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2020/9/20 18:30

新車導入も! 「臨海鉄道」の貨物輸送と機関車に注目〈首都圏・東海・中国地方の5路線〉

【注目の臨海鉄道③】フライアッシュの輸送が名物に

◆愛知県 衣浦臨海鉄道:1975(昭和50)年11月、半田線開業
◆路線:半田線・東成岩駅〜半田埠頭駅3.4km、碧南線・東浦駅〜碧南市駅8.2km

↑衣浦臨海鉄道の碧南線では炭酸カルシウム専用列車が走る。KE65形が重連で牽引する臨海鉄道では珍しい光景を見ることができる

 

愛知県といえば名古屋港の港湾設備の充実度が高い。さらに、名古屋港の東側にある衣浦港(きぬうらこう)の開発も進められてきた。衣浦臨海鉄道は1971(昭和46)年、衣浦臨海工業地帯を造成するにあたり国鉄、愛知県、半田市の出資により生まれた。路線は橋りょうなどの、大がかりな路線整備が必要だったこともあり、路線の開業は会社創業後4年後の1975(昭和50)年11月に半田線が、1977(昭和52)年5月に碧南線(へきなんせん)が開業した。

 

【路線】 路線は2本あり、まず半田線はJR武豊線の東成岩駅(ひがしならわえき)と半田埠頭駅を結ぶ。一方の碧南線はJR武豊線の東浦駅と碧南市駅(へきなんしえき)を結ぶ。

 

両路線はそれぞれ輸送品目が大きく異なる。半田線は沿線の工場の製品を積み込んだコンテナ輸送が主流となる。碧南線はここのみという輸送が行われている。碧南市駅へ向かう下り列車では発電所で使う炭酸カルシウムを、帰りの上り列車では石炭発電所の副生成物である石炭灰(フライアッシュ)を運ぶ。使われる貨車はホキ1000形で、車体には「フライアッシュ及び炭酸カルシウム専用」と書かれている。

 

鉄道貨物輸送では、下り上りどちらかが空荷になることが多いものの、この輸送の場合は空荷のない理想的な「双方向輸送」が可能になることもあり良く知られている。

↑終点の碧南市駅には炭酸カルシウムを降ろす施設と、石炭灰を積む施設がある。石炭灰は三岐鉄道の東藤原駅に向け輸送される

 

【車両】 衣浦臨海鉄道で使われるディーゼル機関車はKE65形。国鉄のDE10形ディーゼル機関車とほぼ同タイプ、同性能で、色もほぼ変わりない。形式称号の刻印が異なることと、車体横に衣浦臨海鉄道の名前が入るので見分けが付くが、遠くから見たらDE10そのものである。同社ではこのKE65形が4両体制で貨物輸送に対応している。そして自社路線だけでなく武豊線の起点、大府駅まで乗り入れ、大府駅構内でJR貨物へ貨車牽引の引き継ぎを行う。

 

ちなみに検査などにより機関車が足りなくなった時にはJR貨物愛知機関区のDD51形式が貸し出され、KE65形と組んで走る姿が確認されている。今後、愛知機関区のDD51は引退となり、DF200形式が代わっていく可能性が強い。もしまた応援機関車を必要とする時にはどうなるのだろう。気になるところだ。

↑JR大府駅まで乗り入れている衣浦臨海鉄道のKE65形。写真は構内で発車待ちをする半田埠頭行きコンテナ列車

 

【注目の臨海鉄道④】工業地帯の貨物輸送が活況を見せる

◆愛知県 名古屋臨海鉄道:1965(昭和40)年8月創業
◆路線:東港線・笠寺駅〜東港駅3.8km、南港線・東港駅〜知多駅11.3km(名古屋南貨物駅〜知多駅間4.4kmは休止中)、東築線・東港駅〜名電築港駅1.3km

↑東港線を走るND60形。沿線の春は桜が楽しめる。右上は東港駅の構内。同臨海鉄道では東港駅がターミナルとして機能している

 

古くから工場の進出が盛んだった名古屋港湾地区。ここでは長らく名古屋鉄道によって貨物輸送が行われてきた。しかし、名古屋南部臨海工業地帯の造成に伴い、貨物輸送の需要増大が予測された。そのため1965(昭和40)年から1969(昭和44)年にかけて敷設されたのが、名古屋臨海鉄道だった。この路線により、東海道本線の笠寺駅と臨海地区が直結された。

 

【路線】 現在の路線は、東海道本線笠寺駅〜東港間の東港線と、東港駅から南へ延びる南港線、東港駅から北へ向かう東築線(とうちくせん)がある。ほか汐見線・東港駅〜汐見町駅3.0km、昭和町駅・東港駅〜昭和町駅1.1kmの路線は休止中。また名古屋南貨物駅から先、知多駅までの区間も休止中となっている。

 

名古屋臨海鉄道の輸送は通常のコンテナ輸送以外に、専用列車の運行が目立つ。トヨタ自動車の部品を運ぶ専用列車「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」が名古屋臨海鉄道の名古屋南貨物駅と、岩手県の盛岡貨物ターミナル駅との間を土・日曜日を除き、1日に2往復している。この輸送は導入時に、船による輸送やトラック輸送よりも鉄道貨物輸送を効率的に活かす輸送例として注目された。

 

専用ホッパ車を利用した石灰石輸送もこの鉄道の名物列車となっている。こちらは岐阜県の西濃鉄道の乙女坂駅からJR東海道本線を経由して、名古屋臨海鉄道沿線にある日本製鉄名古屋製鉄所まで運ぶ輸送だ。

 

ちなみに東築線では、名古屋鉄道の電車の甲種輸送が行われる。頻繁ではないものの、この路線の輸送も興味深い。終点の名電築港駅では、名古屋臨海鉄道の線路と、名鉄築港線の線路とが平面で交差する箇所が設けられている。ほぼ直角に交差するダイヤモンドクロスで、同区間では平面交差を横切る列車の珍しい走行シーンを見ることができる。

↑東港駅を発車したホッパ車を連ねた石灰石輸送列車。西濃鉄道の乙女坂へは「石灰石返空」列車として引き返す

 

【車両】 現在の主力機関車はND60形で水色の車体に黄色、またはピンク色のラインが入る。このND60形と、55トン機のND552形という陣容となっている。DD552形は、国鉄DD13形と同タイプの機関車で自社発注機に加えて、国鉄のDD13形の譲渡を受け利用していたが、徐々に廃車も出てきている。

 

ND552形の自社発注機は車体ボディの上に前照灯が1つ付いていて、愛嬌のある顔立ちで目立つ。これらの機関車は名古屋臨海鉄道も自社で全般検査を行っている。ちなみに名古屋臨海鉄道では、JR貨物の名古屋貨物ターミナル駅の入換え業務も受託している。そのために同社のND552形が名古屋貨物ターミナル駅に常駐、構内で入換え作業に従事している。

↑DD552形に牽かれてJR笠寺駅に到着する「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」。笠寺駅で方向転換して盛岡貨物ターミナル駅へ向かう

 

【注目の臨海鉄道⑤】旅客列車も走る西日本唯一の臨海鉄道

◆岡山県 水島臨海鉄道:1948(昭和23)年8月路線開業(1970年に水島臨海鉄道へ移管)
◆路線:水島本線・倉敷市駅〜倉敷貨物ターミナル駅11.2km、港東線・水島駅〜東水島駅3.6km

↑倉敷貨物ターミナル駅構内で入換え作業を行うDE70形。JR山陽本線への乗り入れ列車にも使われている

 

水島臨海鉄道の路線の始まりは古い。太平洋戦争中、水島地区に造られた三菱重工水島航空機製作所の専用鉄道として1943(昭和18)年に設けられた。戦争遂行のための軍需施設用に造られた路線だったのである。

 

終戦後の1948(昭和23)年に地方鉄道法に準拠した鉄道として営業を開始、倉敷市に譲渡され市営鉄道となった。さらに1970(昭和45)年4月に水島臨海鉄道となっている。今回紹介する臨海鉄道路線の中で、唯一、旅客営業も行う臨海鉄道でもある。

 

【路線】 JR山陽本線の倉敷駅に隣接した倉敷市駅と倉敷貨物ターミナル駅を水島本線が結ぶ。旅客営業は倉敷市駅と三菱自工前駅で行われている。また途中の水島駅と東水島駅間には港東線が走る。後者は貨物列車専用の路線となっている。

 

貨物はコンテナ列車が大半で、JR岡山貨物ターミナル駅から倉敷駅構内の連絡線を通って、同臨海鉄道へ乗り入れる。そして東水島駅、もしくは倉敷貨物ターミナル駅(臨時列車のみ)へ向かう。上りは東水島駅発の東京貨物ターミナル駅行きの直通列車も1日に1便が走っている。

↑岡山機関区のDE10形式の入線もある。岡山貨物ターミナル駅と東水島駅間を1日に2往復ほど貨車を牽いて走る

 

【車両】 DE70形と名付けられた70トン機が1両と、DD50形という50トン機が使われている。主力として走るのはDE70形だ。このDE70形は国鉄のDE11形にあたる機関車で、性能はDE10形とほぼ同じ。DE11形とDE10形の違いは、DE10形が重連での統括制御機能が有効なのに対して、DE11形は同機能を持たないこと。また客車牽引を考慮しなかったために蒸気発生装置を持っていないという違いである。

 

DE70形は岡山貨物ターミナル駅までの直通運転が可能なようにJR線に合わせて安全機器が装備されている。一方で、JR貨物岡山機関区のDE10形式も水島臨海鉄道へ入線している。臨海鉄道とはいうものの、所有の機関車はほぼJRのものと同じでJR貨物の機関車も線内に乗り入れるとあって、他の臨海鉄道路線とはかなり異なる光景が目にできる。

 

ちなみに保有する旅客車両も興味深い。主力のMRT300形以外に元JR久留里線を走った国鉄形気動車キハ30形に、キハ37形・38形が在籍している。この国鉄形気動車は朝夕、そしてイベント開催日に運転されている。こちらも見逃せない存在となっている。

↑倉敷貨物ターミナル駅の奥にある車両基地。DE70形の横にDD50形の姿や、国鉄形気動車の姿が確認できる

 

↑こちらは東水島駅の入口。ちょうどDE70形牽引の貨物列車が到着し、構内での入換えが行われていた

 

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