが天井のない無蓋車か、天井が付いた有蓋車だった時代もある。

↑タンク車を連ねた安中駅行の“安中貨物”。タンク車の後ろに無蓋車(左上)を連結して走る。牽くのはEH500形式交直流電気機関車だ

 

天井のない無蓋車だが、今も実は細々とだが使われていた。鉄道ファンの間から“安中貨物”の呼び名で親しまれる貨物列車がある。安中貨物は福島県の福島臨海鉄道・小名浜駅(東北本線・泉駅を経由)と、群馬県の信越本線・安中駅の間を結ぶ。積み荷は非鉄金属生産を行う東邦亜鉛が扱う鉱石・中間製品で、同輸送のために無蓋車が必要とされた。列車は亜鉛焼鉱を積むタンク車タキ1200形と無蓋車トキ25000形の構成。「タキ&トキ」のカーキ色同色の貨車の連なりは、なかなかメカニカルな印象で楽しい。

 

ちなみに天井が付いた有蓋車の輸送は2012(平成24)年3月をもって消滅している。東海道本線、岳南鉄道(現・岳南電車)を走る姿が今となっては懐かしい。同貨車列車の廃止は貨物輸送の世界が、大きく変わったことを印象づける光景でもあった。

↑岳南鉄道の吉原駅構内で行われていた有蓋車の入換え風景。岳南鉄道内では、 “突放(とっぽう)”と呼ばれる珍しい作業風景が見られた

 

 

【鉄道貨物の秘密⑨】内陸県にとって欠かせない石油輸送列車

車扱貨物の中で、最も列車の本数が多いのが石油輸送列車だ。石油類は専用のタンク車に積まれて運ばれる。この石油輸送は北海道、九州、四国では消滅したものの、本州では今も続けられている。特に海に面していない内陸県にとって、タンク車による石油類の輸送は、欠くことができない。

 

石油タンク輸送が欠かせない内陸県とはどこなのか。長野県と山梨県、群馬県、栃木県である。特に長野県は今も石油輸送列車が活発に走る。

↑中央本線を走る石油輸送の専用列車。中央本線内ではEF64が重連でタンク車を牽くこともあり鉄道ファンの注目度が高い

 

長野県への輸送ルートを見ておこう。2つのルートが“確保”されている。まずは東側から。神奈川県の根岸駅と長野県の坂城駅(さかきえき)を結ぶ専用列車だ。出発は根岸駅、根岸線、高島線、武蔵野線、南武線を経て中央本線へ。さらに篠ノ井線、しなの鉄道を経て、長野県の坂城駅まで走る。

 

西側のルートは、三重県の塩浜駅と、長野県の南松本間を走る。塩浜駅を出発し、関西本線、東海道本線(稲沢駅で折り返し)、中央本線、篠ノ井線のルートで南松本駅へ運ばれる。坂城駅と南松本駅にはそれぞれ石油供給基地があり、ここで大形タンクローリーに積み替えて県内各地へ運ばれる。

 

ちなみに南松本駅から石油供給基地までの引込線は、松本市が管理する公共線だ。こうした施設まで目を広げてみると、貨物輸送というのは、いかに公共性が強く、暮らしに欠かせないものであるのかが見えてきて、興味深い。

↑しなの鉄道の坂城駅に隣接した石油供給基地。神奈川県の根岸駅との間を1日に2本の石油タンク輸送を行う専用列車が走っている

 

 

【鉄道貨物の秘密⑩】とても効率が良いフライアッシュ輸送とは?

車扱貨物には、実は問題点がある。輸送の効率が良くないのだ。それはなぜか? 石油輸送の例を見ればよく分かる。一方は積み荷の石油類が満載されている。ところが、戻りは空荷となる。車扱貨物は石油に限らず、戻る時には空荷となる輸送が多い。車扱貨物の宿命といって良いだろう。

↑衣浦臨海鉄道を走る専用列車。碧南市行は炭酸カルシウムを積んで走る。ディーゼル機関車は重連で貨車を牽く

 

車扱貨物なのにかかわらず、双方向、積み荷が満載で運ばれる列車がある。それは通称フライアッシュ輸送と呼ばれる貨物列車だ。どのような輸送なのか、見てみよう。

 

フライアッシュ輸送は三岐鉄道三岐線の東藤原駅と、愛知県の衣浦臨海鉄道・碧南市駅との間で行われている。三重県の富田駅(とみだえき)と愛知県の東浦駅の間は、関西本線、東海道本線(稲沢駅で折り返し)、武豊線をたどる。

↑三岐鉄道三岐線内を走る専用列車。東藤原行の列車は石炭灰(フライアッシュ)を積んで走る。同線内でも機関車の重連運転が行われる

 

運ばれている積み荷は何なのだろう。東藤原駅に隣接して太平洋セメント藤原工場があり、セメントとともに、炭酸カルシウム(石灰石の主成分)が生産されている。東藤原駅から碧南市駅への便には、この炭酸カルシウムが積まれている。

 

碧南市には中部電力の石炭火力発電所がある。石炭を燃やした時に出る排煙には有害な亜硫酸ガスを大量に含まれる。そのため、そのまま放出できない。そこで排煙脱硫装置で炭酸カルシウムと反応させて、亜硫酸ガスを取り除く。

 

一方、碧南市から東藤原へ運ばれるのは石炭を燃やした時に出た石炭灰で、この石炭灰がフライアッシュと呼ばれる。このフライアッシュはセメントの混和材として使われる。コンクリートにする時に骨材とすると、耐久性などが増す。

 

積み荷の炭酸カルシウム、石炭灰ともに役立っているわけである。貨物列車の輸送を知ることは、こうした産業構造の裏側を知る上でも役立ち、おもしろい。

↑フライアッシュ・炭酸カルシウム専用のホキ1000形。上から積み、下から降ろす構造のホッパー車が使われる

 

なお、石炭火力発電所は非効率として、政府が2030年度まで9割を休廃止させる方針という発表が先頃にあった。石炭火力発電所はCO2の排出が多いとされ、温暖化を引き起こす一つの要因ともされる。そのため世界でも非難の対象となっている。非効率な火力発電所とは1990年代前半までに造られたものとされ、碧南市の火力発電所も該当する。今後、フライアッシュ輸送がどうなるのか、気になるところだ。

【鉄道貨物の秘密⑪】後押し専用の電気機関車もそろそろ引退か?

最後は機関車の話題に触れておこう。貨物用機関車は貨車を牽くために使われる。これは常識のこと、だと思う。

 

ところが、日本で唯一、電気機関車を後ろに連結し、列車の後押しを行う箇所がある。後押しするのは山陽本線の広島貨物ターミナル駅から西条駅までの区間だ。

 

このうち勾配が厳しいのは瀬野駅〜八本松駅(はちほんまつえき)の10.6km間の通称“セノハチ”と呼ばれる。最急22.6パーミル(1000m走るうちに22.6mのぼる)の勾配が連続している。電車ならば22.6パーミルという勾配は造作ないのだが、総重量1300t、コンテナ貨車が最大26両も連ねた列車となると、この急勾配は厳しい勾配となる。

 

そこでこの区間のみ後押しする機関車が連結される。しかも通常の電気機関車ではなしに、後押し専用という機関車まで用意されている。後押し専用の機関車はEF67形式直流電気機関車だ。

↑上り貨物列車の後押しを行うEF67。独特なモーターの唸り音を谷間に響かせて、勾配区間の後押しに徹して走る

 

現在、残るEF67はEF65を改造した100番台で、連結する側の連結器のみ緩衝器がついている。そのため、連結器の装着部が厚くなっている。EF67の後継機としてすでにEF210形式直流電気機関車300番台(以降「EF210・300番台」と表記)が多く導入されたこともあり、EF67の活躍の場は徐々に狭められつつある。

 

EF67は現在、稼働している車両は3両のみ。山陽本線の貨物列車はその多くが早朝に、同区間を抜けることもあり、EF67の後押し作業も朝7時台に終了してしまう。なかなか見る機会は少ない貴重な光景となっている。

 

後継のEF210・300番台は、貨物列車の牽引も可能にした万能タイプ。今後、EF210・300番台が増強されるに従い、EF67の活躍の機会が減っていくことになる。鉄道ファンとしては残念なことだが、ここの数年のうちに、後押し専用機関車のEF67は消滅していく可能性が高いと見ていいだろう。

↑後ろから見たEF67。20両以上のコンテナ車を連ねた風景が絵になる。西条駅まで後押しした後、単機で広島貨物ターミナル駅へ戻る