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2022/2/5 6:00

今や希少!国鉄形機関車がひく「石巻線」貨物列車&美景を旅する

【石巻線を巡る④】起点の小牛田駅で見ておきたいこと

ここから石巻線の旅を楽しむことにしよう。石巻線の起点は小牛田駅だ。同駅では東北本線と、陸羽東線に接続している。石巻線の乗り場は4番線ホームとなる。対面する3番線は東北本線の上りホームだ。

 

4番ホームの東側には側線があり、南には小牛田運輸区がある。ホームと東西自由通路からは、広い運輸区に停車する気動車や貨物列車が見渡せる。ここにはJR東日本が導入した事業用のレール輸送車、キヤE195系の姿を見ることも多くなっている。同車両はJR東海が開発したレール輸送車キヤ97系のカスタマイズ版で、2017(平成29)年の導入時には、こちらの小牛田運輸区に最初に配置された。そうした車両群を小牛田駅では確認しておきたい。

↑東西自由通路から見た小牛田運輸区、下にキハ110系2000番台が停まる。右下は小牛田駅の西口駅前

 

小牛田駅から走る石巻線の列車は1日に18本、そのうち4本が前谷地駅(まえやちえき)から気仙沼線の柳津駅まで走る列車、2本が途中の石巻駅行き、2本が前谷地行きとなる。終点の女川駅まで走るのは1日に11本で、1〜2時間に1本という間隔で運行されている。

 

所要時間は小牛田駅から石巻駅までは33分〜40分ぐらい、女川駅までは1時間15分〜30分といったところだ。

 

小牛田駅から12時42分発の石巻駅行き2両編成へ乗り込む。乗客は5割のシートが埋まる程度で空いていた。出発して間もなく、東北本線の線路から離れ、右にカーブして非電化区間へ入っていく。

 

小牛田駅の周辺に建ち並ぶ民家もすぐに途絶え、左右に水田が広がる風景が続く。このあたりは仙北平野で、銘柄米ササニシキ以外にも最近は、「金のいぶき」といった新しい米が開発され、栽培されている。

↑東北本線の線路から離れ右カーブする石巻線。駅の側線や運輸区から延びる線路とこの付近で合流。電化設備もここまで

 

【石巻線を巡る⑤】前谷地駅で気仙沼線とBRTに接続する

小牛田駅の次の上涌谷駅(かみわくやえき)付近からは国道108号が平行して走るようになる。国道108号は石巻と秋田県の由利本荘市を結ぶ2級国道で、石巻線に付かず離れず走っている。2つめの涌谷駅は石巻線のなかでも、石巻に次いで駅付近に民家が建ち並らび賑わいが感じられる駅だ。とはいっても無人駅なのではあるが。

 

小牛田駅から石巻駅までは高低の差があまりなく、ひたすら平野部を走る。車窓から見る風景は単調だ。涌谷駅周辺の賑わいが絶えると、再び水田風景が広がる。次は前谷地駅だ。この駅は東日本大震災後に大きく変わった駅の一つといって良いだろう。

↑石巻側から前谷地駅構内を見る。気仙沼線の乗換駅だったホームも今は閑散としている

 

↑前谷地駅前(左上)にあるBRT気仙沼線の乗り場。1日5本の気仙沼駅行きが発車する。気仙沼駅までは2時間20分ほどかかる

 

震災前は気仙沼線が気仙沼駅まで走っていて、石巻線との乗換駅でもあった。列車本数こそ少なかったものの、気仙沼駅発、涌谷駅、小牛田駅経由の仙台駅行きの快速列車が1日に2本が走っていた。いま、快速列車は走らず、みな普通列車のみだ。

 

しかも、気仙沼線の鉄道区間として残るのは前谷地駅〜柳津駅間のみで、走る列車は1日に9本だ。その先は気仙沼駅までBRT(バス・ラピッド・トランジット)化されている。一方で、前谷地駅前にはBRTの発着所が設けられ、ここから気仙沼行きのバスが5往復している。列車本数が少ない分、バスが補っているわけだ。

↑気仙沼線と石巻線の分岐ポイント。左が気仙沼線の線路。石巻線の線路をちょうど小牛田行きの列車が走ってきた

 

【石巻線を巡る⑥】石巻駅で仙石線と合流。さて駅前には

前谷地駅の先で気仙沼線と別れた石巻線は、再び広々した田園風景の中を走る。次は佳景山駅(かけやまえき)だ。この駅の先で左から少しずつ大きな堤が近づいてくるのが見える。

 

堤の規模から見て北上川の堤防なのかな、と思ったのだが、調べると旧北上川のものだと分かった。旧北上川と北上川の違いは後ほど触れたい。

 

鹿又駅(かのまたえき)、曽波神駅(そばのかみえき)と読みの難しい駅が続く。旧北上川の堤がさらに近づいてみえるようになり、高速道路の高架橋をくぐる。地図などでは「三陸自動車道」と記される自動車専用道だ。正式には「三陸縦貫自動車道」とされ、仙台市と岩手県宮古市を結ぶ。区間ごとに道路名が異なり分かりにくい道路だが、国道45号として運用され、大半の区間が無料の高速道路だ。同道路が全通したことから、宮城県から岩手県まで三陸海岸沿いの地域の復興工事がより円滑に進むようになっている。一方で平行する気仙沼線、大船渡線は鉄道路線としての復旧は断念され、BRT化された。

 

前谷地駅からはすでに石巻市内へ入っている。とはいえ、石巻の市街地は車窓から見えない。曽波神駅を過ぎるとようやく、民家が増えてくる。右から仙石線の高架が近づいて、合流すると間もなく石巻駅へ到着する。

↑石巻線の石巻駅。駅前には石ノ森章太郎氏の漫画作品のキャラクターを模したモニュメントが飾られている

 

↑石巻駅の3番線に停車する石巻線の列車。向かいには貨物列車が機関車の機回しのために入線していた

 

石巻駅で降りると気がつくことがある。石巻線の貨物列車が入っていることと、駅舎の正面などに漫画家の石ノ森章太郎氏が生んだキャラクターのモニュメントが飾られていることだ。石ノ森章太郎氏は宮城県の登米市(とめし)出身。石巻市内には石ノ森萬画館という記念館(漫画ミュージアム)があることから、こうしたモニュメントが飾られているのだ。

 

ちなみに、東日本大震災の際に石巻線の沿線では曽波神駅から石巻駅、さらに東側の陸前稲井駅が沿って流れていた旧北上川へ津波が遡上し、さらに渡波駅(わたのはえき)が海辺だったこともあり、浸水被害にあっている。

 

【石巻線を巡る⑦】車窓から眺める万石浦の景色が素晴らしい

石巻駅を出発すると間もなく石巻湾に流れ込む旧北上川を渡る。非常に大きな河川で、こちらが北上川の本流と勘違いしてしまうほどだ。

 

現在、北上川は気仙沼線の柳津駅と一つ手前の御岳堂駅(みたけどうえき)の間に架かる北上川橋梁付近で、本流と旧北上川が分岐。本流は石巻市の北東にある追波湾(おっぱわん)へ流れ込んでいる。

↑石巻市街側から望む旧北上川。川幅の広さに圧倒される。本流は追波湾に流れる側なのだが

 

旧北上川橋梁を渡り、堤防を降りると間もなく陸前稲井駅だ。このあたりはまだ内陸の趣だ。大和田トンネルを越えると、石巻湾に面した渡波地区となる。線路は海に向かって降りて行くとともに、大きくカーブして渡波駅へ到着する。渡波駅からは再び丘陵部に近づいていき万石浦駅(まんごくうら駅)、沢田駅と走る。この沢田駅から次の浦宿駅(うらしゅくえき)までの、万石浦沿いを走る区間が石巻線で最も車窓景色が素晴らしい。

↑万石浦に沿って走る石巻線の列車。穏やかな内海で、車窓からの眺めが楽しめる

 

万石浦は、砂嘴(さし)の伸長などによって、入り江が湖となった海跡湖(かいせきこ)とされる。万石浦の場合は渡波付近の砂嘴が伸びていき湖が生まれた。とはいえ、今も石巻湾とは水路がつながっている。豊かな自然が残り、アマモ、アサクサノリ、ウミニナといった絶滅危惧種が生息する地でもある。海苔やカキの養殖も盛んだ。

↑万石浦の北東端にある浦宿駅に停車する石巻線の列車。浦宿駅はホーム一つの小さな駅だ

 

【石巻線を巡る⑧】震災で大打撃を受けた女川だったが……

前述したように浦宿駅までは東日本大震災後、2年で営業再開された。ところが、次の女川駅までの路線復旧は4年後の2015(平成27)年3月21日となる。不通だった期間には、浦宿駅前にバス停が設けられ、女川駅まで代行バスが運行されていた。

 

浦宿駅を発車した列車は国道398号沿いを走り、徐々に堤を上がっていく。女川トンネルを通り抜けたら右カーブ、間もなく終点の女川駅へ到着する。

↑現在の1面1線の女川駅のホーム。以前のホームから200mほど内陸に移動され設けられた

 

この女川駅は、以前の場所から変更されている。震災前には今よりも200mほど海側にあった。駅前には多くの建物があり、賑わいを見せていた女川地区を最大14.8mの大津波が襲う。ちょうど女川駅に停車していた気動車は遠く山の上の墓地まで流された。

 

そんな女川駅もきれいに造り直されている。昔の駅があったエリアは「シーパルピア女川」というショッピングモールに模様替えされ、ショップや飲食店が建ち並ぶ。その向こうには穏やかな女川港が見通せる。

↑女川駅の駅舎には日帰り温泉の「女川温泉ゆぽっぽ」が設けられ、駅前に足湯もある(左)。足湯が利用できない時もあり要注意

 

新しい駅舎には町営の「女川温泉ゆぽっぽ」が館内にある(2月現在一部の施設のみ営業中)。実は旧駅舎に隣接して同じ名前の施設があった。この施設の駅側には朱色の国鉄形気動車キハ40系518号車が停められていて車内は休憩所として利用することができた。このキハ40系も数100m流され、横転し、無残な姿になってしまった。そうした被害の状況をあらためて見聞きし、大震災の怖さを改めて痛感させられた。

↑女川駅の駅舎から望むシーパルピア女川。このちょうど中ほどに旧女川駅があった。その先に女川港が見える

 

↑シーパルピア女川の「地元市場ハマテラス」には干物を販売する店も。天日干しする磯の香りに思わず引きつけられる

 

きれいに造り直された女川の街をぶらり散歩、磯の香りを楽しみしつつ、女川駅に戻り、上り列車に乗り込んだ。さて次は石巻駅へ戻り、貨物列車の動きに注目してみよう。

 

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