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2021/4/21 21:00

ホンダ「シビック TYPE R」を試乗してスポーツカーの魅力について考えてみた

ホンダのスポーツモデルの代名詞的な位置付けになっているのが「シビック TYPE R」。1997年にグレードとして追加され、現行モデルは5代目となります。多くのメーカーが高性能車をテストするニュルブルクリンク北コースにおいて、FF市販車世界最速の記録を残していることを記憶している人も多いでしょう。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック TYPE R

価格:475万2000円

 

搭載されるエンジンは2000ccのVTECターボで最高出力320PSと最大トルク400Nmを発生。正直なところ、公道ではフルパワーを発揮するシーンはありません。それでも、このマシン、発売から間をおかずに予定していた販売台数が終了するほどの人気を博しています。実際に最新型に試乗しながら、その理由について考えてみました。

↑ハイパワーなだけでなく、超軽量クランクトレーンや軽量アルミ製ピストンを採用し、俊敏なレスポンスと13km/L(WLTCモード)という好燃費を両立するエンジン

 

熟成の域に達したマイナーチェンジ

2020年10月にマイナーチェンジを果たしたこのモデル、次期型「シビック」の登場が噂されている状況でもあり、現行の“最終バージョン”といえる完成度。生産拠点である英国工場の閉鎖も決まっているため、今後の去就も注目されるところです。

↑歴史ある“TYPE R”のエンブレムが次期型にも受け継がれることが期待される

 

マイナーチェンジによる変更点は、まさに熟成の域に達したものです。押しの強いスタイリングはそのままに、フロントグリルの開口面積を拡大し、冷却性能の向上とダウンフォースレベルを強化。ブレーキには2ピースタイプのフローティングディスクを採用し、ハードブレーキング時のフィーリングを向上させるなど、サーキットを主舞台とするマシンらしい進化を果たしています。

↑前後バンパーの形状を小変更し、冷却性能をアップ。ダウンフォースも向上させている

 

ベースモデルは「シビック」のハッチバックですが、「TYPE R」は遠目で見てもベース車とは異なるオーラを放っています。張り出したブリスターフェンダーや大型のリアスポイラー、タダ者ではない雰囲気の20インチホイールなど、圧倒的な存在感があります。

↑大型のスポイラーだけでなく、小さなエアロスタビライジングフィンが刻まれているのが本気のマシンである証

 

サスペンション性能もブラッシュアップされています。電子制御のアダプティブ・ダンパー・システムやサスペンションブッシュのアップデートによって、ハンドリング性能を向上。スポーツ走行時のダイレクト感を増すとともに、荒れた路面での接地性・制振性も進化させています。

↑熱に強いツーピースディスクを採用することでサーキットでのブレーキフィールを向上

 

↑3本のセンター出しマフラーから響くエキゾーストノートに気分がさらに高まる

イメージカラーの「レッド」で彩られた内装

内装に目を向けてもステアリングの表皮がアルカンターラとなり、シフトノブの形状も従来の丸型からティアドロップへと変更。より操作精度を高めました。

↑ステアリングホイールは握りやすくフィット感の高いアルカンターラに

 

↑ティアドロップ形状となったシフトノブは、触れただけでシフト位置が把握しやすい

 

「TYPE R」のイメージカラーであるレッドに彩られた内装に気分を高ぶらせながら、ホールド性に優れたバケットタイプのシートに体を滑り込ませます。着座位置は低く、これぞスポーツマシンという視界。エンジンをスタートさせると、迫力ある音が耳だけでなくお腹にも響いてくるように感じました。

↑体を包み込むようにホールドするバケットシートにも「TYPE R」のエンブレムが

 

↑本気のスポーツモデルでありながら、後席の居住性も高く、シートを倒せば広大なラゲッジスペースが出現することもこのマシンの魅力

「TYPE R」はクルマを操る“楽しさ”を味わえる

6速MTのシフトを操作してクラッチをつなぐと、外観や排気音からすると拍子抜けするほどスムーズに走り出せます。街中を走らせていても乗り心地はかなり快適。マイナーチェンジ前のモデルよりもサスペンションのゴツゴツ感はやわらいでいる印象で、アダプティブ・ダンパー・システムの制御が緻密になっていることが、低速域での乗り心地にも効いているようです。

 

このマシンにはCOMFORT、SPORT、+Rの3つの走行モードがありますが、特にCOMFORTモードでの快適性が向上している印象でした。とはいえ、COMFORTといえども操作に対するダイレクトなレスポンスはスポーティーなクルマ並み。SPORTモードでは本気のスポーツカーになり、+Rモードではレーシングカーに変貌するという印象です。

↑3つの走行モードを備えるが、+Rモードはほとんどサーキット専用という仕上がり

 

混み合った街中を走っても、一昔前のスポーツカーのようにストレスを感じることがないのは、現代のスポーツマシンらしいところです。とはいえ、このマシン本来の性能の一端が感じられるのは高速道路やワインディングに足を伸ばしてから(“本領”を発揮するには、サーキットに持ち込まなければなりませんが)。とにかく操作に対してダイレクトにクルマが動いてくれるので、操るのが楽しくて仕方ありません。

 

高速道路を制限速度内で走っていても、アクセルやブレーキに対する反応が俊敏なので意のままに車体を動かすことができます。気持ち良く変速できる6MTの操作感もこれに一役買っていて、ついつい必要ない変速をしてしまうほど。コーナーではブレーキングからステアリングを切り込むと、スパッとノーズが入って思い描いたラインに乗ってくれます。そこからアクセルを踏み込んでも、ハイパワーなFF車にありがちなアンダーステアが顔を出すこともなく、むしろイン側に引っ張られるような感覚。荷重をかければかけるほどタイヤがしっかりと路面を掴んでくれるようで、ついついスピードを上げてしまいそうになります。

↑高性能のFFマシンらしく、フロントからグイグイ向きが変わっていく感覚が楽しい

 

公道での試乗だったので、このマシン本来の性能を味わうことはできませんが、その一端を感じるだけでも十分に刺激的でした。ワインディングでの試乗後はうっすらと汗ばんでいたほどで、クルマを操るのがスポーツというか一種のアクティビティであると感じられたほど。マニュアルの変速操作はもちろんですが、ステアリングやアクセル操作に対してクルマがリニアに反応する楽しさ、そしてサスペンションやステアリングから伝わってくる情報が脳を刺激する気持ち良さを味わうことができました。

 

純粋にこのマシンの“速さ”に惹かれる人も多いのでしょうが、こうしたクルマを操る“楽しさ”を味わいたくて「TYPE R」を選んだ人も少なくないのではないでしょうか。実際にステアリングを握っている間は、パソコンやスマホに向かっているときとは違う脳の回路がつながっているような感覚があり、それこそがこの時代にスポーツマシンを選ぶ価値なのではないかと思います。

↑こんなマシンがガレージにあれば、仕事の合間に少し乗るだけでも良い気分転換のアクティビティになりそう

 

SPEC【TYPE R】●全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm●車両重量:1390kg●パワーユニット:1995cc直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:235kW[320PS]/6500rpm●最大トルク:400N・m[40.8kgf・m]/2500〜4500rpm●WLTCモード燃費:13.0km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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