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2020/7/20 10:15

今も各地で働き続ける「譲渡車両」に迫る〈元首都圏私鉄電車の場合〉

【注目の譲渡車両⑧】元日比谷線の電車が人気となった理由は?

↑熊本電気鉄道の03形は、元日比谷線を走った03系だ。外観はシルバーで元のままだが、排障器はいかついものに変更されている

 

近年、地方の鉄道会社から熱い視線をあびていた首都圏の車両がある。それが東京メトロ日比谷線を長年、走り続けてきた03系である。なぜ人気なのか。

 

その理由は1988(昭和63)年に登場した比較的新しい車両であること。アルミ製車体で腐食が少ないこと。さらに車体の長さが18m〜18.1mと首都圏を走る多くの車両の長さ20mに比べて短いということが大きい。

 

東京メトロの車両サイクルは約30年前後が一般的だが、03系の後期タイプ、もしくは代換新造車にいたっては、20年にも満たない車両だった。

 

そうした利点もあり、現在、長野電鉄、北陸鉄道、熊本電気鉄道に導入され、一部は、すでに走り始めている。

鉄道会社形式名
長野電鉄(長野県)3000系
北陸鉄道(石川県)形式名未定
熊本電気鉄道(熊本県)03形

 

最初に元日比谷線03系を導入したのが熊本電気鉄道で、03形としてすでに走り始めている。今年度中に2両×3編成が走る予定だ。

 

次いで走り始めたのが長野電鉄。今年の初夏から走り始める予定だった。ところが、コロナ禍のため、走り始める日程を発表するとファンが集まる心配があったことから、未発表のまま、すでに走り始めている。

 

北陸鉄道では浅野川線に導入の予定で、計4両が近日中に走り始める見込みだ。熊本電気鉄道の元03系は、日比谷線を走っていた当時のスタイルのほぼそのまま、長野電鉄では銀色の帯から赤い色の帯に変更されて走り始めている。

 

◆長野電鉄(長野県)3500系

↑セミステンレス車体特有の波板(コルゲート板)が特徴の長野電鉄3500系。03系の導入でいよいよ引退となりそうだ

 

長野電鉄が元03系の3000系を導入したことによって、元日比谷線の3500系が引退となりそうだ。長野電鉄3500系は元営団3000系で、日比谷線用に1961(昭和36)年から1971(昭和46)年にかけて304両が製造された。長野電鉄には計37両が譲渡された。営団3000系が譲渡されたのは長野電鉄のみで、長年、長野電鉄の“顔”として親しまれてきた。

 

同じ日比谷線出身の後輩03系の導入で、先輩が引退となるわけだ。何とも不思議な縁を感じる。ちなみに2017年には長野電鉄の3500系2両が東京メトロに戻されている。いわば2両のみ“里帰り”を果たしたわけである。

 

 

【注目の譲渡車両⑨】元都営の地下鉄が地方の主力車として走る

◆秩父鉄道(埼玉県)5000系

↑秩父鉄道の5000系。元三田線6000形で、秩父鉄道へは12両が入線し、今も主力電車として走り続けている

 

◆熊本電気鉄道(熊本県)6000形

↑熊本電気鉄道の名物区間、併用軌道区間を走る6000形。長さ20mの車両が併用軌道を走る姿が見られる。前面の排障器の形が面白い

 

東京の都心を南北に貫く都営地下鉄三田線。路線開業時に登場したのが6000形だった。製造されたのは1968(昭和43)年〜1976(昭和51)年で、計168両が1999年まで走り続けた。車体は外板がステンレス鋼、普通鋼を骨組みに使ったセミステンレスと呼ばれる車体となっている。鉄道友の会のローレル賞を受賞している。

 

この車両を整備・改造の上で、導入したのが秩父鉄道と熊本電気鉄道。車両の編成が短くなっているものの、三田線当時の水色の帯を残した姿で、往時を偲ぶ姿が楽しめる。

 

◆熊本電気鉄道(熊本県)01形

↑元銀座線01系が熊本電気鉄道01形となって名物併用軌道区間を走る。元の姿を残しつつも、熊本らしい佇まいがほほ笑ましい

 

熊本電気鉄道では03形、6000形以外にも、東京の都心を走った車両が姿を変えて走り続けている。01形である。01形はご覧の通り東京メトロ銀座線を走った01系である。01系は1983(昭和58)年から1997(平成9)年にかけて計228両が製造された。引退したのは2017年と、つい最近のことである。

 

熊本に渡った元01系は2両×2編成。西鉄テクノサービスで改造され、2015年春から走り始めている。銀座線当時、01系は、パンタグラフではなく、電気が通るサードレールから集電靴(コレクターシュー)によって集電して走っていた。熊本では、もちろん架線から集電するために、パンタグラフが新しく付けられた。パンタグラフを高々とかかげる姿は、銀座線当時を知っている者にとっては不思議に見えつつも、意外に似合っているようにも感じてしまう。

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