乗り物
2016/10/15 14:12

なぜホンダは、鈴鹿で惨敗したのか?


鈴鹿サーキットでの開催が28回目を数えた2016年F1第17戦日本グランプリは、メルセデスAMGに所属するニコ・ロズベルグの優勝で終わった。2位は19歳のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3位はルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)だった。予選2番手だったハミルトンはスタートに失敗し、一時は8番手まで順位を落とした。その後追い上げて3位まで挽回したのが、レースのハイライトのひとつだった。

 

この結果、メルセデスAMGは4戦を残して2016年のコンストラクターズチャンピオン獲得を決めた。2014年以来、3年連続の快挙で、メルセデス一強の時代がつづく。

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2016年日本GPのホンダは惨憺たる結果だった

 

2015年から名門マクラーレンにパワーユニット(エンジンに2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたハイブリッドシステム)を供給することで誕生した「マクラーレン・ホンダ」は不発に終わった。予選は15番手(フェルナンド・アロンソ)と17番手(ジェンソン・バトン)、決勝レースは16位(アロンソ)と18位(バトン)だった。

 

入賞ポイントは10位までのドライバーとチームに与えられるが、マクラーレン・ホンダの成績は、「惜しい!」と言えるような結果ではない。予選でも決勝でも、参戦1年目のハース(フェラーリ製パワーユニットを搭載)の後塵を拝する体たらくで、ホンダのみならず、名門チームであることを自負するマクラーレンにとっても「痛い」結果だった。

 

シーズンを通じてポイント獲得とはほど遠い成績で推移しているなら、日本GPの結果も「またか」で済んだことだろう。だが、上り調子で推移していただけに当事者の落胆は大きかった。どれほど調子が上がっていたかというと、前戦マレーシアGP では、300 戦目を迎えたバトンが予選9番手で、アロンソは22番手だった。

 

予選でトップ10に入ることは、戦闘力の高さを示すひとつの目安である。第15戦シンガポールではアロンソが予選9番手を記録しており、予選トップ10の常連になりつつあった。マレーシアでアロンソが22番手(すなわち最後尾)からスタートしたのは、パワーユニットを交換したことによるペナルティを受けたからだった。ホンダは鈴鹿での好成績獲得をにらみ、アロンソにのみアップデートしたパワーユニットを投入していた。

 

マレーシアのレースでは、最後尾からスタートしたアロンソが猛烈に追い上げて7位入賞を果たした。バトンも9位に入り、第6戦モナコ以来となる今季3回目のダブル入賞を果たした。というような経緯で母国GPを迎えたので、ホンダは当然、2台が予選でトップ10に入り、2台が10位以内でフィニッシュしてポイントを持ち帰ることを、最低限の目標に掲げた。にもかかわらず、待っていたのは惨憺たる結果だったのだ。

 

■昨年だったらポールポジションも狙えたタイム

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ホンダのエンジンはメルセデスと比べ100馬力近く劣っていたと類推できる

トップに君臨するメルセデス勢との性能差はあまりにも大きく、少しでも早く尻尾を捕まえたいところだ。メルセデスはパワーユニットの熱効率が47%に達していると公言しているが、この数字がエンジン単体の熱効率を示しているとすれば、1.6L・V6直噴ターボエンジンは800馬力近い最高出力を発生していることになる。当事者から得た情報をもとに類推すると、ホンダは100馬力前後劣っていることになる。とてつもなく、大きな差だ。

 

ホンダは現行フォーマットになってから1年遅れて参戦したが、パワーユニットの開発に着手したのは1年遅れどころではなく、入念に準備していたメルセデスやフェラーリ、ルノーに対して数年レベルで後れをとっていた。厳然と存在する開発の遅れを取り戻さなければ、いつまで経ってもトップとの差は解消しない。エンジンの出力差のうち大部分は、開発期間の差だ。

 

昨年はエネルギー回生システムの性能面で競合と大きなギャップがあることが明らかになり、ドライバーを大いに落胆させた。今年はエネルギー回生システムの性能に大きな進歩があり、この領域での差はほぼ解消した。残るはエンジン単体の性能差だ。

 

そうした「差を詰める」開発と並行して、手持ちの技術をいかに上手に使って成績に結びつけるかが勝負を左右する。この領域に関してはパワーユニットを開発するホンダ単独ではどうしようもなく、車体開発を行うマクラーレンとの協調が欠かせない。両者の歯車がうまくかみ合ったのが前戦シンガポールだった。そして、「一体どうしたの?」と言いたくなるほどにうまく行かなかったのが、ホンダにとって1年で一番大事なイベントである日本GPだったのである。

 

条件が異なるので参考程度にしかならないが、昨年の日本GPと今年の日本GPのデータを比較してみよう。マクラーレン・ホンダのアロンソは昨年の予選で1分34秒785を記録した(14番手)。今年の予選でアロンソが記録したタイムは1分32秒689である。

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今年のアロンソのタイムを昨年に置き換えれば、トップ争いができるレベル

昨年の予選最速タイムはロズベルグが記録した1分32秒584で、2番手はハミルトンの1分32秒660だった。歯車がかみ合わずに不発に終わったとはいえ、今年のマクラーレン・ホンダを1年前の鈴鹿サーキットにタイムスリップさせて持ち込めば、ポールポジションを争うことができる実力だ。だが、実際のところ下位に沈んでいるのは、メルセデスも昨年より2秒速くなっているからだ(ポールポジションのロズベルグは1分30秒647を記録)。

 

概念的に説明すれば、マクラーレン・ホンダは2秒速くして2017年の日本GPに戻ってきたとしても、メルセデスには追いつくことはできない。向こうも2秒速くなっていることが予想できるからだ。4秒速くして初めて、対等に勝負できる。相当に高いハードルだし厚い壁に違いないが、それを承知でホンダはF1にチャレンジしているのだ。

 

【著者プロフィール】

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『ル・マン/WECのテクノロジー 2016』(ともに三栄書房)など

世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々:http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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