これまで100km/hとなっていた日本の高速道路の制限速度が、来年度、一部区間で110km/hに引き上げられるという発表が警察庁からあった。警察庁は今年の春、制限速度を120km/hに引き上げることを発表。その第一段階としての引き上げだ。110km/hになるのは、東北自動車道の花巻南〜盛岡南IC(インターチェンジ)間と、新東名高速道路の新静岡〜森掛川IC間。どちらも120km/hを想定して設計された区間だそうだ。日本は1963年に最初の高速道路である名神高速道路が完成して以来、制限速度はずっと100km/hだった。それが変わるのだから画期的な出来事だ。
筆者は5月、テレビ朝日系列の番組「ビートたけしのTVタックル」でこの問題が取り上げられた際、賛成側の専門家として出演した。そのときに話した内容を、もう一度書いていこう。
まずこうした動きは、日本に限った話ではない。21世紀になってから、オランダ、デンマーク、スウェーデンなどで、10〜20km/hの制限速度引き上げが実施されている。しかもデンマークでは2004年に引き上げてから9年間、死亡事故が減少したというデータもある。速度を上げると事故が増えそうなはずなのに、なぜ減ったのか。制限速度と実勢速度という、2つの速度の存在が関係している。
実勢速度とは、実際に高速道路を自動車が走行している速度のこと。制限速度が100km/hの日本でも、実勢速度は120km/hぐらいの場所がけっこうあることを、高速道路を多用するドライバーなら知っているだろう。でもみんなが実勢速度で走っているわけではない。制限速度を守って走っているドライバーだっている。同じ道路に2種類の速度のクルマが混在していることになる。当然ながら追い越しが頻発し、事故の可能性が高まる。
欧州の一部の国で制限速度が引き上げられたのは、制限速度と実勢速度を近づけることで、多くのクルマを同じ速度で走らせ、危険性が高い追い越し行為を減らすことが目的だ。その結果デンマークでは現実に死亡事故は減った。
実は日本でも、一般道では制限速度の引き上げが行われている。警察庁は2009年に新たな速度規制基準を発表しており、これまで40〜60km/hだった制限速度を、生活道路は30km/hに引き下げる一方、自動車の通行機能を重視した構造の道路では70・80km/hに引き上げていくと発表している。その後2011年までの2年間で、9区間の制限速度が改定されている。たとえば栃木県を走る国道408号線、通称「鬼怒テクノ通り」の一部では、60km/hだった制限速度を80km/hに引き上げている。こちらも実勢速度に制限速度を合わせたようだ。
そもそも実勢速度とは、今のクルマを今のドライバーが運転して、多くの人が安全だと思っているスピードだ。半世紀前のルールより、現状に即したルールを導入したほうが良いのではないだろうか。
さらに110km/hへの引き上げは、重大事故につながる大型トラックが絡んだ事故の減少にも効果があると言われている。大型トラックは従来どおり、制限速度80km/hのままだからだ。これまでは乗用車と大型トラックの速度差が小さかったので、トラックが追い越しを掛けるシーンが多く、それが事故を誘発した。しかし速度差が大きくなれば、そもそも追い越しをしないわけだから、危険なシーンは減る。
といっても、すべての乗用車が当該区間で110km/hで走らなければいけないわけじゃない。あくまで制限速度だから、80〜100km/hで走っても良い。「110km/hで走るの怖い」と考えている人、誤解しないように。そしてもうひとつ。追い越し車線を追い越しもせずに走り続けることは違反となる。「後ろから煽られてばかりでムカつく」というあなた、ちゃんと走行車線を走っていますか?
【著者プロフィール】
森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。
THINK MOBILITY: http://mobility.blog.jp/