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2022/11/14 20:45

トヨタ新型「シエンタ」は買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカー

2022年8月、トヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」がフルモデルチェンジして、3代目になった。そして、なにを隠そう自動車評論家の私、清水草一は2代目シエンタの元オーナー。その元オーナーから見て、新型シエンタの進化の度合いはどうなのか? 試乗レビューした。

 

【今回紹介するクルマ】

トヨタ/シエンタ

※試乗グレード:ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD

価格:195万円~310万8000円(税込)

 

清水的に新型のデザインはかなりストライク!

全方位的に正常進化しております! 私が先代型のシエンタを買ったのは、なによりもスタイリングが気に入ったからだった。先代シエンタは、明らかにシトロエンのデザインの影響を受けていた。シトロエンっぽいアバンギャルド感のある、かなり尖ったデザインで、当時のトヨタとしては画期的だったのである。ボディカラーも、蛍光イエローをはじめとして攻めたラインナップが揃い、しかも2トーンが主役だった。私は迷わず蛍光イエローと黒の2トーンを選びました。

 

新型のデザインはどうかというと、シトロエンというよりもフィアットやルノーっぽく、アバンギャルドというよりもポップでお洒落さんである。デザインの方向性は微妙に変わっているが、ラテン系(イタリアやフランス)の方向性はそのままで、高級感よりもセンスの良さや親しみやすさでアピールしている。個人的には、かなりストライクだ。

↑ヘッドライトは、1灯の光源でロービームとハイビームの切り換えが行えるBi-Beam(バイ ビーム)を採用

 

↑ライン状に発光するテールランプとドット柄ストップランプが印象的なリアのコンビネーションランプ。蜂の巣みたい

 

先代シエンタのルックスは、ちょっと頑張って背伸びした感がなきにしもあらずだったが、新型は、ラテン系のデザインを完全に着こなしている。ボディカラーも、カーキなど渋いアースカラーが中心で、日本の風土に馴染んでいるような気がする。

 

先代シエンタが登場してからの7年間で、トヨタのデザイン力は目を見張るほど向上し、明らかに自信を付けている。絶好調時の打者はボールが止まって見えると言うが、そういう状態ではないだろうか?

 

5ナンバー枠を守ったボディサイズや、室内のパッケージングは、先代型からあまり変わっていない。トヨタによれば、「ボディサイズを変えることなく2列目スペースを大幅に拡大。1列目~2列目席間距離が80mm、ヘッドクリアランスが25mm広くなり、ノアやヴォクシーと同等サイズのスペースを確保できました」とのことだが、先代型オーナーにも、その点はあまり実感できなかった。

↑ステアリングヒーターを装備。一方、直射日光を遮る「後席サンシェード/セラミックドット(スライドドアガラス)」(Zに標準装備)は、後席の人に快適なひとときを与えてくれる

 

シエンタは、先代型ですでに究極とも言えるパッケージングを実現しており、全長わずか4200mm台のボディの中に3列シートを飲み込ませ、しかも3列目でもギリギリ大人が座れる程度の広さを確保していた。そこからさらに大幅に改良するなど、物理的に不可能なのだ。

↑シートのアレンジ次第で収納スペースもしっかり確保できる。ベビーカーや自転車なども収納できるぞ

 

このクラスのミニバンの3列目シートは、基本的に緊急用。いざというときだけ使うもので、普段は収納し、そのぶんをラゲージスペースとして使うのが合理的だ。

↑7人乗りの場合のラゲージスペース。開口部が広くて低床のラゲージで、荷物の積み込みがラクラク! 荷室高1105mm、荷室フロア高505mm、荷室長1525mm(セカンドシートクッションからの長さ)、荷室長990mm(シートスライド最前端時)

 

シエンタの3列目シートは、先代モデルから2列目の下に「ダイブイン」させることが可能だったが、新型もそれを踏襲している。この機能は、改善の余地がないほど素晴らしい。ライバルのホンダ・フリードは、3列目シートを跳ね上げて収納するタイプなので、そのぶんラゲージの天井や左右寸法が制限される。3列目ダイブイン収納は、シエンタ伝統の美点なのである。

↑「天井サーキュレーター」(オプション)は、車内の空気を効率的に循環させ、室内を均一に快適にしてくれる

 

走りが気持ち良いし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強い

では、走りはどうか。試乗したのは、ハイブリッドモデル。3気筒1.5Lエンジンとモーターを組み合わせた、トヨタ伝統のTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)である。先代シエンタのハイブリッドは4気筒の1.5Lだったが、今回は3気筒。より効率が高められている。

 

ヤリスから採用されたこの3気筒ハイブリッドシステムは、実に恐るべきパワーユニットである。3気筒と言ってもフィーリングに安っぽさは微塵もなく、逆にコロコロと適度なビートを奏で、回転フィールが心地よい。4気筒時代と比べても、断然走りが気持ち良くなっているし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強くなった。

↑試乗車は1.5Lハイブリッドシステム。走りの良さと優れた燃費性能を両立している

 

シエンタハイブリッド(7人乗り・X)の車両重量は、1350kg(FFモデル)。同じパワーユニットを積む「ヤリスハイブリッド」に比べると約300kg重い。そのぶん加速が遅いわけだが、日常使用で遅さを感じることは皆無だ。さすがにアクセルを床まで踏み込んだ時の加速感は、「あれ、こんなもん?」とはなるが、それは車両重量を考えれば仕方ない。とにかく普通に使うかぎり、「加速が快感です!」とすら言える。

 

足まわりは、やや引き締まっていてスポーティ。低速域では、路面からの突き上げがそれなりにある。このクルマの用途を考えれば、もうちょっとソフトでもよかった気はするが、このサスペンションのしっかり感が、高速道路では安心感に変わる。ある程度速度を上げると、乗り心地の固さはまったく気にならなくなり、安定感が増していく印象だ。

↑地上から330mm「低床&フラットフロア」(Zに標準装備)を採用。高さはもちろん、段差もなくフラットでお子さんやお年寄りの方にも優しく、安心して乗り降りすることができる。最小回転半径は5.0mだ

 

新型シエンタは、トヨタの新世代ボディ骨格であるTNGAが採用されている。TNGA採用車は、どれもこれも走りの質が見違えるほどよくなっているが、シエンタも例外ではない。先代型も悪くはなかったが、新型はさらに一、二段向上している。

 

燃費は、ハイブリッドのFF(2WD)モデルで、 WLTCモード28.5km/L。ヤリスハイブリッドの36.0km/Lに比べると大幅に見劣りするが、実燃費で20km/L程度は楽勝で、ちょっとエコランに徹すれば30km/Lくらいまで伸びる。これ以上燃費が良くても、あまり意味はないかも……と言うほどの低燃費だ。

 

大人が7人乗れて、これだけ燃費がよければ、ヘタなEVよりはるかにエコ。新型シエンタは、買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカーではないだろうか。

 

SPEC【ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD】●全長×全幅×全高:4260×1695×1695㎜●車両重量:1350㎏●パワーユニット:1490㏄直列3気筒エンジン●エンジン最高出力:91PS/5500rpm●エンジン最大トルク:120Nm/3800-4800rpm●フロントモーター最高出力:80PS●WLTCモード燃費:28.5㎞/L

 

撮影/池之平昌信

 

 

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