乗り物
2016/10/16 14:00

2輪と4輪でこんなに違う! 似て非なるヘルメットの世界

2輪用のヘルメットと4輪用のヘルメットでは、共通点もあるが異なる点もある。ご存じだろうか。頭部を保護する機能が共通しているのは言わずもがなだ。例えば「アライ」の場合は、衝突時の衝撃を「吸収する」のではなく、「吸収しなければならないエネルギーを最小限にする」ために、滑らかな球面フォルムとしている。路面に接触するケースがある2輪の場合は、「衝撃を逃がす」ことが大事だからだ。

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↑動きの激しいライダーの視界を確保するため、2輪用ヘルメットは開口部が大きくなっている

 

2輪と4輪のヘルメットを見比べてみると、2輪の方が開口部は大きく、4輪の方が小さいことに気づく。理由のひとつは視野の確保だ。ライダーは前傾姿勢をとるのが基本だが、姿勢は状況に応じて上下左右に慌ただしく動く。だから、上下に加えて左右方向の視野を確保することが重要で、そのために広い開口部を備えている。

 

2輪のライダーに比べれば、4輪のドライバーは極端に体の動きが少ない。だから開口部は小さくていいのかというと、理由は別にある。耐火性の確保だ。2輪のアクシデントで怖いのは転倒だが、4輪で怖いのは火災である。ヘルメットは頭部を衝撃から守る装置として機能するだけでなく、火や熱から守る装置として機能する。だから、開口部は必要最小限に留めているのだ。

 

火や熱に対する備えはシールド(バイザー)にも込められている。アライヘルメットによれば、飛び石などの衝撃に耐えるためなら1.5mmの厚みがあれば十分だが、2輪用は余裕を見て2.0mmにしている。4輪用は3mm厚だが、これは火や熱が侵入する時間を稼ぐためだ。

 

F1のヘルメットは2011年から、バイザー強化パネルの装着が義務づけられている。2009年のハンガリーGPで、先行車から脱落したコイルスプリングが250km/h以上で走行していたフェリペ・マッサ(当時フェラーリ、現在はウイリアムズで今季限りでの引退を表明)の頭部を直撃。頭蓋骨を骨折し、意識を失ったマッサは速度をほとんど落とすことなくタイヤバリアに突っ込んだ。

 

このアクシデントをきっかけに、マッサのアクシデントで部品が当たったバイザー上部に、ザイロンとカーボンを組み合わせた強化パネルを装着することが義務づけられることになった。ザイロンは防弾チョッキなどにも用いられる合成繊維で、強く、変形しにくい性質を持つ。その性質が好まれて、ドライバーのコクピットを構成するモノコックの貫通防止パネルとしても用いられている。

 

■F1のヘルメットはカーボン一択!

ヘルメットに話を戻そう。2輪用ヘルメットと4輪用ヘルメットでは、内装材に関する考え方も異なる。ライディング中、激しく体を動かし発汗する2輪用の場合(プロライダーを想定)、ベンチレーションが欠かせない。4輪用もベンチレーション機能は欠かせないが、通気性に軸足を置いているのは2輪用の方だ。4輪用は難燃性を重視した内装材になっている。

 

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↑F1のヘルメットはカーボン製。内側には難燃性を重視した素材を採用する

2輪用と4輪用のヘルメットは素材も異なる(アライの場合)。2輪はGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で十分、4輪は規則をクリアしようとするとCFRP(炭素繊維強化プラスチック。通称「カーボン」)になる。ここで言う2輪とはMotoGP、4輪はF1を指す。

 

カーボンは軽くて強い材料特性が好まれ、モータースポーツを問わず採用領域が広がっている。素晴らしい素材には違いないが、2輪で用いるにはGFRPに勝る素材はないというのが、アライの主張だ。冒頭で触れた「衝撃を受け止めずに逃がす」特性にすぐれているからである(カーボン製ヘルメットを供給しているメーカーもある)。

 

F1のヘルメットは2004年7月のフランスGPから、各社一斉にカーボン製に切り替わった。安全性向上対策の一環だが、新しく導入された規格(衝撃吸収試験)をクリアしようとすると、(それが実際のアクシデントを忠実に再現しているかどうかは別にして)カーボン以外に選択肢がないのが実状。安全性を追求した結果といより、規格が先に立っている(軽さのメリットはある)。

 

F1ではアライとベル(アメリカ)がヘルメットメーカーの二大勢力で、他にミハエル・シューマッハが使用したことで勢力を伸ばしたシューベルト(ドイツ)と、新興勢力のスティーロ(イタリア)のユーザーがいる。マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソは今季、シューベルトからアライにスイッチ。以前もアライユーザーだったので、戻ったというべきか。

 

同じくマクラーレン・ホンダのジェンソン・バトンもアライユーザーだが、アライヘルメットに切り換えた最大の理由は、フィット感が良く、それまで悩まされていた頭痛がなくなったからだそう。なんだかアライヘルメットの宣伝っぽい内容になってしまったが、他意はない(し、優れた製品であることは実績が証明している)。

 

【著者プロフィール】

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『ル・マン/WECのテクノロジー 2016』(ともに三栄書房)など

世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々:http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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